灰色のシナプス
僕たちが暮らすこの世界には「シナプス」と呼ばれる能力の潜在値がプロフィールに利用される。
シナプスは身体能力を司る赤、頭脳を司る青、芸術センスを司る黄が存在する。
この3つのシナプスは全てのヒトに備わっており、それぞれのシナプスの数値が強い程そのシナプスが司る能力に長けているという訳だ。
このシナプスは中学三年になる頃に測定するのが一般的であり、シナプスによって進路を決定するのである。
「次。測定番号12番、キズくん」
検査官が呼ぶ。
僕の名前はキズ、どのシナプスにも自信がある。
「はい!」
「測定を開始するよ、まずこの棒を咥えて」
煙草くらいの大きさの白い棒は「シナプスティック」
咥えた者の最も強いシナプスの色に変化する。
「・・・!?」
検査官はハトが豆鉄砲を食らった様な表情を見せる。
「ほふひはふへふは?(どうしたんですか?)」
僕は問いかけるが、検査官は渋い顔をするばかりで教えてくれない。
探求心のままに咥えているシナプスティックを口から離し、確認する。
「灰色・・・?」
シナプスティックは灰色に変色しており、雑巾を連想させる色に染まっていた。
「分配検査をしようか、このヘルメットを被って」
シナプスメットは被った者の赤・青・黄をモニターに数字として映し出す装置だ。
「参ったな・・・全部0だ」
検査官はそう告げると、僕に語り掛ける。
「君のシナプスは全部0、恐らくグレーのスティックは何もないから不具合が生じたんだろう。本来なら全てのシナプスが0なら白いままのはずだが・・・。」
「まさか・・・僕が無能の落ちこぼれ!?しかし中2までの成績は全て5・・・何かの間違いです!」
「まあ、シナプスが低くてもまぐれで良い成績を出す者はいる。君はその極端な例だろう。」
まさか僕が0シナ(※0シナプスの略)だったなんて・・・思いもしなかった。
これでは進路が決められないじゃないか。
そう考え込みながら眠りに就いた。
――翌日。
「聞いたぜ、キズは0シナなんだってな」
クラスのチンピラキッズ、ミギが早速茶化してくる。
「俺のシナプスは赤80・・・どうだ?俺タイマン張らないか?」
ミギはいつもこうだ、弱い者を見つけるとすぐに喧嘩を売る。
僕の片想いの相手、サラが転校してきた時もそうだった。
「やめないかミギ、どうしてもっていうなら赤97の俺が相手してやる」
ミギを静止するのはゴウエン、正義感の強い通称「中学生警察」だ。
「ちっ・・・」
ミギは分が悪そうに引き下がると、隣の席のサラが話しかけてくる。
「キズくんが0シナっていうのは何かの間違いだと思うなー、キズくんこれまで5教科はもちろん、体育でも美術でも常に5評定だったでしょ?私の見立てによると”灰色のシナプス”に秘密があるんだと思う」
サラの言う事には説得力がある、僕はたしかに5以外の評定を取った事がないし、灰色だなんてイレギュラーには理由があるのだと思う。
「キズくん、放課後ちょっと付き合ってよ」
サラが長い髪を弄りながら何か秘密を隠してる様な物言いをする。
「いいけど・・・なんで?」
「ちょっと、試したくてね」