神の慟哭
◆◆◆
私は頭を抱えていた。
先日、件の世界に勇者を送り込んだ。送り込んだのはいいのだが、私はうっかり加護を授けるのを忘れてしまったのだ。
「ありゃ無いよ。散々焦らしておいて、なんで最後は即断即決なんだよ」
どうでもいい話が長々と続いた直後に
→ はい
いいえ
なんて選択肢が突然出たら、勢いで選んじまうだろうが。もうこっちは精神ゴリゴリ削られて、Aボタン連打してんだよ。
まあ、加護を授け忘れたのもいい。いや、良くはないが、もういい、諦める。そもそもにして私は、直接的に授ける加護の力以外にも、様々な「勇者育成プラン」を用意してあったのだ。
加護を授け忘れたことは非常に痛いが、何せこの私をして未来の一切を見通すことのできぬ者。多少――いや加護の時点で多少では済まないが――の想定外は仕方がないと見るべきだ。そもそもにして、いくら強力な加護を授けたところで、異世界に召喚されて間もなく、自身の力も使い慣れないうちは事故死の恐れもある。
そこで登場、育成プランその1、森の賢者。森の賢者が持つ強力な魔法や、知識の全てを吸収。
育成プランその2、聖獣現る。賢者の知識と自分に懐く聖獣、これで森は安全だ。聖獣は勇者とともに成長し、無くてはならない旅のパートナーになるだろう。そして、成長した暁には美少女に変身――
「き、君は、まさか、あの犬なのかい?」
動揺する勇者。しかしそれだけに留まらない。
次々に遭遇するヒロインたち。勇者に憧れる天才ツンデレ魔法少女。同じくパーティーの貴重な回復役を担う癒し系、聖女。ハーレムパーティーで目指せ魔王討伐。
しかし、現実はどうだ。
「賢者は殺す、聖獣も殺す、しかも食う…………なんだよ、ゴブリン師匠って…………ヒロインの母親まで食うし…………なんでわざわざヒロインにトラウマ植えつけてまわってるんだよ」
だいたいな、冒険者ギルドでの登録、そこで受付嬢が――
「こ、この魔力は……」
「生意気な新入りだな、勝負だ!…………な、なにぃ、俺の剣を止めるだと!」
「儂がギルド長の何がしだ。君にはやってもらいたい依頼がある」
ってゆう流れが有ってだな。初の討伐依頼、慢心する勇者、油断からの負傷、街に戻り落ち込む勇者。
「あなたさまは、もしや勇者さまではございませんか」
本来ここで聖女登場だよ! なんで入口からフラグへし折っといて、ここで心を折りに戻るんだよ! そっとしといてやれよ!
「頼む、姫騎士、お前だけは逃げてくれ」
私は間違ったのだろうか。もしや魔王よりも遥かに恐ろしいモノを世に放ってしまったのではないだろうか。
私は机に突っ伏した。
「ハァー、何もかもうまくいかない…………」




