表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汚れた勇者  作者: 汚れた座布団
第三章
13/27

仁義あるドラゴン

「えぐっ、えぐぅ…………ぐすっ」


 目の前には、大地に膝を屈し、両手をついて、ガチ泣きする男、アキオがいた。


「えぐっ………だって……神様が、物語の世界だって…………えっぐ………俺、SFが大好きで……ぐす………乗り物が大好きで……ズビズビ………俺、空飛ぶバイクとか……ジェットエンジンに引っ張られる小っちゃいカゴとかに……乗ってみたかっただけなのに…………ズルズル………」


 物凄い鼻水だ。


「だって、おぬし三カ月もこの世界にいたんじゃろ? いくらでも気付く機会は、ありそうなもんじゃのに」


「……えっぐ……だって……最初の森で、暗黒面のボスっぽい爺さんとも戦ったし…………ズビ………緑の小人みたいなのに、理力を教えてもらったし…………ずるずる……」


 ああ、それは、きっと…………ゴブリンじゃな。

 というか、宇宙に行くことよりも、ゴブリンに魔法を教えてもらったことの方が、よっぽどの奇跡じゃの。


「……俺……宇宙に行きたくて……ひっぐ……ロボットとか乗りたくて……えぐっ………」


「ま、まあまあ。おぬしと儂は、同じく神に騙された同志じゃ。ほれ、欲しがっていた牙も去年抜けたやつがあるし。これをあげるから元気をだすんじゃ」


「…えっぐ……ひっぐ………お腹の皮も……欲しいです………」


「えっ、お腹のところは、意外と敏感で。けっこう痛いんじゃが……………」


「………………えぐっ……」


「あげるからっ! お腹の皮もあげるから!」









「見苦しいものをお見せした。本当に申し訳ない」


 あれからアキオが立ち直るまでに一晩を要した。頬がこけ、目にはクマができ、一気に十年は老け込んだように見える。


「本当に大丈夫かの」


「心配をかけた。もう俺は大丈夫だ」


 まったく大丈夫じゃない顔で、アキオは言った。


「元の世界に戻る方法は無いのか?」


「無いのう。儂が知る限り、神に召喚された者は過去にも居たようじゃが、元の世界に帰ったという記録は、終ぞ見つからなんだ。

 異世界とやり取りのできる魔術も存在しないようじゃし。もしあるならば、儂も知りたいところじゃ」


「そうか…………もう、バイクに乗ることも、クルマに乗ることもできないんだな」


 アキオは酷く落ち込んでいた。生き甲斐の全てを失い、失意に沈むその姿は、かつての儂自身と被って見えた。


「元気を出せ。エンジンは無いかもしれないが、馬とかもいいもんじゃぞ……儂も乗ったことは無いが。

 ほら、儂でよければ、お前を乗せて空を飛んでやるから。空だっていいもんじゃぞ」


「そうか…………そうだな。それは楽しみだ」


 アキオは初めて少し笑顔を見せてくれた。








「ところで、この世界については、どれだけ知っておるんじゃ?」


「いや、ほとんど何も知らないな。辺境惑星の、機械文明を嫌って牧歌的な生活を営む国という認識だったからな。

 他の国へ行けば宇宙船なんて、そこら辺にゴロゴロしていると思っていたぐらいだ」


 なにそれ、アキオさんスゲーっす。マジ想像力パネェっすよ。


「いや、この世界は、大よそ地球でゆうところの中世以前の文明じゃな。魔法やモンスター、エルフや獣人といった異種族も存在する。ファンタジーRPGみたいな世界じゃな」


「ふぁんたじいああるぴいじい?」


 えっ? この反応は、まさか。


「おぬし、本当に儂と同年代の日本から来たのか? RPGやったことないって、今日日ありえないんじゃが」


「ばばば、馬鹿にすんなよな! やったことあるし! 俺、超ゲーマーだし!

 ほら、あれだろ、敵を200機撃墜する毎にパワーアップするやつだよ」


 ……………それは、絶対、RPGじゃないな。


「で、ミスるとパワーダウンするんだよ。何かを百個集めるのが目標なんだよな。いやー、あれ超やったわ」


「それは、たぶん、恐らく、いや確実に違うんじゃなかろうかと。

 おぬしの話からすると地球から召喚された時代は、儂とそれほど離れていないような気がしたんじゃが。DQとかFFとかやらんかったのか?」


「DQ? FF? フィスト〇ァック?……

 ああっ! ファイナル〇ァイトかっ!?」


「あ、惜しい……惜しいか? まあ、それは置いておくとして。

 そういうんじゃなくてじゃな。こう、仲間とパーティーを組んで、コマンド選択式の戦闘で、経験を積んで強くなっていくようなやつなんじゃが」


「………………あぁー! 分かった、そっちね! 大丈夫、理解した」


 いや、RPGに「そっち」も「こっち」もねえよ。


「そう、最初は仲間を選ぶんだよな。で、序盤は五ターンぐらい防御だけで粘らないと、全然防御力上がらないんだよ。そんで石板を読みに行くわけだ」


 なにそのゲーム。儂の知ってるRPGじゃないぞ。


「月に一日は特殊なパーティーに切り替わるから。時間が進まないように、山に向かって”その場歩き”しながら敵とエンカウントしないと育成ができないんだよな。あれは本当に大変だったよ。ダンジョンの奥でパーティーが切り替わっちゃって詰んだ時は、本当に絶望した」


「いやいや、それでも儂の知るRPGと、だいぶ違うんじゃが。それどんなストーリーなのかの」


「あれは確か…………全人類が絶滅したところから始まって」


 あかん、それ参考にならんやつだ。


「今までは地下でひっそりと暮らしていた魔物達が、ようやく俺たちの時代がやって来たといって地上に出てくる訳だ。そこで突然、異星人の襲来。異星人達は地球を植民地にすることを決定、魔物達に隷属を強制した。そこで立ち上がる勇者たち! プレイヤーは十二の種族を代表する勇者たちを操作して、異星人を打倒するのだ!」


「凄いストーリーじゃな。いや、じゃが、しかし、まったく参考にならない」


 儂はアキオに王道ファンタジーとは、RPGとは何か、丁寧に説明した。アキオがそれを理解するのに、さらに一晩が費やされた。




 元の世界の話をしたり、一緒に空を飛んだり。アキオは一週間ほど、儂の巣に滞在した。本当の意味で心を開くことのできる友のいなかった儂にとって、アキオの存在は心に沁みるものであった。


 そしてある日、アキオはやるべきことがまだあったと言って旅立っていった。


「友よ、儂はいつでもここにおる。次に来るときは旅の話を聞かせておくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ