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第四十七夜 素直な子

 小説の舞台にもなったところだから、イニシャルにしてもすぐにわかってしまうかもしれないわよ。


 A市の北にあるS峠での話ね。昔はどうだったか知らないけど、今は道路もよいし、きついカーブもなくて走りやすい道よ。事故が起きたって話も全然聞かないわね。


 五年前に車を運転していて、南の方から、つまりA市の市街地から北へ向けて走っていて、S峠を通ったの。


 最初に、道を歩いている女の後姿を見かけたんだけど、これがね、まだ秋に入ったばかりだっていうのに、冬物のコートを着てたのよ。クリーム色のね。


 変な人だなって思ったけど、夜で、しかもかなり遅い時間……日付がもう変わってた頃だし、私ひとりだったしね、錯覚か何かだろうってそう気にせずに追い抜いたのね。


 ところがね、それからしばらく走ったら……。そのクリーム色のコート姿の女が、また歩いてる。やっぱり、こっちに背をむけてね。


 まあ、偶然だろうって通りすぎて、ちょっと行ったところで、バックミラーをのぞいてみたら……いつまでたっても、そこに映りこんでこないの。


 いやあ、怖いっていうのはなかったなあ……何ともベタだなあ、とは思ったけど。


 それから次の市街地、W町に着くまでに、五、六回はその女を見たのね。


 後姿だからいいけど、こっちに向かってきてるのを何回も見るんなら、ちょっと嫌だな……って思ってたらさ、W町を抜けてしばらくすると……。


 うん、そうなの、そのクリーム色のコートを着た女が、こっちに向かって歩いてきたのね。


 いやあ、血みどろだったり、青白かったりはしなくて、ごくふつうの若い子って感じだったなあ。怖いっていうより素直な子だな、と思った。


 それ以上のことは、何もなかったしね。

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