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4.対決 ②

 同時刻、天国、地球北半球支部建物内。


「おい晶、どこまで行くつもりだ?」


 怒りに我を忘れ、ズンズン前に進んでいくのを止める星斗。その声にぐるんと勢い良く振り返り──晶はハッとした。


「あ、そうだよね。KURAGEちゃんで飛ばないといけないんだよね」


「お前どこに行くつもりだったんだよ……」


 呆れ顔の星斗に、晶はてへへと笑う。


「それにしても……」


 星斗は手を顎にやり、考え込む。


「何?」


「ミカエル様の話を聞いて、ますます地獄が攻めてくる理由が解らなくなった」


「ああ、そうだよね! なんか2人は仲いいみたいだし」


「そう。何故攻撃を仕掛けてくるのか……理由が解らない」


「喧嘩したとか?」


「馬鹿、そんなんで天国と地獄を巻き込むかよ」


「そうだよねえ……」


 晶は日本総理大臣とアメリカ大統領が喧嘩しただけで戦争を起こす図を思い描いてみた。──確かに、そんな単純な理由ではなさそうだ。


「まあここで考えていても仕方ない。死神たちを捕まえに行くぞ」


「あいよっ」


『はいです!』


 白いタイムマシン、KURAGEが眩く光る。その光に包まれた晶達は、シュッと姿を消した。






 その日の仕事は忙しかった。ただでさえKURAGEはまだまだ完璧に時空移動が出来ないため、移動だけで疲れるというのに。次から次への仕事が舞い込んでくる。


 初日に現れたのはたった一人(?)だったが、今日は片付けても片付けても終わらない。


 しかも死神たちの悪行といったら!


 歩いている人を転ばせたり、肝試しで幽霊として参加したり、結ばれようとしているカップルの間に割り込んだり、お城の階段に灯るろうそくの炎を全部消してしまったり……なんて悪戯ばかりなのだ。


「一体何にタイムマシン使ってんだ!」


 晶は疲れのため、道端に転がった。


『うきゅ~、死神さんたち、悪い事はメッ、ですよ~』


 KURAGEは大きな袋に捕まえた死神たちを次々と放り込む。それを担ぐ姿は、まるで泥棒……いや、サンタクロースだ。


「まあ……でも、おかげでKURAGEの精度が上がってきたな」


 疲れなどまったく感じていなさそうな星斗は、涼しい顔だ。


『はいです! もう二回に一回しか失敗しませんよ!』


 KURAGEもふんす、ふんすと得意げに鼻(?)を鳴らす。


「あはは、そこだけは良かったよね」


 寝転がったまま、晶も頷く。


「で、まだ死神はいるのか?」


『はい。何だか今日はたくさんの死神さんが……うきゅっ!?』


 突然KURAGEが変な声を上げる。


「どうした?」


『死神さんが一箇所に集まっています。しかも今までで一番悪いことをしてます!』


「どんな」


 一番悪い事と言われても、今までのが完全に悪ガキによる悪戯の範疇だったので、あまり深刻に考えなかった。だが。


『太陽さんが隠されてしまっています』


「……それは、悪い事だ」


 晶、星斗、顔を見合わせてそう言う。


「一体何やってんの? 死神だって、天使と同じく人を護るのが仕事なんでしょ!? ……うーむ、許せん!」


 晶は立ち上がり、握りこぶしを作った。


「死神め、懲らしめてやる!」


『きゃあ~、晶さん、カッコいいです~♪』


 頭は良くないが、もともと委員長気質の晶。正義の味方にはもってこいの性格なのだ。


「んじゃKURAGEちゃん、行くよっ!」


『はいです!』


 そうして、2人と一匹は更に時空を飛んだ。



 一度も飛び間違えることなく着いた場所は、街並みから晶が生きている時間とそう変わらなさそうだった。KURAGEの報告通り、空は真っ黒な分厚い雲に覆われ、太陽が隠されてしまっている。


「まだ昼間だよな?」


 星斗がKURAGEに訊く。


『はい。午後3時半になるところです』


「夜みたいに暗いね」


 晶は空を見上げた。ざわざわと鳥肌が立ち、手足が冷たくなってくる。


「な……何? 何か恐い……」


 無意識のうちに震えてくる体。


「……だろうな。あの暗雲……全部死神だ」


「え、ええええ!?」


『わあ~、強そうですね~』


「感心してる場合か!」


 空を覆いつくす程なのだ。どのくらいの数なのか、想像も出来ない。


「あれ、全部捕まえるの?」


「……やるしかねえだろうな」


「2人だけで!?」


『晶さん! 私もいますよっ♪』


 パチン、とウインクをするKURAGEは、まったくもって頼りなく見えた。


「うう~……」


 不安に震えていると、ぽん、と背中を叩かれた。


「大丈夫だ。俺がフォローしてやる」


 安心させるためなのか、いつになく優し気に微笑む星斗の存在は、とても心強かった。


「……うん。頑張る」


 そう呟いたところで。空を覆っていた死神たちがこちらに気付いて、群れを成して舞い降りてきた。それはまるで、襲来する虫の大群のようにも見える。


『さっ、お2人とも! 変身ですよ~!』


「え~……」


 こんな緊迫した場面でも変身しなくてはならないのか……。文句は言ったが、果たしてちゃんとまともな服に作り変えてくれたのだろうか……。しぶしぶペンライトを空にかざす。


『ばばーん! ちゃんちゃんかちゃんっちゃちゃららりり~ん!』


「……イチイチ歌わなくていいから……」


 晶と星斗、KURAGEののほほん声に脱力する。そうしている間に、キラキラ光る風に巻かれて変身は完了した。


「ん?」


 晶は星斗の格好に目をむいた。全身黒尽くめは前と変わらないが……足首まである薄い黒のロングコートに、足元はショートブーツ。そこから視線を上げていくと、風にはためくコートの中に、ナマ足が見えた。黒のショートパンツに、上は白いシャツのようだ。コートの左胸には、大きめに赤い十字架のマークが張り付いていた。そして、やはり頭に小さくウサ耳。


「……半ズボン、更に短くなってるよ?」


 晶は笑うのも忘れてそう言った。


「……自分の格好見てみろ」


 すでに無我の境地に入ったような顔で、星斗に言われる。


 晶は自分の服に目を落とす。


「なんじゃこりゃあ~!」


 首には大きな赤いリボン。黒いシャツに、赤いフリルで飾られた短めの黒いワンピース。スカート部分にも黒と赤でフリルが続き、ハイソックスは黒で、太腿のところに赤いリボンがあしらわれている。足は黒の、超上げ底ロングブーツ。頭には黒のミニハット。赤いバラ付き。姫カットの長い黒髪が、その格好に良く似合っていた。星斗と色がおそろいでいい感じだ。


「あ、あの野郎~!」


 晶はプルプルと身を振るわせた。


「こんなブーツ履いたら身長180超えるだろうがあああ!!」


「問題はそこか」


 星斗に突っ込まれる。


『素敵~! 晶さん、星斗さん、良く似合っていますよ! ミカエル様にお写真送ってあげます~! うきゅ~!』


 KURAGEの目がパッ、パッと光る。どうやら写真撮影しているようだ。


「やめんか!」


 星斗はKURAGEを押さえつけた。


『うきゅ~、駄目ですよ~、上司命令違反~!』


「ううっ!」


 なんてやっている間に、死神たちが近づいてきた。


「KURAGE、なんか武器はないのか?」


『はい、今出しますぅ』


 KURAGEの目がまたピカーッと光ると、星斗の手には細い剣が、晶の両手には革製の黒いグローブがはめ込まれた。


「何これ」


『お2人にぴったりの武器が出てきたはずですが……』


「これで戦えってか」


 晶は両手を閉じたり開いたりした後、ザッと構えた。


「おっし、やってやろうじゃん!」


「……さすが、空手部」


 星斗はそう呟くと、晶に倣って構えた。


「晶、一気に行くから羽根出してな。KURAGE、晶に付いてろ」


「おうっ」


『はいです!』


「じゃあ……行くぞ!」


 星斗の声とともにバサッと羽根を広げ、上空に飛び立つ。舞い降りてきた黒い硬質の翼を持つ死神たちが、あっという間に2人を取り囲む。


 晶と星斗は互いの背を合わせる様にして空中に浮かぶ。互いに動かず、ただ睨みあっていると、死神の中から1人が前に出てきた。


「天使の方々、こんにちは!」


 そう挨拶をすると、死神たちは一斉に声を上げた。


「こんにちは!!」


 声の渦が腹の底に響く。


「こ、こんにちは……」


 驚きながらも、晶も挨拶を返した。


(な、何だ、一体……)


 死神たちは恐いくらい真面目な顔で、こちらを見ている。


「この度は、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません!」


「申し訳ありません!!」


 今度は一斉に頭を下げられる。


「……じゃあ、何でこんなことをしてるんだ?」


 動揺はしているのだが、それを表に出すことなく、星斗は静かな声で訊いた。こんなことをわざわざ言いに来るくらいだ。自分達のやっていることが間違っていると解っているのだろう。


「我らが王、ルシフェル様のご命令にて……我らはルシフェル様の御為にある。その命に従い、動くのが我らの役目……よって、天使さんたちを攻撃させていただきます!」


 その声と同時に、死神たちが動き出した。


「晶、突っ込み過ぎんなよ!」


「頑張ってみる!」


 バサッと羽根を羽ばたかせると、2人は逆方向へ突っ込んでいった。


「おりゃああ!」


 黒い羽根を羽ばたかせて真っ先に突っ込んできた死神の懐に素早く飛び込み、


「はいっ!」


 と気合を入れて頬を殴りつけた。拳が頬に、信じられないくらいめり込む。「あっ」と思った時には、死神は周りの者達を巻き込んで遥か遠くまで飛んでいってしまった。


「あらあ~?」


 飛んでいった死神を見送り、晶は自分の手を眺めた。


『晶さん、そのグローブ、力を増強させますから……今の死神さん、きっと顔が歪んじゃってますね♪』


「そ、そんなに楽しそうに言わなくても……」


 晶は少々悪かったな、と思いつつ、他の死神に目を向けた。──死神たちが青い顔をして後ずさりしていく。手ごたえを感じた晶は、ニヤァと不気味に笑った。


「さ~て、次は誰だ!?」


 死神たちは今の晶の怪力ぶりに、みんな尻込みしている。


「……ええい、ルシフェル様の為だああ!」


 そう1人が叫ぶと、一斉に晶に飛び掛ってきた。


「あ、ずるい!」


 多勢に無勢だなんて! と呟きながら、無数に伸びてくる手をかわして誰かの腹に拳を叩き込んだ。そのすぐ後、くるりと回転して回し蹴りを食らわす。


「あ、ヤバイ」


 今度はそう呟く。死神たちは悲鳴を上げることもなく、次々と飛ばされていった。


「手加減忘れちゃった……」


 そんなに一斉に飛び掛ってくるから……と、晶はペロリと舌を出す。生き延びた死神たちは圧倒的に強い天使の前に、ブルブル震えるしかなかった……。




 星斗は軽い身のこなしで死神たちの攻撃をかわし、素早く斬りつけていった。と言っても、どうやら剣の刃は潰されているようで、斬られた死神たちは気絶するだけである。


「あ、あいつ、強い!」


「ああ……」


 死神たちがざわめく。


「あんなふざけた格好してんのに……」


 その視線の先には、どうしても気になるウサ耳があった。星斗が動くたびに、ぴょんぴょん揺れるのである。


「やかましい!!」


 死神たちの暴言に、星斗は怒鳴る。ウサ耳だし、コートで隠れているとはいえ動くと足丸出しだし、ちょっと恥ずかしいので星斗は早く天国に帰りたかった。


「お前らとっとと地獄に帰れ~!!」


 更に素早く走り抜け、次々と屍の山を築いていった……。




 そうして、死神の半分は片付けたのではないか……そう思った時。


「お前達、下がれ!」


 ゴオッと風が吹き荒れて、枯れ葉がクルクルと舞い上がった。


「!?」


 思わず目を閉じ、腕を翳す。


『転送、完了いたしました』


 KURAGEに良く似た、かわいらしい声が響く。


 目を開けた晶が見たものは。ピンク色のKURAGEだった。いや、良く見ると違う。おさげがない。天使の輪がない。黒い羽根がついている。


「ご苦労、YUKINON」


 今度は男の声がして、ピンク色のボールの前にその声の主と思われる男と、もう1人、女が現れた。どちらも見た目、忍者のような紺色の衣装を身に纏っている。


 それを見た晶。


「格好いい……」


 と呟いた。


「ねえねえKURAGEちゃん! あれ格好いいね! 今度ミカエルに忍者みたいな服作ってもらってよ!」


『そうですかぁ~。晶さんの方が格好いいですよ~』


 KURAGEがそう言うと、ピンク色の球体が前に出てきた。


『何を言うのですかあなたは。失礼な方ですね。才蔵様と茜様の方が断然格好いいですわ!』


『うきゅ~! 晶さんと星斗さんの方が格好いいですぅ~!』


 ふたつのボールは、頬を赤く染めながら睨み合う。


「まあまあ、YUKINON。私はお前にそう言ってもらえるだけで嬉しいぞ」


 茜がYUKINONと呼ばれたボールを優しく撫でる。


『茜様! いつもながらお優しい……』


 YUKINONは茜の周りをクルクル飛ぶ。それを微笑みながら見ていた才蔵が前に出てくる。


「私は才蔵。ルシフェル様の命にて、そなたらを倒す」


 才蔵が短剣を構えると、チャキン、と音が鳴った。茜もそれよりは小さめの短剣を構える。


『晶さ~ん、この方々、とても強そうです! 気をつけてくださ~い!』


『強そうではなく、強いのですわ!』


 YUKINONがちょっぴり怒りながらKURAGEの台詞を訂正する。


「あ~……うん、何となく解る」


 晶は目の前に現れた2人と対峙すると、心臓が早鐘を打ち出したのに気付いていた。きっと本能的に感じているのだ。この2人の強さを。


「では……参る!」


 ヒュッと風を切り、2人が晶に襲い掛かってきた。






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