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カラーセレクション  作者: 清水 悠
ー青ー
7/8

はじまり

そして現在。

海野 夕子として物語を考える時はこの事を思い出す。


中庭に咲く華やかな桜の下で、手に馴染んだ万年筆を滑らせる。心地よい風と柔らかい芝生、そしてたまに降る桜。この場所での執筆作業は心が弾む。人気の場所なので競争率が高く、普段はあまり使えないのだけど今日は独占といえる状況だ。

なんたって今は入学式の真っ最中だから。


学校は休みなのだけれど、なんでわざわざここに来たかと言うと、所属する文芸サークルの勧誘活動があったから。その待ち時間に少しでも執筆しようかなって。ただこの場所への想いが強すぎて、入学する生徒より早く来てしまったのに気がついた時は1人で苦笑いするしかなかった。


「新入生はどんな子が入るのかなぁ」と何かを誤魔化すように呟き、水筒に入れてあるダージリンティーに手を伸ばした。


そして今書いているプロットを確認する。


この2()()()は桜をモチーフにしたベタな恋愛小説にする予定。なんだかんだ、ベタなものって1回触れてみたいよね。そういう気持ちから。


ちなみに1作目は「太陽を閉じ込めたビン」っていう短編小説を書いた。

神様が太陽のかけらをビンに詰める。

そのビンを手にした少女が旅をしながら色んな人を元気にしていく。そんなファンタジー。

あの時のビンが太陽を閉じ込めたように見えたからそれをイメージして書いてみた。


処女作だからって、サークルが運営しているホームページに掲載されたけど彼は気づいてくれたのかな?見てくれたなら感想くれるかな...。


淡い期待を抱きながら、体育館を見つめる。


そろそろかな...。入学式が終わる時間が近づいてきたから新入生の勧誘に行かないと。


荷物を纏めて体育館に向かうと、少し離れた場所に他のメンバーも集まっていた。


「お疲れ様です」

「あぁ、夕子ちゃんお疲れ様。コレ、よろしくね」

全員に挨拶して、先輩から勧誘のビラを貰う。

サークル内で呼ばれる時は、ペンネームって決まりになっているんだけど、多少の恥ずかしさはまだ残っている。


「今日はあの場所にいたでしょ〜、熱心だね」


なんとなくビラを眺めていたら、部長がおっとりとした口調で声をかけてくる。


「はい。今日なら人も少ないんじゃないかと思って」

「それはそうだね〜。だからこそ、凄く目立ってたよ〜。君を見つめてる男の子もいたしね。春は出会いの季節って言われるくらいだから、何かあるかもね〜」


あはは〜と優しい笑みを浮かべながら、他の部員の所に行ってしまった。気遣いが出来て、鋭い感性と感の良さを持つ、ちょっとぽっちゃりした部長。更に運動神経もいいのに、学力は平均以下と何が何だか分からない不思議な人だ。


そんな部長に何かあるかもと言われ少し胸がザワついた。


そうこうしてるうちに体育館の扉が開いた。

よーいドン、と言わんばかりに在校生達が飛び出していく。勢いで行くとこっち側が新入生の様だ。


我先にとド派手なアピールを始める。二刀流と称して、おもちゃのぷにぷにしたバットを2本構えてチャンバラを始める野球サークル。半円を描くような浮き玉でパスを繋げて、希望者にその下を潜ってもらうサッカーサークル。好きな掛け声を掛けてくれ!!!と叫び、ポージングを取るボディービルサークル。いい掛け声は大会で使うらしい。校門で蹲踞(そんきょ)と呼ばれる構えで整列し、不動を貫く。学校の門番、ガーゴイルこと剣道サークル。


基本的にパフォーマンスが凝っているのは運動部だ。文芸大学の割に、アクティブな生徒が多いのはこの学校の魅力の一つ。


少し離れたところでビラを配りながら横目で見物する。私達はこの手のアピールは苦手だったから、バラバラでビラを配る形で落ち着いた。


「みんな凄いよね〜。そして相変わらずボディービルサークルは1番人気みたい」


「あんなにムキムキな人見たことないですから、気になりますよね。…ちなみに何かありました?」


「あのね〜、夕子ちゃんは校門の方へ行ってもらおうかと思って。お願いしてもいいかな」


「分かりました。大丈夫です」


「ありがとう〜。じゃあよろしくね〜」


僕も筋トレしたらムキムキになれるかなぁ、と呟いて部長はボディービルサークルの近くでビラを配りを始めた。


ムキムキの部長かぁ。そうなるとアスリートだよね…。部長はぽっちゃりだから部長だもん。校門に向かいながらそう思う。


そして最後の曲がり角に近づいた時、賑やかしい声が聞こえてきた。


「おぉー、カッコイイ」「まじで門番みたいだよね」「風情あるなぁ」「一同が統率の取れた動きで向かってくるとなると、かなりの迫力になりそうだ」


思い思いの感想を述べながら、目に入ってきた観客のほとんどはスマホを構えている。もちろん、公式で撮影OKだ。


そのまま目立たないように門番の横を通りすぎ、門の外に出る。さすがに空気を読んで、校門の内側で声をかけるのは遠慮しておいた。


「一緒に小説を書きませんかー?」


そう言って、通りかかる子達にビラを差し出す。

体感で3人に1人くらいは受け取ってくれる。何人かはその場で興味を示してくれたりと手応えはあった。


「学校で掲載されたり、文化祭で売り出したり、人に見てもらう機会が出来て楽しいですよー」


アピールもしっかりしながら配り始めて30分くらい経った時だった。



突然、背後から声をかけられたのは。



「作品、掲載されてましたよね?」


スラーっとした黒縁メガネをかけた男の子。


「え?は…はぃ!」

驚いて思わず背筋が伸びた。それにビラも落としそうになる。


「太陽を閉じ込めたビン…で合ってます?」


少しだけ不安そうだが、何故か確信を持っているな表情をしていた。


「そ…そうだけど…」

名前だけの掲載だったから普通にわかるはずがない。今度は私が不安になる。


「発想が面白かったです。体だけじゃなく、心まであっためるなんて。特に、犬との会話のシーンが一番好きでした」


犬のシーンは物語の佳境で、1番盛り上がる場面。そして、自分でもお気に入りだったから素直に嬉しかった。本当にしっかり読んでくれてるんだと気持ちが倍増する。


感謝の気持ちと一緒に疑問をぶつけようとしたその時



「お約束の感想です」



その一言は、私の頭の中を掻き回した後にピタッと止めさせた。何の言葉も出てこずに、ただ立ち尽くすしかなかった私を見て彼は続ける。



「感想、不満でしたか?」


固まった私の顔を微笑みながら覗き込んでくる。

それは私の頭より先に、心臓を強く動かした。その鼓動を受けて反射的に顔をそらすことが出来た。

そしてやっとの思いで一言だけ絞り出す。


「な…なんで…?」


「約束しましたから」


それを待ってましたとばかりに、今度はドヤ顔にも見える表情で見つめてくる。


そこじゃない!

いや、そこもだけど、聞きたいのはそこだけじゃない!!


心の中でツッコミを入れつつ、最初の言葉を補足する。


「なんで、私ってわかったの...?」

「あー、やっぱりそれは気になりますよね‥」


そういう彼は、バツの悪そうな顔をしていた。コロコロと変わる表情が少し面白い。


「実は…僕の家、あの海の前なんです。だから、家の中から先輩の事を見てたんですよ」


「あぁ‥なるほど」


唐突なネタバレを喰らった。

何となく気がついていたけれど、見て見ぬふりをしてきた事を目の前に持ってきて突きつけられた。こういうのは想像する余地があるから楽しいんだよ、と頭の中で呟く。


「その顔は何となく気がついていたんですね。あー…、もしかして驚いていると言うより怒ってたりします…?」


そうです。正解です。

そう言える訳もなく、ただただ脳内会話を繰り返すしか無かった。口に出す言葉まで頭が回らない私を見て、彼はゆっくりと語り始めた。


「部屋の窓から毎日海を眺めてたんです。夕日がすごく好きだったから。そしたら先輩も毎日海を眺めてることに気づいて...その後ろ姿が凄く儚げで、消えてしまいそうに見えて心配になったんです。声をかけたいって思ったんですけど、怖がられるだろうなって。それで、どうしようか…って考えて思いついたのがアレだったんです」


たぶん大成功だったんですよね。と少し頭を傾けて困ったように微笑む。


うんうん。大成功だったよ。あれで勇気を貰えたから。

そのまま伝えればいいのに、照れと驚きに押し負けてまたしても耳には届かなかった。


「まぁ、でもよかったです!先輩が元気そうで。とりあえず今日は帰りますね?驚かせてごめんなさい。また学校で会いましょうね!」


彼はそう言って締めくくった。

さすがの私でも、このまま帰したらダメな事は分かった。しっかり感謝の言葉を伝えないと。それに成長したんだよっていう所も見せたかった。


「うん、元気だよ。君のおかげで私は変われたから。あの時のままだったら今でも一人だったかもしれない…。作戦は大成功だね」


心からそう思った。


「それは光栄ですけど、僕のおかげというより先輩の力だと思いますよ。でも、そう思ってもらえるなら次は僕の事お願いしますね」


彼はぺこりと頭を下げた。


「え?どういうこと‥?」


「僕もサークルに入るんですよ。だからご指導お願いします。って事です」


あ、そういう事だよね。別に何を期待してた訳じゃないけど‥。でも、彼がサークルに来てくれるって言ったのは嬉しかった。


「君も小説好きだったもんね。一緒に頑張ろうね」


そういって微笑む。


「はい、これからよろしくお願いします!あと!!」


ここで初めて彼の語気が強くなって、また背筋を伸ばしてしまう。


「次は急に消えるのは無しですよ...?ショックだったんですからね!」


そう言って右手を差し出す。


確かに、逆の立場だったらやっぱりショックだ。そこまでの配慮が足りてなかったなって、自分勝手な振る舞いだったと反省する。


申し訳ない気持ちと、これからの期待を込めてその手を握り返す。


「あの時はごめんね。さすがに今は急に消えたりしないから。これからよろしくね」


「お願いしますよ!先輩!じゃあまた学校で」


そう言い残して、ゆっくりと右手を話して走り去っていく。


少しもどかしいような、楽しみが増えたような、あの頃の感覚が蘇る。

見送った後、もうあるはずのない体温が自然に右手から広がって行った。まるで遅れた青春を取り戻すかのように。

次回ー緑ー


貴方と紡いだ時。

ささやかだけどすべてが幸せです。

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