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2.饅頭と友情 ①

 いきなり死んでしまい、いきなり天使になれと言われ、良く分からないうちにタイムマシンを使って悪者退治をする『時空守護天使』なるものに就任することになった、望月(もちづき)(あきら)、花の16歳──。




『あっさ~、あっさ~、気持ちのいい朝ですよぉ~♪ 太陽さん、おはようっ! 晶さん、おはようっ! 今日も一日頑張りましょうっ♪』


 まだ夢の中にいる頃から、陽気でかわいらしい歌が聞こえてきた。


「んー……」


 低く唸りながら寝返りを打ち、ふかふかの羽毛布団の中にもぐる。自分の体温であたたまった布団の中は心地良いぬくもりに包まれ、肌に触れるシーツの滑らかな感触と相まって、晶を再び夢の世界へと誘う。


 このままもう一度、眠りに落ちようか……何てまどろんでいたら。


『ビーッ、ビーッ』


 かわいらしい声で、警告音が鳴り響いた。


『ビーッ、ビーッ』


「あー……うるさ~い!!」


 たまらず布団を剥いで起き上がる。そして、枕元に置いてあった丸くて白い、KURAGE(くらげ)型目覚まし時計&通信機を思い切り平手打ちした。目覚まし時計はベッドからゴロゴロ転がって床に落ちた。そして。


『晶さん、おはようございま~す! ピピッ』


 晶が起きた事を感知して、KURAGEのかわいらしい声の目覚まし時計は大人しくなった。大きく欠伸をした後、わざとらしく大きな溜息をつき、しばらくベッドの上で首を項垂れる。それから転がり落ちたKURAGE型目覚まし時計&通信機を拾い上げ、「おはよう」と挨拶しながらそっと元の位置に戻した。


 広い部屋の中をぐるりと見渡して──軽く溜息をつく。


(やっぱり、夢じゃないか……)


 もしかしたらまだ夢を見ているのではないかと思ったのだが、ここは住み慣れた自分の部屋ではなかった。


 20畳はある広い部屋に、今寝ていたダブルベッドと、ダークブラウンで統一された机や椅子、家具類が並ぶ。窓には白いレースのカーテンなんかが付いていて、どちらかといえば女の子向けの造りになっていた。


 ベッド脇に置いてあるドレッサーの前に座り、鏡に映った自分の姿に、思わず顔をしかめる。


 レースをふんだんに使った、淡いピンクのネグリジェ姿。


 ミカエルに提供されたこの部屋のクローゼットの中に入っていた夜間着であるが……身長もあり、凛々しい顔立ちの晶には、まったく似合っているように見えなかった。


「後でミカエル……様に、別なの頼もう……」


 疲れた顔で、腰まである長い黒髪を手早くポニーテールにする。頭の上に浮かんだ眩く光る天使の輪が、頭を動かすたびに揺れる。


 これは昨日、ミカエルに与えられた『天使の証』である。これを付けることによって、晶は天国に入ることが出来るようになり、天使たちの寮であるこの部屋で眠る事が出来たのだ。試しに引っ張ってみたが、髪の毛を引っ張られた時のようにビリビリ痛んだ。


「ホントに痛いんだな」


 昨日、星斗のリングを引っ張った時の彼の反応を思い出す。申し訳ないことをしたな、と反省しながら、部屋に備え付けられている洗面台で顔を洗い、クローゼットの中を覗く。そして、そっとクローゼットを閉めた。昨日寝る時にも確認したが、やっぱり中の服はピンクだらけだった。未だかつて、こんなかわいらしい色の服を着たことがない。


 これもあの金髪美形大天使様の趣味だろうか……。溜息を吐きたくなりながら、昨日着ていたトレーナーとジーンズに着替える。





 着替えをした後、所在なく部屋の中をウロウロしていると。


『ぴーっ、ぴーっ』


 KURAGE型通信機が鳴り出した。


「ん?」


 しばらく通信機を眺めていると。


『晶ー!! てめぇいつまで寝てんだよっ! さっさと部屋から出て来い!!』


 KURAGEから星斗の怒鳴り声が響いてきた。


「うるさいな~、起きてるよ! 今行くから待ってろ!」


 朝から怒鳴られて気分を害した晶は、そう怒鳴り返す。


「ったく、少しは悪いと思ってんのか、あいつ……」


 口を尖らせてドアへと向かう。


 昨日はかわいそうに思えるほどしょ気ていたのに、今日になったらこの口調。


「かわいくない…」


 そう言いながらドアを開けると。目の前に、仁王立ちになっている星斗がいた。一瞬顔を強張らせた後、引きつった笑顔を作る。


「お、おはよう」


 そんな晶をジロリと睨み、星斗はクルリと背を向けた。


「ついてこい」


 と、大股に歩き出す。晶は慌ててそれを追った。


「昨日寮の案内出来なかったからな。大まかに説明する」


 歩きながら星斗が説明を始める。晶の部屋のある棟は女子寮。結婚していない天使たちの、独身寮だ。


「天使も結婚するの!?」


「ああ」


 驚く晶に、素っ気なく答える星斗。


 明るい陽の差し込む廊下を進んで女子寮を抜けると、広い食堂に出た。


「天使もご飯食べるの!?」


「基本的に必要ない。娯楽として食べるくらいだ。お前のように元が人間だと食べる習慣がついてるから、こういった場所もある」


「へえぇ~……ねえ、元が人間の天使って、多いの?」


「いや、滅多にいない。そうだな……千人に1人ってくらいか」


「す、少ないんだね」


「まあ。特級ランクの魂は珍しいし、天使になりたがらない奴もいるからな」


「ふうん…」


 2人は会話をしながら、食券販売機で和風朝食Aのボタンを押し、出てきた食券をふくよかなおばちゃんに渡す。ちなみに、お金はボタンを押した天使の給料から差し引かれる。天使にお給料があるのか、と考えているうちに焼き魚と玉子焼き、海苔の佃煮、味噌汁がセットの朝食が出てきた。空いているテーブルに付き、食べ始める。


「あんた、ご飯いらないんじゃないの?」


 器用に魚をつつく星斗にそう言うと。


「付き合いだ」


 あっさりとそう返事が返ってきた。


「ふーん」


 晶も白いほかほかのご飯を口に入れる。


(やっぱり……結構いい奴なのかもなあ……)


 晶にしたことを反省しているのかどうかは疑問だが、朝から部屋の前で待機していてくれたのは、もしかしたら慣れない場所で迷子にならないようにという、配慮からだったのかもしれない。朝食も1人では寂しいから、こうやって付き合ってくれているのかもしれない。


 ご飯を食べている間中、通りすがりの天使たちがチラチラとこちらを見ていく。何故見られているのか不思議に思っていると、かわいらしい女の子達が遠巻きに、


「今日も星斗さま、かっこいい~!」


 何て囁きあっているのが聞こえてきた。


 確かに、とてもかわいい顔をしているし、割と親切なので人気もあるのだろう。昨日ミカエルも「優秀な天使だ」と言っていたし。


(優秀な天使が、何で間違って人を死なせるんだ……)


 少しふて腐れていると、星斗が話し出した。


「ここから反対側が男子寮になっている。基本的に出入りは自由だが、慣れないうちは迷子になるからあまり動くなよ」


「はーい」


「それから、一応、お前は新人天使で、俺と一緒に魂の運び屋をやっていることになっている。もし他の者と話をすることがあっても、『時空守護』や地獄のこと、KURAGEのことは話すな」


「うーい」


 ふざけた返事をしたせいか、星斗の顔が険しくなる。


「……はーい」


 何だか怖いので、肩を竦めて言い直した。


『もう、星斗さんたらあ~、そんな怖い顔しなくてもいいじゃないですかぁ~』


 そこに、間抜けなかわいらしい声が飛び込んできた。


 晶、星斗、同時に立ち上がり、素早くKURAGEを掴んで腕の中に隠した。


「お前っ、なんでこんな目立つところにいるんだ!」


 星斗が小声で怒鳴る。


『え~? 大丈夫ですよ~。誰もKURAGEがタイムマシンだなんて思いませんから♪』


 パチン、とウインクをしてみせるKURAGE。それを見て、晶と星斗は顔を見合わせる。


「……それもそうだな」


 納得して、KURAGEを腕の中から開放する。確かに、こんな間抜けな顔のタイムマシン、見たことがない。動くぬいぐるみ。そういうことにしておこう。


『ところでお2人とも、お食事が済んだらミカエル様のところにおいでくださいね。お仕事が来てますよ~』


「えっ、もう!?」


 驚く晶に、KURAGEはコクコク頷く。


「あたし、まだ何にも分からないんだけど……」


『大丈夫です! 晶さんは特級ランクの超スーパー凄い天使ですから!』


「いや、そういうことじゃないし。しかも超とスーパーって一緒だから」


 少し疲れ気味に突っ込み、晶は朝食をきっちり食べてから立ち上がった。すると、晶のトレーを星斗がヒョイと掴み、先に立って歩き出した。


「食べ終わったらここに戻しておけ。……じゃ、ミカエル様のトコ、行くぞ」


 先程おばちゃんから食事を受け取ったカウンターの隣に2人分のトレーを置き、星斗はまた歩き出す。


「あっ、待って~!」


『お待ち下さ~い!』


 晶とKURAGEは慌てて星斗の後を追った。




 寮のある建物を出て、噴水のある庭を通り、背の高い街路樹の見下ろす小道を歩いていくと、天国に入る時に真っ先に見えた国会議事堂のような建物が見えてきた。その向こうには、どこまで続いているのか分からないくらい広大な花畑が続いている。


 晶はあそこで美形天使と戯れて遊んで暮らすのだと思っていたが、実際のところ、そんな光景は目にしなかった。花畑を散策する人影はいくつか見えるけれども。



 そうして辿り着いた国会議事堂の門扉には、大きな看板がついていた。


『天界第一層魂管理局 地球北半球支部』


「天界第一層って?」


 国会議事堂らしき建物の中に入ってすぐのエレベーターに乗り込みながら、星斗に聞く。


「天国のことだ。今度天界について詳しく説明してやる」


「うん、分かった」


 頷いたところでチン、と軽い音がして、目的の階についたようだ。ふかふかの赤絨毯の上を歩いていき、突き当りのドアで止まる。


『ミカエル様~、晶さんと星斗さんをお連れしましたよ~』


 KURAGEがドアの前でクルクル回る。すると、ドアはひとりでに開いた。


「やあ、来たね」


 大きな執務机の前に立っていたミカエルが振り返り、晶の前まで歩いてくる。


「おや……用意しておいた洋服は気に入りませんでしたか?」


「いや、あの……あたしには似合わないかな~、と思って」


 クローゼットの中の少女趣味な服を思い出し、苦笑い。


「そうですかねえ。貴女のようにかわいらしい方にはお似合いだと思いますが……」


 優しい微笑みを浮かべ、ミカエルは晶の頬に触れた。


(ううっ……)


 綺麗な瞳に見つめられ、晶は硬直する。身長が高い晶は、こんな風に上から見つめられる事も、優しく触れられる事も、「かわいらしい」なんて言われることも、今まで経験した事がない。それをこんな美形にされては、無条件で頬を染めてしまう。


 そんな晶を見て、ミカエルは軽く笑った。


「ほらね。かわいいじゃないですか。ねえ、星斗くん」


 同意を求められた星斗は、少し困った顔をした後、ムスッとしたまま渋々頷いた。


(むうう、お前はかわいくない!)


 星斗の態度にムッとしつつも、ミカエルに向き直る。


「あの、お仕事の話は?」


「そうそう。さっそくだけど、死神たちが過去に跳んだ形跡があるんだ。そこでお菓子屋さんが襲撃を受けてね。饅頭だけが盗まれたんだ」


 真面目な顔をしてそう言うミカエルに、晶も、星斗もあんぐりと口を開けた。


「ま、まんじゅう~!?」


「そう。お店の人、とっても困っているみたいなんだよ。悪さをしている死神、捕まえてきてくれないかな」


「そ、そんな事件なんですか……。地獄って、タイムマシン使ってそんなことしてるんですか……」


 頭を抱える星斗に、ミカエルは人差し指を立ててそれを軽く振った。


「いけません、星斗くん。どんなことでも罪は罪。それは罰しなければ」


「いえ、そうですけど……」


 饅頭を盗む事にタイムマシンを使う意味はあるのか! ……と星斗は叫びたかった。


『では、さっそく参りましょう、お2人とも! 初仕事、KURAGE頑張りますよぅ~!!』


 フンッと鼻息(鼻はないけど)を鳴らし、KURAGEはやる気マンマンに叫んだ。


『今から1年と2ヶ月3日前の、午前10時36分の人間界にしゅっぱ~つ!』


 KURAGEは晶と星斗の手を掴み、眩い光を放った。一瞬だけ輝きを増した光は2人と1匹(?)を包み込むと、瞬時にその場から姿を消した。


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 ニコニコと笑いながらミカエルは手を振った。






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