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汚れた勇者  作者: 汚れた座布団
第二章
10/27

聖女の務め

◆◆◆



 神に愛された少女がいた。


 その少女は魔力を感じる力が強く、生まれつきに特異な力を持ち、触れるだけで傷つき病める者を癒すことができた。少女は人々を癒す旅をしながら時に預言を語り、魔獣を退けた。美しいブロンドの髪を靡かせ清浄な乙女が魔に立ち向かい、身分の如何によらず人を癒す姿は、人々を大いに惹きつけた。


 いつしか彼女は、宗教上の象徴となり聖女と呼ばれるようになる。強大なバックボーンを得て、国々の代表たちも大いに少女を支持した。それでも彼女は、旅を止めることをしなかった。彼女には予感があった。伝説に残る、勇者に付き従う聖女と自分を重ね、憧れていた。そして、自身も強大な魔に立ち向かう運命を感じていたのだ。


 そして、ある村に滞在した時、預言を賜る。”辺境の城塞都市に赴き、そこで為すべきを為せ。勇者が其方を見つけてくれるだろう。”


 彼女は憧れと使命感に背を押され。旅の先を、その街へと向けた。









 街に入った彼女は、人々の噂を耳にする。


「塔の勇者が現れたらしい」


「まさか、塔の勇者って……最後に現れた話だって曾爺さんが現役の時だぞ」


「およそ半世紀ぶりってことか」


「まさか生きて目にすることになるなんてな」


「それも一晩で攻略したって話だ」


「ば、馬鹿な。そいつは本当に人間か?」


「ああ、どこもその話題で持ち切りだぞ」


「俺の曾爺さんも半年かけて最上階まで行ったが。最後は腰の骨を砕かれて引退を余儀なくされたんだぞ」





「(勇者さま……)」


 早速耳に入る勇者の話題に聖女の心は高鳴った。


「(いえ、先ずは教会で区長に挨拶をしなければなりませんね。その後に治療院で奉仕活動。そこで、きっと出会えますわ)」


 聖女は、すぐに走り出しそうになる自分を抑えて教会へと向かった。








「ありがとうございますじゃ、聖女さま」


「いえ、これが私の義務ですから、お気になさらず。ご自愛ください」


「ありがたや、ありがたや」


 聖女は拝み出す老人を外に促し、次の患者へ声を掛ける。


「次の方、どうぞお入りください」


 彼女が治療院で奉仕活動を始めて二日目。街に住む老人や、怪我を負った冒険者に対して癒しの力を使い、人々の苦悩を取り除いていった。


 その合間にも聞こえてくる勇者の噂に、彼女はその時が近付いていることを予感していた。そして、男が部屋に入ってくる。




「どうも、よろしくお願いします」


「は……あ、あなたは」


 体中に電撃が走るような衝撃を感じた。彼女は、理解したのだ。この人だ、この人こそが自分の探していた、そして自分を探しているであろう勇者なのだ。


「どうかしましたか?」


「いえ、すみません。そちらの椅子に座って、楽にしてください」


 勇者の唐突な登場に混乱していた彼女は、なんとか気持ちを落ち着けると着席を促す。そして一番に気になっていたことを尋ねた。


「あなたさまは、もしや勇者さまではございませんか」


「勇者? いや、確かに一部でそんなことを言われているようですけど。”さま”なんて付けるほど大したことはしていませんよ」


「そんな、ご謙遜を。こちらまで大変噂になっておりますよ。なんでも半世紀ぶりの大偉業を達成なされたとのことで」


 彼女の元に届く断片的な噂から察する勇者の活躍を、彼女はどこか自分の事のように誇らしく思っていた。


「いやいや、そんな立派なことではありませんよ。まあ、男として当たり前のことを当たり前にやっていたら、いつの間にかという感じでして。いや、お恥ずかしい」


 本当に恥ずかしいことしかしていない勇者であったが。彼女は、謙遜しきりな勇者の朴訥な印象に好感を抱いていたのだ。


「あらいけない私としたら、自分の話にばかり夢中で。この度はどうなさいましたか。まさか、先の戦いで傷を負って」


「戦い? いや、確かに戦いと呼ぶに相応しい激しさでしたが。いや、しかし、うーん……」


「どちらにお怪我を? 大丈夫です。どんな怪我でも、触るだけでたちどころに治してみせますわ」


 彼女は少し誇らしげに言った。勇者の心配をしながらも、噂に聞く活躍に、こうやって間接的にでも関わりあえることを嬉しく感じていたのだ。


「ええっ! 触るんですか……触らなきゃだめですかね?」


「はい、直接触れることで、大きな治療効果が見込めるのです。大丈夫です、私はこう見えても今までにたくさんの人たちを診てきました。恥ずかしがらずにお見せください」


 彼女にとっては直接に触らなくても、一般の治癒魔術と比べて大きな効果が発揮できることは間違い無い。しかし、少女であるから恥ずかしくて患部が見せられないというのは、彼女が今まで成してきたことに対する侮辱でもあった。勇者のことをより身近に感じたいと思う彼女は、少し寂しく思ったのだ。


「なるほど、立派な志だ。分かりました、それでは遠慮なく」


 勇者は光の速さでパンツを脱いだ。


「いやー、昨日は大丈夫かと思ったんですがね。なんだか、白いチ〇カ〇がボ□ボ□止まらなくてですねぇ、しかもほら、よく見てください、今朝になって亀頭下部から出血まで――」


「ギ……」


「ぎ?」


「ギヤァアァーーーーァァッ!!」


 聖女は泡を吹いて卒倒した。






◆◆◆






「本当に申し訳ない」


 俺は自分の持ち物を全て背負って、城塞都市の門前で立っていた。目の前には鎧を着た男、この街へ最初に着た時にも親切にしてくれた門番が、腰を綺麗な直角に折り頭を下げている。


「半世紀ぶりに現れた塔の勇者を、街から追い出すことになるなんて。これは俺の人生における最大の恥だ。弁解のしようもない」


「もういいですって、頭を上げてください。あなたのせいじゃありませんし、俺の運が悪かっただけですよ」


「すまない、アキオ君。相手が教会の大御所で、僕の力じゃ庇いきれなかった。せっかく僕のお店から塔の勇者が出るなんて、大変な名誉を賜ったのに。街に君の居場所を作ることもできないなんて」


 そう言って頭を下げたのは、勤務先の店長だ。


「いえいえ、店長には大変よくしていただきましたから。本当に短いあいだしか勤務できませんでしたのに、退職金もたくさん用意していただいて。本当にお世話になりました」


「いや、君が僕の店にしてくれた貢献に比べれば、この程度微々たるものだよ。僕は、必ずこの街を出て、いろんな街に支店を出す。旅の途中で僕の店を見かけたら必ず教えてくれよ。その時こそ借りを返させてもらうから」




 俺はあの時、聖女の断末魔を聞いた直後、大勢の教会関係者に囲まれた。対する俺は下半身を露出し、目の前には泡を吹いて倒れる少女。しかも俺のオティムティム様は大勢の視線に晒されて、自分の意思とは無関係に少し大きくなってしまっていた。ここにきてまさかの、チンコが馬鹿になる現象である。


 騒ぎを聞きつけ、すぐに衛兵も集まってきた。俺は衛兵に経緯を説明した。教会関係者は怒鳴り散らすばかりで、まともに話ができなかったのだ。衛兵たちは話を聞いて納得し、俺の弁護をしてくれた。


「この方は聖女様だぞっ!

 様々な患者を診取り、中には魔獣に襲われ無残な姿をした者にも優しく治療を施し、笑いかける。そんな聖女様がここまでの衝撃を受けるなんて。そいつが口にすることも憚られるような、淫らなことをしたに違いないんだ!」


「馬鹿野郎! そっちが聖女なら、こちらに在らせられるのは我が国の誇る塔の勇者様だぞっ!

 この方はな、ハイオーク並の女を騎乗位で攻め立てる、驚異的な精神と脊柱起立筋をお持ちなんだ! そんな小娘を相手にするわけがないだろうが!!

 もしその話が本当ならば、我らが駆けつけるころには、その娘は無残な肉人形と化して、生きておらぬわっ!! その上、塔の勇者が受けた、厳しい戦いによる負傷を治しもせずに泡を吹いて倒れるとは、聖女ともあろう者が笑わせてくれるっ!!」


 少し引っかかる部分が無いでもないが、衛兵たちはよく弁護してくれた。

 しかし、相手が悪かった。どうやら俺がかまして(・・・・)しまった少女は聖女とかいう、教会のお偉いさんだったらしい。他国にも大きな影響力を持つ教会を敵に回すことは、一衛兵にとっては厳しかったようだ。それでも当初、処刑しろと言っていた教会関係者を抑えて、この街と教会への出禁で済ませてもらえた。門番のおっちゃんは命の恩人だ。


 ちなみに俺の負傷に関しては、本来治療院の担当だった爺さんを衛兵の詰所に呼んでもらえて治療済みだ。


「ふぉっふぉっふぉ、儂の代で塔の勇者さまの治療ができるとは、長生きするもんじゃわい。ありがたや、ありがたや」


 俺のオティムティム様を触りながらニヤニヤするのは、やめてください。




 そして俺は全ての準備を整え門前に立つ。


「本当にすまなかった」


「アキオ君、また会おう」


「はい。それじゃそろそろ、俺、行きますよ」


「アキオ君、どこか行く宛てはあるのかい?」


 俺は、再び旅へと戻る。


「そうですね、理力の導くままに」

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