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6.真実 ②

 たった2人で地獄へと攻め込んだミカエルと星斗。しかしミカエルの翳した手のひらから噴き出す目に見えない力は、死神たちを片っ端から吹っ飛ばしていった。さすが天国を治める大天使、と星斗は感心しながらミカエルについていく。


「さあ~て、晶ちゃんはどこかな~」


 ミカエルは微笑みながらホワイトハウス……いや、地界第一層管理局建物内部へと入っていく。


「お、お待ち下さい、ミカエル様!」


 制止する死神たちの声を無視して、ズンズン進む。


「星斗くん」


「はい?」


「ここは私が押さえるから、君、晶ちゃんを探してきなさい」


「え、でもどうやって見つけるんですか?」


 そう言うと、ミカエルは星斗の頭上にあるウサ耳を掴み、ムニムニ動かした。


「これ、発信機が入ってるんです。晶ちゃんの帽子にもね。近づいたら反応しますから」


「……そうですか」


 星斗は顔を引きつらせながら、晶を探すためミカエルの傍を離れた。


「さて」


 ミカエルはパキパキと指を鳴らしながら辺りを見渡した。


「どなたか、ルシフェルの居所を知りませんか?」


 にこやかに語りかけるが、皆怖がって応えてくれない。


「仕方ないですねえ」


 ミカエルは更にズンズン進んでいった。もちろん、それを止められる死神はいない。




 ミカエルと別れた星斗は、襲ってくる死神たちを避けながら長く広い廊下を走っていた。突き進んでいくと左右に分かれ道があり、足を止めた。


 すると。


 みょい~ん。


 頭上のウサ耳が折れ曲がり、右を指し示した。


「……なんか、嫌だ……」


 ゲンナリしながら、星斗は右方向へと走っていく。




 その頃、晶は館内を彷徨っていた。死神の姿は見当たらないが、どちらへ向かえばいいのかさっぱり分からない。窓から外を眺めても、薄闇の空と、黒々した木々が生い茂るのが見えるだけ。


「う~む」


 闇雲に歩いても駄目か……。そう思い始めていた時、天井の高いホールに出た。


「うわあ」


 小さく呟いた声が、僅かに反響する。円形状の天井には、美しい死神たちの絵がどん、と描かれている。教会の天井などに描かれている宗教画と同じような感じだ。


 口を開けてそれを見上げていると、後ろからキュルン、と音がした。ハッとして振り返る。


『まあ! 貴女、こんなところで何をしていらっしゃるの? ルシフェル様にお部屋で待つようにと言われているはずよ?』


 ピンク色のボールが、プリプリ怒りながらふわふわ飛んできた。


「あ、えっと……YUKINON、ちゃん」


 確か才蔵と茜がそう呼んでいたはず……と、思い出しながら晶は言った。


『向こうで戦闘が起きています。お客様に何かあってはルシフェル様に申し訳が立ちません。さっ、お部屋に戻りますよ』


「いや、戻りたくないんだけど」


『駄目です! 不本意ですが、貴女をお守りするのが今の私のお仕事ですわ!』


 YUKINONは口を窄めて尖らせた。きっと主人である才蔵と茜を傷つけた晶を快く思っていないのだろう。


『さあ、行きますよ!』


 小さくて丸い手は、吸い付くように晶の手を掴むと、グイグイ引っ張った。晶も力はあるが、YUKINONの力には敵わない。引きずられてしまう。


「ちょ、ちょっと待ってってば!」


 踵に重心をかけて抵抗していると。ホール内に足音が響いた。


「晶!」


 その声に振り返る。


「星斗!」


 星斗のウサ耳はピョコピョコ曲がり、目的地についたことを示した。そして、晶の黒いミニハットはホタルの光のようにピカピカ光る。


「……」


「……」


 2人は見詰め合った後。


「……なんか、嫌……」


 同時に呟いた。


 カッコイイとまではいかないが、将来有望なかわいい男の子がわざわざ助けに来てくれたのだ。普通ならば、もう少し感動的な場面だろうに。ウサ耳と光る帽子のせいで、せっかくの対面は台無しだった。


 ピョコピョコ、ピカピカと、いつまでも動きが止まらないので、次第に笑いが漏れてくる。


「あれっ、そういえば星斗、体大丈夫なの? さっき倒れたばっかりなのに」


「ああ、ミカエル様が癒してくださったんだろう。もう平気だ」


「そうなんだ。良かった」


 笑いを堪えながら会話をしていると、YUKINONがきゅるんと音を立てた。


『まあっ、天使がこんなところまで入り込んでくるなんて! 他の方々は……』


 YUKINONは死神たちの安否を気にして、きゅるん、きゅるん、と回った。それで晶の手を離してしまう。その隙に晶は星斗の元へ駆け寄る。


「ミカエル様のところに戻るぞ」


「うん」


 軽く頷いて、2人は走り出そうとする。しかしすぐに足を止めた。カツン、カツンと靴音を響かせて、ホール内にルシフェルがやってきた。


「なんだ、部屋から出てきてしまったのか」


 晶に少し微笑みかけると、星斗に目を向けた。


「死神軍を全滅させた天使だな。……成る程、良い瞳の持ち主だ」


 星斗はサッと攻撃態勢を作るが……あまりにもルシフェルに敵意がないので、姿勢を崩した。


『ルシフェル様』


 きゅるん、とYUKINONがルシフェルの肩に止まる。


「YUKINON、ご苦労だったな。下がっていて良いぞ」


『はい……』


 YUKINONは静かにホールから出て行った。



「ルシフェル様、今回の一件について、ご意向を伺いたく存じます」


 星斗が問いただそうとすると。YUKINONの消えていった方向から、軽快な足音が響いてきた。全員の視線がそちらへ向く。


 ──現れたのはミカエルだった。


 ミカエルは晶と星斗の姿を確認すると穏やかに微笑んで──そしてルシフェルに目を転じた。ルシフェルの視線とぶつかり、2人の間に緊迫した空気が流れる。


 どれくらい時間が経っただろうか。


 ふいに、ミカエルが歩を進めた。ほぼ同時に、ルシフェルも動く。


 次第に早まっていく歩調。みるみる縮まる距離。


(うわああ、どうなんのっ!?)


 晶と星斗は、固唾を呑んでそれを見守る。


 後一歩踏み込めば接触する──そこまで歩み寄った2人は、同時にお互いに飛びかかり。


「ルーちゃん!」


「ミカちゃん!」


 ガシッ! ……………………と、抱き合ったのです。



 「は……はあぁぁぁああ!?」


 晶は目を見開きながら声を上げた。


 何だか良く分からないうちに、2人はイチャイチャしだす。


「ルーちゃん、しばらく逢わないうちにまた綺麗になったね」


「そんな、ミカちゃんこそ男を上げてきたな」


「ルーちゃんの美しさには敵わないよ」


「やだなミカちゃん」


 そんなことを言いながらべったりくっついて離れない。


「あ、あの……ミカエル様?」


 遠慮がちに声をかける星斗だったが、その声もまるで聞こえていないようだ。


 何だ。


 一体、何だ、この状況は!?



 地獄はタイムマシンを開発して、天国や人間界を攻撃しようとしている。だからミカエルはKURAGEを開発し、ちょうどいいところに来た晶と星斗を時空守護天使に任命した。そして、この数日、苦労を重ねてきたはずだ……が?



「お前達何をしている、邪魔になるからこっちに来い!」


 後ろから小声でそう話しかけてきたのは、才蔵だ。


「えっ……な、何が?」


「見て分かりませんか? お2人の嬉しそうなお顔を……!」


 更に茜が頬を染め、うっとりしながら言う。


「だから、一体何なのよ!」


 晶が怒鳴ると、才蔵と茜は真面目な顔で、言った。


「コードネーム〝ルシフェル様とミカエル様をドラマチックに引き合わせよう大作戦〟のことだ」


 ポカ~ン、と晶と星斗は口を開けた。


 意味が分からない。


 いや、分かるけども……何だか良く分からない。ただ、その作戦名の〝コードネーム〟は付けなくてもいいんじゃないか……ということだけを思いっきり突っ込みたかった。


 晶と星斗が何も知らないということを知り、才蔵と茜は丁寧に詳細を説明してくれた。


 実は、ミカエルとルシフェルはとっても仲良しなのだが、2人の両親同士がとっても仲が悪い。なので、2人の交際の許しが出なかったのだ。親たちの陰謀で定例会議も代理人を立てることになり、まったく逢えなくなってしまった。


 ああ、2人はまるでロミオとジュリエット!


 すっかり元気をなくしたルシフェルを心配した死神たちは、何か出来ることはないかと考えていた。そんな時、偶然にも時空を渡れる機械を開発してしまった地獄側。これを利用して戦争を引き起こす真似をすれば、お2人のご両親に悟られる事なく引き合わせられるのではないか!


 ルシフェルとミカエルに提案すると、喜んで了承してくれた(了承するな)。


 それに、天国には優秀な天使がいるから、ちゃんと止めてくれるだろうし(勝手に決め付けるな)。



「というわけで、今回の作戦が決行された」


「なんだそりゃああああ!!!!」


 まったくもって信じられない話だ。


「そんな理由で……そんな理由であたしは天使にさせられたんか!」


 あまりにも腹が立ったので、傍にある柱を殴り倒した(!)


 そんな晶に気がついて、ミカエルがやってくる。


「ごめんね晶ちゃん。でも君を天使にしたのは私達のためじゃなくて、KURAGEを成長させるためだから」


「それもてめえらの思惑の延長にあることじゃねえか!!」


 ドコッ!


 また一本柱が折れた。


「ミカエル様~! こんなことをお父上が知ったら……いえ、大天使様方に知れたら~!!」


 星斗がミカエルを睨みつける。


「だからバレないように実戦を組み込んだわけでして……」


「実際に戦わされてた俺たちの身にもなってくださいよ! こいつらだってっ」


 死神たちを振り返ると、彼らはフルフルと首を振った。


「我らはルシフェル様のために存在すると言っただろう。ルシフェル様がお幸せならば、それで良いのだ」


「……」


 星斗、呆気に取られる。


「……死神なんて、みんな馬鹿だろ……」


 そして、がっくりと肩を落とした。


「アハハ、そうなんですよねえ~。天使はみんな真面目だから、こんなことを言っても誰も協力してくれないでしょう? そこで、絶対に私についてきてくれて、尚且つ死神にも負けない優秀な天使を選んだんです。やっぱり人選に間違いはありませんでしたねえ」


「……ミカエル様」


 星斗はキッとした目で顔を上げた。


「大天使様方に必ず報告しますからね! 減俸とか懲戒免職とかしたってぜっったいに報告しますから!!」


「えー」


「えー、じゃありません!!」


「う~ん、本気ですね、星斗くん」


 ミカエルはちょっと考えて。


「じゃあ、晶ちゃんにひと……」


「だあああああ!!!」


 慌てて叫ぶ。


 にやり、と笑ったミカエルを見て、星斗は青くなった。


「……報告、しますか?」


 星斗はギリリと歯を鳴らした後、がっくりと首を項垂れた。


「……イイエ」


「えええ!」


 それに対し、晶は不満の声を上げる。


「何だよ星斗! もっとビシッと言ってやれ! こんな管理者認めねえって!」


「……もう、いいんだ」


「はあ? 何だこの根性無し!」


 何も知らずに星斗を怒鳴りつける晶を見て、ミカエルは必死に笑いを堪えていた。






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