ジン・オブ・ホーリーソード
◆◆◆
あれから一年は経っただろうか。
俺は友の下を離れてすぐに、ドワーフの国へ赴いた。友から貰った牙と皮を加工するためだ。
それからは、行商をしながら各地を旅した。海に面した村へ行っては塩や海産物を仕入れ、内陸の山間部へ行っては売り歩き、また山の幸を仕入れた。都心へ行っては食料を売り、田舎へ行っては古着や小物を売った。
全ては野望のため。そう俺は勘違いをしていた。落ち込んでいる場合などでは、なかったのだ。友のおかげで、早めに気付くことができて僥倖とすら思った。
確かにこの時代の人間には、宇宙船やロボット、それどころか内燃機関や蒸気機関すら作ることは出来ないだろう。だからといって、この世界にロボットや宇宙船が無いとは言い切れない。
つまり
「古代文明だ!!」
そう! この世界はボ〇ムズじゃないかもしれない。だが、ガ〇アンかもしれないじゃないか!!
世界各地の古代遺跡を巡り、古代文明のロボットを発掘するのだ。
「手始めに行ってみた、ドワーフの国にあった遺跡は、かなり近かったんだがな」
なんか有機的なデザインをした、ロボットの装甲みたいなのがあったんだよな。
「何とかバインに、そっくりだったんだよ」
スゲーテンション上がったのに、肝心の中身が全然見つからなくて。後から調べたら、大昔に絶滅したらしい巨人族の遺跡なんだと。
「あのサイズで普通の鎧だったとか。ホント無いわー」
という訳で、俺は世界各地を行商しながら情報収集して遺跡を巡る、商人兼業トレジャーハンターをしている。
そして、この度やってきたのはエルフの国。エルフ達の持つ歴史は非常に長く、数百年を生きる者も珍しくない。そのため、結構昔のことまで正確な情報が残っている。
「今回は期待が持てますよ、ハッハッハッ」
次の標的に選んだこの洞窟は、どうやら人工的なものらしいが。なんとエルフの歴史上、いつ何のために作られたのかまったく分かっていないのだ。
「廃鉱ってわけでも、自然洞窟でもない。いったい何が埋まっているのやら」
俺は、ピッケルを担いで洞窟を進む。さほど入り組んだ構造ではない。おそらく最奥付近に、別空間へとつながる道が塞がっているのだろうと踏んでいる。
「さて、この辺か?」
俺はその場に座って、世界の理力とその身を通わせた。
どこかにあるはずだ。どこだ?
しばらく探ると、右手側、壁の中から違和感を感じる。この感じは…………あまりに、穏やかな理力だ。もしや、生物では無いな。
「ビンゴだ!」
俺は壁に向かってピッケルを振り下ろす。理力を高め、ピッケルの先端まで通わせる。
「フンッ! この程度の岩盤で! フンッ! この俺を! フンッ! 阻めると! フンッ! 思うなよ!」
こちとら食料の準備は二週間分あるんだ。理力を込めたピッケルは、順調に岩盤を削ってゆく。
そして十日後、俺は岩盤を掘りぬいた。
「出た! やはり空間があるぞ」
俺はランタンで辺りを照らす。
「意外と狭いな。クソッ、ロボットは埋まっちまってるのか。俺は諦めねえからな」
だが、狭い空間の中央、地面から突き出た物体を見つける。
あれは、頭部アンテナか? いや………
「剣だ!」
「我が眠りを覚ますは、何者か?」
「なんだ?!」
「我は戦神に仕えし者」
「戦神?」
「名を名乗れ!」
「アキオだ!」
「……。そうか、ようやく時が訪れたか。ならば、受けるがよい。我が分身、いにしえの聖剣を!!」
「断る! そんなことよりロボットだ!!」
「「…………」」
「なあ、抜いとくれよ~。我、聖剣だよ。魔王倒すのに必要だよ。おぬし勇者だろ?」
俺の目の前には、喋る自称”聖剣”が、地面に刺さっていた。
「本当に、この下にロボットは無いのか? ほら、二足歩行の、巨大な」
「無い! そんな物、見たこと無い! この下にも無い!」
確かに、俺の感覚でもこの下には何もない。どうやら理力反応の原因は、こいつだったらしい。
「はぁ~、また空振りか。仕方がない、抜けばいいのか? てゆうか随分錆びてるな、ちゃんと抜けんのか?」
グリグリ
「大丈夫だ。封印から解き放たれれば、周囲の魔素を吸収して、って、そんなにグリグリするな、普通に上に引っ張れば――」
「いやいや、上に引っ張ったって抜ける訳ないだろ。こうやって前後にグリグリ振って、地面との間に隙間を作ってからだな」
ボキッ
「「……………」」
俺の手の中には、自称聖剣の柄の部分だけが握られていた。
「いや、悪かったって。まさか、聖剣とか言っておいて、こんな簡単に折れるなんて思わなかったんだよ」
「お前!! なんてことをしてくれたんだ!!」
「ああ、よりによって柄の方が本体なのか。こりゃ打ち直しも不可能だな」
「我はな、引き抜かれて封印が解けたら、周囲の魔素を吸収して一気に、光り輝く聖剣になるの!! 封印されている時は、周囲の環境にも影響されて錆びるもんなの!!」
「悪かったって。そんなに怒るなよ。過去を振り返るよりも、建設的な話をしようぜ。柄になっても聖剣なんだろ? 何かできることはないのか?」
「そんな無茶な。我の刀身は魔術回路が複雑に彫り込まれ、周囲の魔素を強力に吸収、励起させる。その時、我は光り輝く聖剣となり何物をも断ち切ることができるのだ」
「うん? つまり、こういうことができるのか?」
俺は理力を練り上げ、師匠のステッキから光の剣を作り出した。
ブオンッ
「あー、そうそう、そんな感じで――って、何でおぬし、自前でできるんじゃ!?」
「これも良き師のもとで修行をした成果よ」
「説明になっとらんわ! 今の我では出力が足りん。精一杯、励起させたところで」
ブルブルブルブル
「こうやって、自身をわずかに振動させる程度にしかならん。もう、我の存在意義っていったい…………」
「ふむ」
俺は鞄からある物を取り出す。
「まあ、そんなに落ち込むなって。ほら、これを付けてやるから」
「な、何じゃ、それは!? 竜の牙? 何という禍々しい形じゃ」
「そう、こんなこともあろうかと、竜の牙を加工した時の余りで作っておいたのさ。男性器を模して竜の牙を削り出した、このドラゴンディルドをな!!」
「ば、馬鹿、ヤメロッ!」
「まあまあ、よく考えてくれ。インテリジェンス・ソードなんて、世界中にありふれているかもしれないが。きっとインテリジェンス・バイブなんて世界初だぞ。オンリーワンだぞ、オンリーワン」
「ありふれてなんか無いわ! どっちにしろオンリーワンじゃ!」
「大丈夫、大丈夫。お前に貫かれれば、きっと魔王もイチコロだぜ」
「そんなわけあるか!!」
「これからお前をインテリジェンス・バイブ、略してインバイと呼ぶことにしよう」
「こんなのが勇者のはずがない。勇者は、居なかった。勇者なんて、居なかったんじゃ」
「そんなに落ち込むなよ。ほら、念のために竜の腹皮の余りで造っておいた鞘に収めて、腰に差せば。もう、他から見たら短剣にしか見えないぜ。元気出せよ、性剣」
「もういい、儂、性剣でもインバイでも、何でもいい。
勇者は消え、聖剣は失われ、大地は荒れ、魔が蔓延り、この世は終焉へと向かう。もう誰にも止めることは、できんのじゃ」
「そんな大げさな。剣なんて、壊すことしか能の無い姿よりも、今のお前の方が輝いてるぜ」
俺はインバイを慰めながら、エルフの街へと帰るのだった。




