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第四十五夜 安産告知

 うちは初めての子が流産していましてね。


 妊娠がわかったときは私らももちろん喜んだんですが、それ以上に、親族中がたまたまひさしぶりの妊娠、出産だって大騒ぎしてね。その分、流産しちゃったときには落胆もひどかったんです。


 妻はそれから、ことあるごとに泣いてばかりで、だんだん精神が不安定になっていったんですね。あのときああしていれば、こうしていればって常時、思い詰めましてね。


 その頃は本当に大変だったんですが、微力ながら私も様々フォローしまして、多少曲折はあっても何とか明るさを取り戻していったんです。


 五年くらいたつと、再び子供を授かったんです。


 でも、やっぱり初めのようには手放しで喜べない……というと子供にはかわいそうですが、妻はそこまで慎重にしなくても、というほど慎重になりましたし、何かのたびに、まただめかもしれないと口にするようになったんです。


 そんなことを妻がいうたびに、なだめるように努めたのですが、だんだん疲れてきましてね。おまけに仕事が忙しい時期に入りまして、毎日ベッドについたら朝まで全く起きない、なんて日が続きました。


 それで、目をさましてみると、妻が一晩中眠れなかった、などという日がたびたびあって。何だか寝たのがすごく悪いような気分になったものです。


 私も精神的に不安定になっていたからでしょうかね。ある夜のころです。


 夢枕に、ふたりの男の子が立ったんです。


 ひとりはやや背が高くて、三歳くらい。もうひとりは歩ける……というより、ようやく立てるようになったくらい、という印象でした。


 背の高い方が、まるで大人のような口調で話しかけてきました。


「今度の子を、つれてきました」


「もしかして、君は……」


 何となく予感めいたものがあって、そう問いかけると、


「はい、ごめんなさい」と、ゆっくり頭を下げて私が、


「いや、こっちの方こそ」というのを遮りました。


「お父さんお母さんは何も悪くありません。こうなるしかなかったのです」


 そうしてその子は、ちょっと寂しそうに笑ったんです。


「でも、次は大丈夫です。僕が守りますから……」


「そうか……。しかし、いったい……」


「いいえ、心配いりません。必ず、僕が守りますから」


 そこで、目が覚めたんです。私は涙を流していました。


 ベッドを出て顔を洗っていると、寝室の方で物音がしたかと思うと、妻がやってきました。


「ちょっと聞いて、不思議な夢を見たの」というんです。


 はい、そのとおりなんです……妻も、全く同じ夢を見たんです。


 それを機に、妻も私も落ち着きを取り戻しました。ええ、もちろん無事に出産しまして。


 来年の春、その子は小学校にあがります。


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