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【短編集】佑羽とぴあ

人間どもよ、いつまで鬼に豆が効くと勘違いしているのだ?

作者: 葉月佑羽

 今年も節分が終わった。非常に疲れる行事であった――。




 私は鬼である。そう、節分で追い回される、あの鬼だ。


 鬼と言っても、私は人間どもに何かをしでかした訳では無い。ていうか、殆どの鬼は人畜無害である。

 ほんとうに、とんだとばっちりを受けるようになったものだ――。


 なんでも鬼が追いかけられるようになったのは、昔も昔、太古の昔の鬼の集落が伝染病の発生地のすぐそばにあったかららしい。


 念の為言っておくが、鬼が伝染病を広めたわけではないぞ。大陸から来た渡り鳥めの仕業(しわざ)だ。




 ところが、だ。人間どもはすぐに鬼を原因だと決めつけた。


「見た目が恐ろしいから」


 という、ただそれだけの理由によって。

 当時は、科学がそこまで発展していなかった訳だが、それにしてもひどい。ひどすぎる。


 どうして鬼に分かることが人間どもに分からないのであろうか?





 そして、話はそこで終わらなかった。当時の鬼の族長だった男はいい人過ぎたのだ。


「まぁ、誰でも勘違いすることはあるだろう。話せば分かってくれるはずだ」


 族長はこう考え、人間の家を訪ねた。まさか人間に襲われるとは全く思わずに。



 知っている人もいるだろう。

 族長は家の住人から豆を投げられた。煎ったばかりのあつあつのやつを。

 そして運悪く、豆のうちの一つが彼の目に当たったのだ。


 彼は視力を失った。彼は失意のうちに寝込み、事件から一年経たずに亡くなってしまった。

 最期まで、誤解を解き、人間と関係改善することを夢見ていたという。



 結論から言うと、彼の願いは叶わなかった。

 人間どもは自らに起こる都合の悪いことをどんどん鬼の所為せいにしていった。

 天災、人災、伝染病。全てが鬼の所為せいとされ、鬼を追い払えば幸せになれると信じられていた。

 馬鹿馬鹿しいことこの上ない。幸せは自分の手で掴むものだ。





 人間どもの勘違いは止まらない。

 人間どもは、鬼を追い払うのに豆を使うようになった。

 おそらく、あの時族長がやられたことで鬼は豆に弱いのだとでも思ったのだろう。


 鬼と族長の名誉のために言っておくが、別に鬼は豆が嫌いという訳では無い。

 ただ、不意打ちに面食らった上に、運悪く目にあつあつの豆が当たってしまっただけなのだ。いわゆる不幸な事故ってやつだ。


 人間どもは何を勘違いしたのか、豆を投げたら鬼が追い払えると喜んでいるが。





 そして、人間どもはそれだけじゃ飽き足らなかったのか、不可解な行事を作り出した。


 そう。2月3日、節分だ。



 聞けば、節分は人間どもが一年の無病息災を願う行事だとか。


 病気の原因を鬼だと考えている彼らにとって、無病息災を祈る=鬼を追い払うということなのだろう。


 彼らは、前日まで何も言わなかったくせに、2月3日だけ豆を投げ、鬼を追い払おうとするのだ。


「鬼は外、福は内」と言いながら。


 無病息災を願うという行事でありながら、一緒に自らに福をも呼び寄せようとするのは、いかにも強欲な人間らしいと思う。






 この行事がいかに滑稽なのかお話しようと思う。


 まず、先程述べた通り、人間どもが思っているほど鬼に豆は効かない。人間が対鬼最強兵器だと思って投げている豆が、実はノーダメだと気づいたらどんな気持ちになるであろうか?



 他にもある。

 鬼の世界では、食べ物で遊ぶなど言語道断である。ガキにも満たないような鬼が、母親に怒られているのをよく見る。


 人間は違うのであろうか? 彼らの子どもは、嬉々として豆を鬼に向かって投げてくる。母親もにこにこと見守るだけで、誰も咎めようとはしない。


 私としては、食べ物を使って遊ぶようなものに福が訪れるとはにわかに信じ難いのだが――。





 極めつけに。実は、鬼はあれから一度も人間の家には行っていない。人間どもは、同じ人間に豆を投げるようになったのだ!



 これがただ鬼がいないので人間が代役を果たしているだけなのか、それとも鬼の襲撃に備えた訓練をしているのかは専門家によって意見が異なる。


 もし代役なら、「鬼は外」などと言われ豆まで投げられる人間は不憫だと思う。

 そしてこの豆まきは、訓練にしてはいささか緊張感が欠けすぎであろう。






 こんな滑稽な行事でも、鬼に影響はある。

 一言で言うと、軍事的緊張が高まるのだ。



 鬼の世界にも「過激派」「強硬派」と呼ばれる人たちが少なからずいる。

 彼らは未だに、鬼を辱めた人間どもを許してはいないのだ。そして、鬼には豆という考え方すら、鬼を侮辱したものだと考えている。鬼はそんなに弱い生き物ではない、と。



 私の役目は、彼ら「過激派」を節分のあいだ中監視することだった。戦争などという間違いは絶対にあってはならない。


 一度起これば、取り返しのつかないことになるのだから――。


 私は非常に忙しい一日を過ごした。

 過激派のトップと面会し、事を荒立てないことを約束させた。集落を駆け回り、おかしな動きがないか見て回った。

 一日でこんなに移動するのはこの日だけである。






 そして迎えた時刻は現在、2月4日0時0分。


 今年も目立ったトラブルはなく、無事節分が終わった。

 繰り返しになるが、私は非常に疲れた――。

いつも頑張って働いてるのに、家で豆を投げられる父親マジ不憫(?)


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― 新着の感想 ―
[一言] 今更ですけど人間って勝手ですねー(´・ω・`)
[良い点] 誰もが知っているイベントの誰も知らない裏側の世界。そんな切り口に面白いなと思いました。 [一言] 保守穏健派のみなさん頑張ってくださいね!
[良い点] 鬼から見た豆まきへの意見という視点が面白い作品でした。 自分たちに何も非はないのに、見た目のせいで悪いことの原因にされる彼らが可哀想に思いました。 それと同時に、この作品内では人間と鬼でし…
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