表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/78

第四十六夜 水の音

 ずいぶん昔の話で、元祖ウォークマンが発売されてまもなくの頃のことです。


 ラジオの深夜番組をカセットテープに録音して、編集するのが趣味という男がいたんですね。勤め人なので、ふだんはタイマーで録音して、休日にそこからピックアップして、好きな曲だけを一本のテープにまとめる。


 カセットテープがどんどん増えていきまして、ゆうに千は越えていたそうです。


 ところが、ある日の出勤中、ウォークマンで編集したテープを聴いていると、奇妙な音に気づいたんです。


 曲の背後に……かぶさるようにして、水の音がするんです。


 小川のせせらぎのような静かなものではなくて、ゴゴーッと、増水した川の流れを思わせる音でした。


 洋楽で、当時よく聴かれていたグループ。制作サイドの演出とは考えにくい内容でした。


 その人は、当然、ノイズを疑いましたね。でも、ステレオにも金をかけているし、好きなものですから機器の相性も熟考して組んでいます。調子も、すこぶるいい。カセットテープの方だって、もちろん重ね録りなんてしていません。


 試しに電源を切ってみたところ、ゴゴーッという洪水のような音は消えました。


 耳がおかしいのか、それとも気づいていないだけで、どこかでノイズが入ったのか。


 その晩、帰宅してすぐに、曲を流していた番組にあたってみました。そのカセットテープに録音するときも、いつものように番組をまるごと入れてたんですね。


 その洋楽が紹介される、ちょっと前でした。


 パーソナリティが、こういっていました。


「今年の夏は、海難事故が多いですね。先月はM県で、今月に入ってすぐK県で……」


 そのあたりで、ゴォーッという音がしはじめました。


「まだ小さい子供だっていうのに、いたましいですね……」


 そこで数度、ぶちっ、ぶちっ――と、電源を落としたときのようなノイズが入りました。


 それでも依然として、ゴォーッという音はつづいています。


「本当にみなさん、気をつけてくださいね」


 そのとき、一瞬だけ、声が聞こえたんです。


「おかあさん!」


 その人ははっとして、テープをとめました。


 巻き戻して、ふたたび再生しました。


 でも、その声らしきものは、二度と聞けませんでした。


 その人って、実は私の父の同僚だったんです。子供の頃に一緒に遊んでくれたり、お菓子をもらったりしているうちに、こんな話を聞かされたんです。何かの話のついでにね。


 今もそのカセットテープがあるかどうかは、わかりません。確かめてみたくはありますね。


 残念ながら私が中学にあがる頃に転勤してしまって、今はもう連絡先がわからないんですけれども。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ