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第五十夜 因果

 何十年も昔の話ですがね。


 小学校にあがったばかりの男の子ふたりが、廃屋で遊んでいた、と、このようにお思いください。


 壁に落書きしたり、土足でソファーに乗っかって飛び跳ねたり、手当たりしだいに物を壊したり。大人の目の届かないところで、その年頃のやんちゃ坊主がやるようなことばかり、していました。


 ふたりが探検気分であちこち歩き回って、物置の扉を開けたときのことです。


 そこには、背をむけて、宙に浮かぶ男がいました。


 ふたりはそれが何を意味するのか、まだわかりませんでした。


「おじさん、何やってるの?」


 声をかけても返事はありません。


「ねえ……! おじさん!」


 ひとりが足に抱きついて揺らしました。


「変だよね!」


「おじさん!」


「ねえ!」


 子供が足を揺らすたびに、男の死後も首をいましめて離さない荒縄が、音を立てました。


 梁とこすれあって、きちっきちっと鳴く……。


 もちろん反応はありませんから、ふたりはすぐにつまらなくなって、その場を離れ……その、変なおじさんのことを忘れてしまいました。


 いいだけ遊んで家に帰ったあと、足を揺らした少年は、服の汚れをとがめられまして、それをきっかけに、廃屋で遊んだのがばれてしまいました。


 しかし、両親がかんかんになって怒ったのは、廃屋に無断で入ったことではなく、そこで何人もの人間が首を吊っていたからでした。


 泣きじゃくる少年の言葉は要領を得ませんでしたが、何とか断片をつなぎあわせてみると、両親は青ざめてしまいました。


 次の日、少年の両親からの通報で、首を吊った男は遺族の元に帰ることができました。


 いいえ、まだ話は終わっていないのです。


 それから数十年たち、ふたりが老いの坂を下りだした頃に、足を揺らした方が、入院することになりました。


 両膝の関節に腫瘍ができたためで、やがてそれを取り除く手術をしたのですが、失敗に終わりました。神経を傷つけられ、自力歩行ができなくなってしまったのです。


 主治医からあらかじめその可能性を知らされていましたので、医療ミスとして訴えることも、もちろんできませんでした。


 もうひとりの方が、彼の病気を人づてに聞き、見舞いにやってきました。


 足を揺らした方がいいます。


「こうやってずっと寝てると、昔のことばっかり思い出すんだよなあ……」


「ああ、そうかもしれんよな……」


 ふたりは高校まで同じ学校でしたから、昔話はなかなか尽きず、いつしか廃屋での出来事にも話が及びました。


 だんだんと記憶が鮮明になっていったのですが、人生経験をじゅうぶん積み重ねてきたふたりには、重すぎる記憶でした。


 だんだん押し黙りがちになっていき、最後にはただ手をあげて互いに別れを告げるしかありませんでした。


 ……このとき見舞いに行った方が、私なんですよ。


 おととしの夏、足腰を悪くしていた私は、階段で足を踏み外しましてね。転落したんですが打ちどころが悪くて、亡くなったんです。


 え? そうですよ。何をそんなに驚いて……あなただって、うすうす気づいてたんじゃないんですか?


 私はもう死んでるんです。

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