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第五十四夜 拾ったMD

 一時期、ジャズにハマってたんだけどさ、今は全然なんだよね。もう一切、家じゃ音楽を聴かないことにしてるんだ。店で流れてたり、車のラジオなんかでたまたま何か音楽がかかっているっていうんなら、いいんだけど。


 俺なんかとてもコレクターなんて、いえるもんじゃなかったけど、いわゆる名盤ていわれるレコードもけっこう持ってたし、全部で千枚くらいはあったかな。処分したら、結構な額になったよ。人にもやったけど……。


 ああ、話そうとしたのは、その理由なんだ。


 なぜ、音楽を聴かなくなったか。


 あれは何年前だったかな……四年か、五年前。仕事帰りに家に帰ってくる途中、MDが落ちているのを見つけたんだよね。


 表面に、何かでこすれたような傷跡が少しあるだけでさ。赤っぽい色で、メーカーはおなじみの会社だった。


 それをだな、何が入ってるんだろう、面白い曲でも入ってるかもな、って思って、拾って帰ったんだ。


 よせばいいのにね。でも、その日はそのまま忘れてしまった。


 何日かたって、やっぱりこれも仕事から帰って服を着替えてるときなんだが、思い出したんだ。そういえば、こないだMDを拾ったな、って。


 それでシャワー浴びてからさ、冷蔵庫から缶ビール出してきて、ちょこちょこ何かつまみながら、聴いてみたんだ。深夜だったから、音量を絞ってな。俺んちのMDプレーヤーは、たいしたスピーカーにつなげてなかったし。


 音楽ではなかった。


 最初は雑音が入っていて、よく聞き取れなかった。


 何分かたつと、だんだんその雑音が消えていった。誰かがしゃべっている。


 年配の男性が、何かあいさつをしているみたいだった。


 俺は缶ビールをテーブルに置いて、耳をすませてみた。


 そしたらさ、次の瞬間なんだよ。急に音量があがって、はっきり聞こえたんだ。


「故人も、さぞ喜んでいると思います」


 いや、これにはびっくりしたね。


「世間一般でいうなら、必ずしも幸せな亡くなり方ではありませんでしたが……」


 もう、慌てて消したさ。


 何だろう、これはと思った。葬儀屋が録音したものだろうか……。それにしても気持ち悪いじゃないか。すぐにゴミ箱に投げ入れて、お気に入りの曲を集めたMDを、かわりに入れたんだよ。


 変なMDの出した音を、ちゃんとしたMDの音で上書きするような……何いってるか、わかんないよね。でも、とにかくそうしなきゃ、機械の方がいかれるんじゃないかって気がしてたんだ。


 でもなあ、聞こえてきたのはこれが……。


 くぐもったような読経の声でさ、それどころか、合間にすすり泣きの声すら入ってるんだよ。


 しばらく呆然としてたんだけど、また年配の男性のあいさつが始まってね。それでハッとして、電源を切ったんだ。


 慌ててMDを取りだして調べてみたけど、まぎれもなくおれが編集したものだった。


 こんなことがあってから今に至るまで、そう、今までずっと。ずっとだ。家じゃ、まともに音楽が聴けなくなったんだ。


 レコードでも、CDでも、みんな葬式の実況になっちゃうんだ。


 買ったばかりのCDでも、そうだったよ。レンタルもダメ。


 それ以上に俺が参ったのはね、少しずつ葬儀の様子が変わってることだったんだ。


 司会役の葬儀屋さんが、まあ最初のあいさつをするわな……そんな場面を何回か聞いてる。


 そこで読み上げれる故人の名前が、毎回違ってる。


 お経も、そのときによって違うようだ。


 ああ、MDは他のゴミと一緒に出したよ。きちんとゴミ収集車が持ってったと思う。


 それで、たいしたコレクションでもないけど、全部売り払ったってわけさ……。


 ああ、ひとつつけ加えるとすればさ、俺は確かめていないんだ。


 俺だけがそう聞こえるのか、他の人にも同じように聞こえるのか。


 もしかしたら、俺が売ったものにはさ、そんなものが聞こえるレコードやCDなんかがあるかもしれない。


 俺の幻聴だったら、いいんだけどね。

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