マ王
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人類の希望を背負って立つ三人の少女が居た。
その魔法の才能を見出され、今回のパーティーに抜擢された、どこかで見たような村娘。その真っ白な髪と凍てつく表情は、全ての敵に恐れられ、如何なる魔族も凍り付かせる氷魔法の使い手。
生まれながらにして魔王を倒すことを宿命付けられた、どこかで見たような男性恐怖症の聖女。
その強い正義感と圧倒的な戦闘能力で、騎士の国において絶大な人気を誇る。過去のトラウマで馬に乗れなくなってしまった、どこかで見たような姫騎士。
彼女達は、宿命によって結び付けられ、ともに魔王討伐の旅に出た。三人だけで魔族の領土へと侵入し、乾坤一擲、魔王の首を狙う。あまりにも無謀な作戦であったが、それでも少女達は魔王の下まで辿りつくことに成功したのだ。
遠く険しい旅路であった。特に魔族領へと侵入してからは、魔族軍の警備があまりにも厳しく長期的な潜伏を余儀なくされた。しかし、このままでは魔王城へと辿りつくことは不可能だと思われた時、奇跡が起きる。何者かが大きな陽動を行い、その間魔王城の警備もそちらへ引き付けられたのだ。
しかし、いざたどり着くことができても魔王の壁は強大であった。今まで厳しい試練を乗り越えてきた少女達は、きっと自分たちこそが魔王を打倒する存在であると確信を持っていた。その思いとは裏腹に、まるで戦いにもならず、まさに赤子の手をひねるかのようにあしらわれて、少女達の自信は霧散する。
「ハッハッハッ! 弱いっ! 弱すぎるぞ、お前たち。もう少し私を楽しませろっ!」
膝を付く少女達の前で高笑いする魔王は、その禍々しい魔力に似合わず絶世の美女であった。180センチにせまる身長、大きな胸と臀部はまるで重力の影響を排除されたかのように、その存在を主張していた。その紫の肌は艶やかで、整った端正な顔の上には白銀に輝くストレートヘアーが腰まで伸び、頭頂にはとぐろを巻く二本の角が生えていた。
「うう、なんて魔力なの」
「ソウゾウ イジョウ ニ ツヨイ」
「しかし、私たちは、負けるわけには……」
「ふん、つまらんな、もう終わりか。この程度、夕食前の余興にもならんわ。これで終わらせてやろう」
満身創痍の少女達の前に、無傷で立ちふさがる魔王。その掌に濃密な魔力が立ち上る。今まさに、それが放たれ、少女達の運命が終わろうとしている。その時、予想外の事態が起きる。魔王の視線が左右に走り、そしてある一点に止まった。
「誰だっ! こそこそしてないで姿を現せ!」
魔王の檄が飛ぶと、その視線の先にある柱の裏から、一人の男が姿を現した。
「よくぞ気付いたな。フッフッフッ、お邪魔してます」
「貴様、ふざけたことをぬかしおって。この女たちの前に消し炭にしてくれるぞ」
「ちょっと待て。その前にこれを見てもらおうか!」
男は、懐からフリップボードを取り出すと、魔王の前に突き出した。
「ズバンッ! 見よこのグラフをっ!
あ? 見えない? ごめんなさい、ちょっと説明したいんで、そっちに行きますね。
ちょっ、攻撃すんなよ! お話がしたいだけだからな。攻撃すんなよ!」
「あ、あいつは、ニセ勇者!」
「ナニシニキタ」
「アキオさん。なぜこんなところに」
「して、何用だ。私を楽しませてくれるのだろうな」
「ああ、楽しませてやるともさ。まず、このグラフを見てくれ。これは商人である俺が、各地を回って調べ上げた人口推移になっている。この地点が魔族達が人間社会へ本格侵攻しはじめた5年前、そしてこれが現在の人口だが。このグラフを見て分かる通り、なんと微増! 微増なのですよ!」
「な、なんだって!? 嘘をつくな! 私が魔王となってから、いったいどれだけの人間どもを殺してきたと思ってるんだ!」
「バカヤロウ! 人間の繁殖力を侮るんじゃねえ! 純然たるデータが示す通り、精強なる魔族諸君の奮闘虚しく、全く殺し足りてないんだよ」
「フン、世迷い事をぬかしおって。このグラフでも増加ペースは落ちてきているじゃないか。去年との比較では、ほとんど増えていないと言えるぞ。対して下の棒グラフに書いてある、戦死者数も増加しているじゃないか。
この調子でいくと、十年もすれば人間の支配領域のほとんどを魔族の手中に収めることも可能ではないか?」
「そう、この調子でいけばだ。次のフリップを見てほしい、これは俺と知り合いの商人達が販売した妊婦用品の売り上げ推移だ。昨年と比べて倍増しているのが分かるだろう」
「何! ほ、ほんとだ」
「実は各国で、一年少々前から子供を多く生んだ家庭に対する、税金面での優遇処置が施行されている。これにより、今年以降の人口推移は、大幅な上昇が予想される。そして、戦死者数をここ数年の変化から推測して。向こう十年の人口推移を予想したものがこれだ」
「そんな馬鹿なっ!」
「たぶん来年には、戦線が拡大しきるよね。このグラフだと戦死者数は、ここ数年通り単純に増加するように計算してるけど。俺が思うに戦死者数は今年の二割増し程度、再来年には頭打ちだと思うよ」
「な、なんてことだ、負けるというのか。精強なる我が軍が、いくら戦いで勝ち続けても最後は滅びるというのか」
「バッキャローーッ!! お前が諦めてどうする! 長たるお前が諦めてしまっては、今まで散っていった同胞の将兵達は死んでも死に切れんぞ」
「ううぅ、くそう。みんな、私はどうしたらいいんだ」
「そこで、商人である俺がこの状況を打開する秘策を持ってきた!」
「な、なにっ!」
「それは、子作りだっ! この城の資料室にあった魔族人口統計と、実質的な平均寿命を見て計算してみたが。これ以上無理に戦線を拡大せず合計特殊出生率、つまり女性一人あたりが生涯に出産する子供の人数を5.5人にすれば現在の状況は均衡する!」
「なるほどっ! あ、いや、それは、とてもじゃないが無理だ。我々の種族の男は、性的に非常に淡泊で、発情期が非常に短いのだ。それに環境が悪いために幼児の死亡率も高い。そんなに子供を作ることは現実的じゃないぞ」
「フザケンナッ! お前、今戦争してるんだぞっ! なんだ、合計特殊出生率2.2って。馬鹿にしてんのかっ! 戦争以前に絶滅すんぞ! 今は、樹海を出たところあたりで戦線が膠着してるんだから。ここは一度防備を固めて、樹海を開拓しろ! せっかく緩衝地帯になってた樹海を取ったんだから。
そして、その他の心配は一切無用! これを見よ! これは剛槍通天永勃遠起丸といって、ロバストベアーの胆や、ディープワンの睾丸といった天然の生薬を十八種類配合。これを飲めばどんな弱兵もたちどころに天を貫く剛槍を持ったパーフェクトソルジャーと成り、一晩中腰を振り続けるマシーンと化す! いいか、一晩中だ! 日が沈んでから、朝日が昇るまで! 抜かずの一晩! 抜かずの朝日だ!」
「ゴクリ……ひ、一晩中」
「魔族の同胞達を救う救世主となること間違い無し!! 剛槍通天永勃遠起丸、一瓶に五錠入って、なんと今なら金貨一枚! 金貨一枚? 安いっ!!」
「か、買います!」
「なんと! 今なら十瓶セットでお買い上げいただくと、こちらのショゴスの乾燥粉末入りのお香をプレゼント! 体内魔力に直接働きかけ、強力な催淫効果を引き起こす! これでどんなにお高くとまった、初心なお嬢さんの天岩戸も砕き割る。お前のダムにバンカーバスターッ! 今、未曾有の大災害が、あの娘の足を閉じることを許さない!
剛槍通天永勃遠起丸一瓶五錠入り十瓶セットに、合わせてお使いいただけるショゴスの乾燥粉末入りお香を付けて、金貨十枚! 金貨十枚っ! …安い、安い! ヤッスーーーーイィィィェァッ!!」
「買います……買います! ………買いまーーーースッ!!
……あ、あれ、足に力が」
「フッフッフッ、ようやくお香が効いてきたようだな。こんなこともあろうかと部屋に入った時に、四隅に仕掛けておいたのだ。思ったよりも部屋が大きくて焦ったぜ。
さあ実演販売の時間だ。俺は自分の扱っている商品に対して、非常に強い責任感を持った男だからな。お客様にご満足いただけるよう、販売の前に広告通りの効果をしっかりと体験していただかなくてはならない」
「アキオよ、とうとうこの時が来たのだな。夢にまで見たぞ、魔王の身体を我が刀身が貫く瞬間を」
「ああ、大丈夫だ。俺の開発したお香の効果は、完璧だ。俺に都合の良い筋肉だけが瞬時に弛緩して、いつでも全ての穴が使用可能だ。インヴァイ、お前も休む時間は無いからな。
えーと、寝室はどっちかなー」
「「フハハハハハハッ!」」
「あっ、こらっ、担ぐな! 変なところに触るんじゃない! キャッ! そこはトイレッ! えっ!? まずはここでって、えっ!? いやっ!
キャァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「「「………………」」」
「帰ろっか?」
「「うん………」」




