第4話 アーティファクト
目の前に現れたのは、赤く目を光らせた3メートルはあるであろう熊のような生き物だった。まるで喰ってやろうか言い出さないばかりにこちらを威嚇している。
「魔物ってあの魔物?」
零太は混乱しているようだ。実際このようなファンタジーめいた経験をするも、命の危機に直面のも初めてだからだ。
「あのって、どの魔物よ!レイ下がって!オープン」
一気に戦闘態勢に入るミリア。
(おかしい。このクラスの魔物が出るなんて聞いたことない。やっぱりジョーカーの影響なの)
『風の衣』
ミリアが唱えると風がミリアの周りを包み込んだ。それと同時に人を押しつぶしてしまいそうな大きな魔物の手がミリアにふりかかった。
「危ない!ミリア!」
「遅い」
魔物の攻撃は空を切り裂き、ミリアを捉えることなく地に落ちた。地に落ちた衝撃は凄まじく一発でも食らってしまったらひとたまりもない。そんな攻撃を回避だけに止まらずミリアは魔物の背後にいた。
『ライトニング』
一瞬だった。魔物が雷に包まれ倒れるまで。
「す......すげえ」
ただ棒立ちするしかなかった零太。倒れた魔物に近づいていく。
「こんな怪物を一瞬で倒してしまうなんて」
「レイ!下がって!その魔物はまだ」
ミリアが叫んだ時には、魔物はすでに起き上がってしまい零太は立ち竦んでいた。
「え.......ちょっと待って」
破壊力は保証済の魔物の攻撃が零太に襲いかかる。
(あぁ。これは死んだな)
「レイ!」
何かに、いや誰かに体を押されていた。零太は1メートルほど後ろに飛ばされた。目の前に見えるのは、魔物の攻撃を受けるミリアの姿だった。
「ミリア!」
すぐに駆け寄る零太。まだ生きているが傷がひどく、どんどん出血しているようだ。
「ごめんね、レイ。巻き込んじゃって。。まだ間に合うから早く逃げて」
息が荒くなるミリア。
「どうして......何もできないんだ」
(異世界転移までして何もできない。この世界の住民よりも弱い)
込み上げてくる感情を口にする。
「目の前の女の子も救えない」
目の前に立ちすくし大きな手を振り上げる魔物。
「はやく......逃げて」
(嫌だ、ミリアを置いていけない)
ーー勝ちたいかーー
「勝ちたい!」
何処かから聞こえた声に叫ぶ零太。振り下ろした魔物の攻撃を受け止めたのは1枚のカードだ。
ーーカードを抜けーー
「なんだこれ。。このカードは......」
見たことあるカードだった。父親から譲り受けた特徴のあるカード。
ーー娘のカードを使えーー
零太は静かに声に従い、ミリアのカードフォルダをゆっくり外し自分に装着した。
ーー使い方はわかるなーー
「わかる。ミリアを見てたから」
ーーなら戦え。俺が力を貸してやるーー
「オープン」
零太の声に応えカードが光る。4枚のカードが浮かび上がるのを確認して、攻撃を止めたカードを引いた。
「力がわいてくる」
「レイ......どうしてあなたがそのカードを」
『風の衣』
風を纏う零太。自身に満ちた顔でまっすぐ魔物をみつめる。
「どうしてあなたがレイヴォルト=スペードのエースのカードを持ってるの!」
(今あるカードはライトニング、ヒール、ウォール。なんとなく見ればわかるカード。風の衣とライトニングを見る限り、カードの順番は同じ。まずは)
『ヒール』
『ウォール』
魔物の前に土の壁が作られたと同時にミリアの傷が癒されていく。
「どうして、2つも同時に魔法が使えるの?」
「話は後にしよう、ミリア。まずはこの場をなんとかする」
そうすると零太は宙に浮かびウォールを越えた。
(やっぱり風の衣は纏った風を使って浮いたり速く移動したりできるんだ)
ウォールを越え、魔物の前に出た零太。カードを再確認した時、カードがまた4枚になっているのに気づいた。
(カードがまた4枚になってる。ライトニング、ウォーター、アイス、ストーンブレイク。まてよ、これを組み合わせれば)
『ウォーター』
ーー数分後。魔物を倒した零太が戻ってきた。
「レイ」
安堵をつくミリア。
「ミリア。ありがとうカードを返すね」
「どうしてレイがアーティファクトを持ってるの?」
「父さんからもらったものなんだ。元々は52枚全てを譲り受けたんだけど、光の中でなくなっちゃって。それを探してくれって言われたんだ」
「すべてのアーティファクトを!?レイのお父さんって何者?」
「うーん。なんなんだろうね。それにカードはすべて消えたと思ったんだけ1枚だけ服の中に残ってたんだね」
(それにあの声。俺をここに連れてきた光の声とは違う。)
「とりあえず帰っておばあちゃんに相談してみよう」
「わかった。帰ろう!立てるかい?」
「うん」
ミリアに手を貸し、2人は村に戻り神殿を目指した。
カード紹介
風の衣
ランクA
風を纏い、風を使って浮いたり、風の速さで移動できる。
ライトニング
ランクC
雷系基本魔法。術士系以外でも使える。
ウォーター
ランクC
水系基本魔法。術士系以外でも使える。
ウォール
ランクB
土系防御魔法。魔力が高いほど自由な形の壁を作成可能。
ヒール
ランクC
回復基本魔法。対象の傷を癒す。術士系以外でも使える。