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第三十三夜 Doppelgänger

 ふだんは残業ってあまりないんですけど、決算の頃は毎日、終電まぎわまで仕事なんです。うちの決算は三月末で、まだちょっと肌寒いくらいの時季ですね。


 そうして忙しくしているある晩のことです。


 やっぱり帰りが遅くなりまして、乗ったのは終電でした。


 自分のうちの最寄駅についたら、早く帰りたいから改札を駆け足で抜けまして、アパートに向かったんです。


 住宅街に入ったら、もうその時間には歩いている人はいないんですよね。いつもは。


 でもそのときは、ふっと気づくと背後に人の気配があったんです。


 小走りに歩きながらふりむくと、十メートルくらいでしょうか、女の人が背をむけて立っていたんです。


 その人を見て、なぜか無性に腹が立ちました。


 ボブカットの髪で、クリーム色のスーツを着ていました。それって、私のそのときの格好にそっくりだったんです。


 背の高さも、ほぼ同じでした。こっちに背中を向けていますから、私とは進行方向が逆ですけれども、そんな人とはすれ違っていません。


 連日の終電帰りで疲れているからっていっても、睡眠時間は削らないようにしていましたし、もう何年も勤めている会社です。決算期に忙しいといっても、ある程度は慣れています。


 だいたい、いくら夜道でも、街灯の光で気づくはずです。


 もしかすると、あの人はここまで私を追いかけてきて、私がが振り返ると同時に、背中を向けたんだろうか……。


 そこでもう、考えるのをやめました。


 また五十メートルほど小走りに走って、足を止めないまま振り向いてみると――


 やっぱり十メートルほどの距離を保って、その人が背を向けて立っていました。


 気持ち悪い、嫌だ。


 もう夢中で走ったんです。アパートに戻って、鍵をさしこむのももどかしくノブをまわして、扉を開けると――


 そこに、あの女が背をむけて立っていたんです。


 私、気絶しちゃったんですね。目の前が暗くなって、意識がなくなる寸前に聞いたのは、こんな言葉でした。


「遅かったわね――」


 その声も、私そっくりでした。


 気づいたらあたりが明るくなっていて、私は玄関で倒れていました。いえいえ、まずしたことは時間を確認。まだ出勤するまで余裕があるって判断して、シャワーを浴びて着替えて……もういちど化粧しまして。


 バタバタしながら部屋の中を確認したんですが、これといって変なところはありませんでした。荒らされてもいませんでした。


 ええ、出勤しましたよ。ふだんどおり。


 肌はボロボロだし、玄関で気絶してましたから、身体のあちこちが痛かったんですが、そんなこともいっていられなくて。


 その日の夜、また仕事が終わって帰ってくるときには、その人は現れませんでした。


 あんなに似ているんだから、私の代わりに仕事をしてくれればいいのにって思ったんですけどね。


 それくらい、私とそっくりなでした。

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