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SW スピリットワーク(シナリオ版・第4話)

作者: アザとー

●シーン1・工事現場(発掘現場)


   何人かの作業員が丁寧に土の上を撫でている。

   その中に尾上、有田、白島の姿


有田「いったいどうしたんすか、二人とも」

   尾上と白島、お互いにそっぽを向いている。

尾上「別に」

白島「別に」

有田「うわあ、雰囲気最悪っすね」

尾上「シラトリ、そこの刷毛を取ってくれ」

白島「はい、尾上さん」

白島「ということで、いつも通りですよ」

有田「はあ、けんかしてても息はピッタリなんですね」

白島「別にケンカじゃないですし」

尾上「そうだ、ケンカじゃない。『いつも通り』だよ、有田」

有田「まあ、いいすけどね。ところで、何で今回は重機入れないんすか?」

白島「そう、それ、私も思った。ちまちまちまちまとめんどくさい!」

有田「白島さん、こういう繊細な作業苦手そうッスもんね」

白島「もう、いつもみたいに重機を入れてガーッと掘っちゃえばいいじゃないですか!」

尾上「残念ながら重機は使えないんだ、わかったら、口じゃなくて手を動かしてくれ」

白島「わかりませんよ! ちゃんと説明してください!」

有田「ああ、まったくもう、尾上さんは言葉足らずなんすよ、いまのじゃ何の説明にもなってないっす」

尾上「めんどくさいな」


    と言いながらもポケットから数枚の写真を取り出す。

    写っているのは土の上に置かれた刀剣


白島「これがなんですか?」

尾上「見ればわかるだろ」

白島「わかるわけないでしょ!」

有田「それは今回の出土品っすよ。作られたのは弥生時代の後期だそうです」

尾上「ところが、今回それが出土したのはごく浅い、若い地層。出土品と年代が一致しないんだよ」

白島「別におかしくないんじゃないですか? 例えば、おじいちゃんが畑から出てきた古い剣を大事にとっておいて、それを知らずに家族の人がここに捨てちゃったとか」

尾上「それならそれで、ここに遺跡はないということになって、今回の調査は終了だ」

白島「なるほど、つまり、この剣は最近置かれたものだと証明すればいいんですね」

尾上「そもそも白島、ここには何が建つか知ってるか?」

白島「知りませんよ」

尾上「ごみ処理施設だ」

有田「ごみの処理施設って、ないと困る大事なモンすけど、自分の家の近くにあるのって気分的に嫌じゃないすか、だからよく反対派に嫌がらせされるんすよ」

尾上「つまり、反対派の工作だという可能性も……って、ちゃんと聞けよ!」


   尾上の顔をじっと見ている白島


白島「尾上さん、ちゃんと朝ごはん食べました?」

尾上「は?」

白島「いえ、なんかいつもより不機嫌みたいだから」

尾上「お前と一緒にするな、朝飯ぐらいで機嫌が変わるか!」

白島「じゃあ、どうしたんです?」

尾上「いや、でも……」

白島「どうしたんです?」

尾上「お化けとか霊の話すると、お前、嫌がるじゃん」

白島「別に嫌なんじゃなくて、いるわけないものに心を砕くのが無駄だって言ってるだけですよ」

白島「でも、いいです、今だけはお化けの話でも聞いてあげますから、どうしたんですか」

尾上「うるさいんだよ、霊たちが。さっきからずっと騒いでやがる」

白島「ああ、いつものヘッドホン、してませんもんね」


   白島、自分の両手で尾上の耳をふさいでやる


尾上「おまっ! 近っ! や、これはっ!」

白島「これで聞こえなくなりましたか?」

尾上「いや、その、この体勢は……」


   キスをする一歩手前みたいな距離感

   有田、気を使って横を向く


尾上「エリー様、やめさせてくれっ!」


   ふわりと現れたエリー


エリー「あらっ! まあまあまあ?」

尾上「にやついてないで、何とかしてくれ、これはまずいだろ」

白島「またそうやって、見えない誰かと話してる……尾上さん、ちゃんと私と話してくださいよ」

尾上「うう、ううう……」


   とつじょ、エリーが厳しい顔になる


エリー「お遊びはそこまでよ、子猫ちゃん、来るわ」

尾上「え? 何が?」


   有田が悲鳴を上げる。

   その目の前にポツンと座っている日本人形

   

尾上「(白島の手を振りほどいて)どうした!」

有田「ここここ、この人形が、突然でてきたんっすよ!」

白島「有田さんとはちゃんと話すんですね、やっぱり付き合ってるんですか」

尾上「そんなことを言っている場合じゃないだろう、事件だ!」

白島「え~、そのお人形さん、出土品じゃないんですか?」

尾上「それにしては土の一つもついていないじゃないか」

有田「そうっすよ、それに俺は見たんすよ、こいつがすう~っと土の上に現れるのを!」

白島「そんなわけがないじゃないですか、ばかばかしい」


   と、人形に手を伸ばす。


尾上「ばか! 危ない!(白島を抱き寄せる)」

白島「なんですか、セクハラなら訴えますよ」

尾上「そんなんじゃなくてだな、あれが危ない霊だったらどうするんだ!」

白島「また霊の話……」

尾上「なんでだよ、お前だって霊がいるってわかったから、だからさっき俺の耳をふさいでくれたんだろ」

白島「あれは尾上さんが怖がっていたからです」

白島「尾上さんっていっつもそう、私の言葉は聞いてくれても、一番大事な心を見てはくれないですよね」

尾上「こんな時になに言ってるんだ?」

白島「ともかく、放してくださいよ。私、あの子に見覚えがあるんで」

  

   人形を指さす白島



シーン2・管理室


   デスクの上に置かれた人形を見ている小早川。

   その手には分厚いファイル


小早川「確かにこれはここに収蔵されていたものね。ちゃんと記録にあるわ」

  

   小早川の手元をのぞき込んでいる白島と尾上


白島「そんなに価値のある子なんですか?」

小早川「いいえ、寄贈してくれた方は古いからなにがしかの価値はあるだろうと思ってたみたいですけど、実際にはその時代によくあった子供のおもちゃ、まあ、風俗学的な価値くらいはあるでしょうけど……ぶっちゃけゴミです」

白島「なるほど、だから自らゴミ集積場に……」

尾上「そんなわけがあるか」

小早川「そうよ、白島ちゃん、人形は自分で動いたりしない、絶対に! 自分で管理庫から出たりもしないし、自分でどこかへ行ったりもしない、絶対に!」

白島「あれ? 小早川さん、もしかして……」

小早川「きっと誰かが管理庫から持ち出し、その発掘現場に置いたに決まってるの! 陰謀よ、陰謀! 人形が動いたりとか、絶対にないんだから!」

白島「怖いんですか、小早川さん」

小早川「べ、別に、ぜんぜん!」

白島「意外だなあ、小早川さんって、お化けとか信じないタイプだと思っていました」

小早川「そんなもの、信じるわけがないでしょ。ただほら、人形だけは……ねえ」

白島「怖いんですね」

小早川「怖いわよ、悪い? 小学校の時にホラー番組を見て以来、古い人形だけはダメなのよ!」

白島「え~、こんなにかわいい子なのに」

小早川「ちょっと白鳥ちゃん、よくそんなもの抱けるわね!」

白島「全然怖くないですよ、ほら」

小早川「いやあああああああ! こっち向けないでえええええええええ!」

白島「ぐふ、ぐふぐふ」

尾上「おい、ここぞとばかりに意地悪するのはやめろ、小早川さんがかわいそうだろう」

白島「ぶー!」

小早川「く、あなたなんかに情けをかけられるなんて、無念!」

尾上「じゃあ貸し借りなしにするために、この人形、しばらくお借りできませんか」

小早川「ダメよ! いちおう管理庫内に置かれた資料なんだから……」

尾上「管理庫なんかに置いておいても、また抜け出すかもしれませんよ、それよりも白島に預けておけば、ほら」


   ニコニコしながら人形を抱いている白島。


尾上「ね」

小早川「貸出台帳にきちんと記載して頂戴。使用目的は私が何とかしてあげるから、名前と連絡先だけでいいわ」

尾上「はいはい、じゃあこれで貸し借りなしってことで」

尾上「行くぞ、白島!」

白島「え、どこに?」

尾上「もう一度、その人形が現れた現場にだ。そいつは俺に何かを伝えたくて管理庫から抜け出した、そんな気がしてしょうがないんだ」

白島「また霊ですか」

尾上「白島、昼飯は済んだか?」

白島「まだです!」

尾上「現場に向かう途中によさげなパン屋があったなあ~」

白島「行きます! ぐふぐふ、パンパン、惣菜パン菓子パンサンドイッチ~」

   二人出てゆく


シーン3・パン屋・テラス席


   テーブルの上には山盛りのパン、白島はこれに夢中でかぶりついている。

   その向かいに座った尾上は、人形を手にしてつぶやいている。


尾上「なあ、頼むよ、何か言ってくれ。君は何者なんだ?」


   人形の横にぼんやりと少女の姿が浮かぶ


尾上「そう、いい子だ、怖くない。俺に何か言いに来たんだろ?」

白島「なんか、人形に語り掛ける怪しいおじさんにしか見えませんね」

尾上「白島、茶化すな! それを食い終わるまで静かにしていてくれ」

白島「はいはい」

尾上「エリー様、お願いします」


   ふわりとエリー登場


エリー「あら、かわいらしい。子猫ちゃんの隠し子?」

尾上「そんなわけがないでしょ、見ればわかるでしょ!」

エリー「やあねえ、ちょっとしたゴーストジョークじゃないの」

尾上「そういうのいりませんから。この子がですね、さっきから何も話してくれないんですよ」

エリー「ふうん?」

エリー「おじょうちゃん、こんにちは」

   首を振って後ずさりする少女


尾上「人選……いや、霊選ミスだったか。エリーさんじゃ怖いよな、顔が」


   少女が否定するように首を振り、手を振って何かのジェスチャーをする


エリー「怖くない……って言いたいのかしらね」

   

   深くうなづく少女


エリー「この子、言葉を封じられているんじゃないかしら」

尾上「そんなことがあるんですか」

エリー「あっても不思議はないでしょ。この子は人形という、現実にあるものを動かすほど強い想いを持っているんだから、そうした想いの強さが言葉を封じるなんて、よくあることだと思うけど?」

尾上「そうか、じゃあ、対話で済ませることはできないのか」

エリー「そういうことになるわね」


   パンを食べ終えた白島が人形をひょいと取り上げる。


白島「もういいですか、尾上さん」

尾上「あ、ああ」

白島「ぐふ、本当にかわいいお人形~」

   尾上が目頭を押さえる


エリー「どうしたの?」

尾上「どうやら閃輝暗点らしい。白島がキラッキラしているように見えるんだ」

エリー「あら、やあねえ、老眼?」

尾上「そんなわけは……あ、消えた。なんだったんだ、あれは」

エリー「恋愛フィルターだったりして」

尾上「恋する相手だけが輝いているように見えるってあれか? いやいやいや、ないだろう」

エリー「ふふふふ、まあ、そっちもがんばりなさいな、私は録画しておいた『夏の怪談60連発特集!』を見るので忙しいの」

尾上「幽霊が怪奇番組見るとか、それもゴーストジョークですか……」

エリー「じゃあね~」


   エリー消える。

   もう一度白島を見る尾上

   キラキラキラ


尾上「眼科に行くか……」


   目頭を押さえる


白島「どうしたんですか、尾上さん」

尾上「え?」

白島「さっきから私の顔をじろじろみて」

尾上「い、いや……シラトリが人形好きだったなんて意外だな、と思ってさ」

白島「白島です! てか、父のせいなんですよね」

尾上「お父さんの?」

白島「女の子って、着せ替えのできるお人形を買ってもらうものじゃないですか。私も小さいころ、あれに憧れましてね、父におねだりしたんです」

尾上「女の子らしいエピソードってやつだな」

白島「しかーし、私はうちの貧乏さ加減をなめていました。父が買ってきてくれたのは、確かに着せ替えはできるけれど、立体じゃなくて、ぺったんこの……」

尾上「ああ、文房具屋にあるやつな」

白島「だから、お人形さんには強いあこがれというか、そういうものがありまして、ぐふぐふ……て、尾上さん、なんでそんな生暖かい目でこっち見てるんですか」

尾上「いや、かわいいところもあるんだなあと思ってさ」

白島「かっ、かわいい?」

尾上「ああ、かわいい」

 

   白島がごしごしと目をこする


尾上「どうした?」

白島「いや、疲れ目ですかねえ、閃輝暗点が」

尾上「それは良くないな。ちゃんと眼科行けよ」

白島「はい」

尾上「とりあえず、その人形の調査、できるだけ早く終わらせるからさ」


   と、片手を白島に差し出す。


白島「だ、ダメです、尾上さん、さらに閃輝暗点がひどく!」

尾上「なに、大丈夫か、白島!」

白島「いま、白島って、ちゃんと……はう!」

尾上「どうした、白島!!」

白島「心臓が……いま、心臓がぎゅうって!」

尾上「狭心症か? 急ぎで病院へ行ったほうがいい」

白島「ああっ、触らないでください、尾上さん、心臓が、心臓が……」

尾上「白島? 死ぬな、白島~!」


   救急車の音。


シーン4・病院(処置室)


   救急車の音、遠のいて

   向かい合って座っている白島と女医


女医「まったく……恋の病で搬送されてくる人なんて初めてよ」

白島「それは、どんな病なんでしょうか。私の余命は……」

女医「余命もクソもないわよ、あなたはいたって健康な体よ」

白島「でも、目の前にこう……キラキラキラって光がいっぱい見えたんです」

女医「恋愛フィルターよ、それ」

白島「あと、胸のあたりが苦しくなって、口の中が甘酸っぱくもなったんだから、あれは吐き気なんだと思います」

女医「あのね、落ち着いて考えてくださいね。閃輝暗点が起きた時、あなたは何を見ていましたか?」

白島「尾上さんです」

女医「心臓が苦しくなった時、あなたの近くにいたのは?」

白島「尾上さんです」

女医「じゃあ、倒れた時、その尾上さんっていう人は何をしていました?」

白島「私を助けようとして、こう、手を握って……」

女医「はい、それが恋の病です。つまりあなたは、その尾上さんという人が好きなのね」

白島「ええっ?」

女医「好きなんじゃないの?」

白島「ええええええええええ!」

白島「そ、そんなこと一度も思ったことなくて……いや、好きか嫌いかでいわれたら嫌いじゃないですけど、イケメンだってことくらいしか取り柄がないし、ときどきおかしなこと言いだすし、いや、嫌いなわけじゃないですけど」

白島「ええええ……」

女医「念のためお薬は出しておきます。あと、尾上さんが絡まない状態の時に心臓の痛みが起こるようなら本当の病気ですから、すぐに受診してください」

白島「はい……」



シーン3・工事現場


   他の作業員が地面を撫でる中、ダウジング棒を持って歩き回る尾上

   そこへやってくる白島


尾上「お前、入院とかしなくて大丈夫なのかよ!」

白島「ええと、言いにくいんですが、たいしたことのない病気でして」

尾上「なんで言いにくいんだよ、たいしたことないなら良かったじゃないか」

白島「いや、くだらないことでご心配かけたなあ、と」

尾上「くだらなくなんかない、白島が無事で、俺はうれしいよ」

白島「くっ! 心臓が!」

尾上「どうした、やっぱり具合が?」

白島「なんでもありません。それより、尾上さん、できるだけ私に近づかないでください」

尾上「なんでだよ。俺、何かした?」

白島「あ、や、あ、その……あああああ、その棒、テレビで見たことあります」

尾上「ダウジングか。水道局などの公的機関でも採用されている、地中埋蔵物の探査方法だ」

白島「そんなの、オカルトじゃないんですか?」

尾上「まあ、単なる素人がやればな」

白島「尾上さんは素人じゃないと、たいした自信ですね」

尾上「見てろよ」


   尾上が数歩歩くと、ふわりと現れた少女の霊がその棒をクイと動かす


尾上「な」

白島「自分で動かしたんじゃないんですか?」

尾上「信じないならいいさ。そこの人形を取ってくれ」

白島「人形……ああ!」

白島「なんで土の上に座らせてるんですか、着物が汚れるじゃないですか!」

尾上「あ、そうか」

白島「そうか、じゃないです、これだから男の人は!」

尾上「じゃあ、人形は白島が抱いていていいからさ、ちょっとこっち来てよ」

白島「はい、こうですか?」

   尾上、かがんで人形の頭を撫でながら

尾上「なあ、教えてくれ、ここに何があるんだ?」

白島「く、この……イケボ……」

尾上「こまったな、俺はジェスチャーはあまり得意じゃないんだよ。ね、少しでも話せないかい?」

白島「は……話せます。いくらでも話しますともぉ!」

尾上「シラトリ、うるさい」

白島「はい、シラトリ……って、あれ? さっきみたいに白島って呼んでくれないんですか?」

   有田がひょこりと近づいてくる


有田「そんなの、照れに決まってるじゃないすか、白島さんの知らないところで、めっちゃ白島さんのこと呼んでいるから、その時のことを思い出しちゃって恥ずかしいんすよね、尾上さん?」

白島「私の……知らないところ?」

尾上「有田っ! 余計なことを言うな!」

有田「まあ、深くは聞いちゃダメっすよ、白島さん。オトコの夜の事情ってヤツっすから」

白島「むむむ? オトコの?」

尾上「違う、そういうやましい気持ちじゃなくて……」

白島「あ、わかった!」

尾上「あああああああ!」

白島「有田さん相手に、私の悪口ばっかり言っているってことですね」

尾上「へ?」

白島「だから、私のことを『白島』って呼ぶと、その時のことを思い出して罪悪感がめらめらと……」

尾上「違う! 有田と飲んでるときに悪口なんて……まあ、言うけど」

白島「言うんだ」

尾上「でも、そうじゃない、単に恥ずかしいだけだ」

白島「恥ずかしいって、何でですか」

尾上「オトコの夜の事情……」

白島「なんなんですか、それ、私には聞かせられないようなことなんですか!」

有田「聞かせるとセクハラになっちゃいますもんね」

尾上「有田ぁっ!」

有田「つまりですね、尾上さんは白島さんのことを……」

尾上「やめろ、エリー様、何とかしてください、エリーさ……」

白島「またそれですか!」

尾上「だって……」

白島「だってじゃないです。尾上さんは霊が見えるとか言い張るけど、いつもそれを言い訳にして私の『後ろ』としか会話しないじゃないですか! ちゃんと私を見て、大事なことはちゃんと私に言ってください!」

尾上「……しらし……」

有田「白島さん、もしかして尾上さんに自分を見てほしいんすか」

白島「ち、違くて……」

有田「もしかして、恋する乙女なんすか?」

白島「違う、違う違う!」

尾上「違うのか」

白島「ああ、違うけど、違って、あああああ!」

白島「なんだか心臓の不具合が再発したので、帰ります!」

   人形を抱えて走り去る

尾上「あ、待て、白島! 具合が悪いのに走るんじゃない!」

   追いかけて走っていく。

   突如、有田の背後からエリー様がずるりと立ち上がる。


エリー「グッジョブ、有田」

   

   有田、倒れる



シーン5・管理室


   人形をデスクに置いてぼんやりとしている白島。

   前之原は少し離れたデスクにいる

   そこへ小早川が入ってくるが、人形を見てぎょっと足を止める。


小早川「白島ちゃん、業務に関係ないものはデスクに置かない!」

白島「業務に関係……ないんですかね、やっぱり」

小早川「ど、どうしたの、なんか元気ない?」

白島「今日もきっと尾上さんが来るでしょ、で、私を発掘現場に連れていくでしょ」

小早川「そうね」

白島「でもそれは私が必要なんじゃない、このお人形さんが必要だからなんだろうな、と思ったら、なんだかむなしくなっちゃって」

前之原「ほっほっほ、恋じゃな」

小早川「ええ、恋ね」

白島「ええええええ! やっぱりそうなんですか!」

前之原「うむ、間違いない」

小早川「私の公務員生活心得その8、就業中にコイバナするべからず……だけど、今日は特別ね」

白島「いやいやいや、コイバナとか、よくわかんないです」

小早川「そんな、とぼけちゃって。ねえ、どこまでいったの?」

白島「どこまで? この前、そこの大通りにあるパン屋は一緒に行きましたけど?」

小早川「て、そうじゃなくて!」

白島「あ、食い倒れも行きました。お休みの日に一日かけて、市内のごはん屋さんをずっと食べ歩きしたんです!」

小早川「食べ物の話ばっかりじゃないの」

前之原「まあまあ、尾上君が相手ではそうじゃろうなあ」


   前之原、白島に近づいて


前之原「尾上君は他人と関わることを恐れるようなところがあってのう」

白島「つまり、ボッチですね」

前之原「もっとも、尾上君のように人から拒絶されたり、さげすまれることの多い人生では、それも分からなくはないがの

白島「それは尾上さんが悪いんじゃないですか、霊が見えるとか、霊としゃべれるなんて言ったら、普通の人はドン引きですよ」

前之原「そうか、白島ちゃんは絶対に霊を信じないんじゃったな」

白島「信じるも信じないも、そんなもの、いませんよ」

前之原「うんうん、それもまた世界の一つの在り方じゃな」

白島「はあ」

前之原「じゃが、尾上君が見ている世界は霊で満ち溢れていて、それが四六時中、彼をさいなめる。おまけに他人は彼が特殊であると線引きをして、誰も救いの手を伸ばしてはくれない。そんな世界で生きていたら、そりゃあ人嫌いにもなるじゃろ」

白島「う~ん、よくわかりませんが」

小早川「気にしなくていいわよ、白島ちゃん、どうせカッコいいこと言おうとして哲学的に話をまとめてるだけだから」

白島「あ、でも、尾上さんと自分を同じ生き物だと思うなってことだけはわかりました」

前之原「ひどいいいようじゃが、まあ、そうじゃな」

白島「でも、同じところもあって、だから同じ生き物でもあって……なんかまとめ下手ですいません」

前之原「いいんじゃよ、気持ちだけで分かっておれば、理屈なんかはいらない」

小早川「そう、だって、それが恋だもの」

前之原「ところで、そろそろ尾上君が来るんじゃないのかね」

白島「そうですね、行ってきます!」


シーン6・博物館入り口前


   白島が出てくる

   ロータリーに止めた4WDの前でうろうろしている尾上


白島「尾上さん、おはようモーニンっ!」

尾上「ああ、おはよう……って、いいのか、お前」

白島「何がですか」

尾上「もう、俺と一緒に来るの嫌だとか……」

白島「それでここで悩んでたんですか」


   白島、人形を差し出す


白島「じゃあ尾上さん、この子を抱いて歩きまわれますか? 変質者と間違われても知りませんよ」

尾上「確かに……」

白島「それに、尾上さんと出かけるとお昼代が浮くから、こっちとしても助かるんですよね」

尾上「じゃあ……」

白島「はい、いつでも呼んでください。ただし、お昼は忘れずに」

尾上「もちろん、もちろんだ、ありがとう、しらし……」

白島「おっと、シラトリでいいですよ。なんか、オトコの夜の事情なんでしょ」

尾上「いや、それは深く突っ込まないでくれると助かる」

白島「そうですか? まあいいです」


   白島、尾上に向かって手を差し伸べる


白島「行きましょう、尾上さん

尾上「あ、ああ」


   その手を取って、聞こえないほどの小声で


尾上「ありがとう、白島」



シーン7・4WD車内


   ハンドルを握るのは尾上

   助手席に座る白島はロールケーキをほおばっている


尾上「相変わらずいい食いっぷりだなあ。好きなんだな」

白島「はい、好きです。あ、でもこの際だから、ちゃんと修正しておきます。ロールケーキが特別好きなわけではありません」

尾上「そうなのか」

白島「どちらかといえばショートケーキが好きです」

尾上「そういえば一緒に食い倒れ行ったとき、食ってたな」

白島「はい、あのお店のショートケーキは特に絶品でした。また食べたいです」

尾上「そうか、そんなに気に入ったのか」

白島「また、一緒に食べに行きたいです」

尾上「はあっ!?」

白島「ど、どうしたんですか、ブレーキなんか踏んで」

尾上「いや、ごめん、たぶんめまいだ」

白島「大丈夫ですか、運転代わりますよ」

尾上「いや、いい、大丈夫。それより、さっきなんて言った?」

白島「あのケーキ屋さん、また一緒に行きたいなって……ダメですか?」

尾上「ああ、ああ、そうか、俺が一緒に行かないと財布もままならないもんな」

白島「それもありますけど、尾上さんと一緒に食べるほうがおいしいかなって……」

尾上「はあぐああああ! うわあ!」

白島「危ない! 本当に運転代わりますよ」

尾上「そ、そうしてくれ」


   運転入れ替わって


尾上「今日のお前、心臓に悪すぎ」

白島「心臓悪いんですか?」

尾上「いや、物理的に悪いっていうんじゃなくてだな……」

白島「別にいいですけど、どこに向かえばいいんですか」

尾上「15号線をまっすぐ行ったところに小さな寺がある。ナビの通りにすすめ」

白島「はあ、そこに何があるっていうんですか」

尾上「その人形な……」

 

   走り出す車のエンジン音


シーン8・寺(入り口)


   駐車場に4WDが止まり、尾上と白島が下りてくる

   若い住職に頭を下げる二人


尾上モノローグ「直接の寄贈者は年を取ったご婦人だった。その人は古物屋の店先で人形を見つけて買ったものの、家族が怖がるので家に置いておくこともできず、博物館に寄贈するということを思いついたらしい。で、彼女に人形を売った古物商に問い合わせたところ、もともとはこの寺に納められていたものじゃないかというところまでたどり着いてな」


シーン9・寺(本堂)


   お辞儀しながら入ってくる尾上と白島

   かなり年を取った住職が座っている

   その横に寺の嫁らしき若い女性が介護のために付き添っている

   人形を差し出す白島


住職「おお、この子は……」

白島「知っているんですか?」

住職「昔、戦争があったころのことじゃ」

嫁「もう、お義父さんは話し出すと長いんだから、ダメ」

嫁「それねえ、うちに供養のために納められていたものらしいの。でも、盗難にあってね」

白島「盗難? 他に盗られたものは?」

嫁「ないのよ、盗られたのはそのお人形だけ。だからうちも盗難届を出しただけで終わりにしちゃったんだけどね」

住職「違う、盗難ではない。人形が自分で出て行ったのだ」

嫁「そんなわけないでしょう、しっかりしてよ、お義父さん」

住職「人形は自分で出て行った」

嫁「人形は自分で動いたりしません。せいぜい髪が伸びるとか、首が回るとかあるけれど、それだってインチキだってテレビで言ってたでしょ」

住職「しかし、この子は……」

嫁「こんな感じで少しボケちゃっているんで、たいした話は聞けないと思いますよ」

尾上「それでもかまいません。俺たちはご住職の話を聞きにここへ来たんですから」

嫁「物好きねえ。まあ、それならごゆっくりどうぞ」


   嫁、退場

   住職、人形を抱く


住職「どこへ行っておったんじゃ、尋ね人には会えたのか?」

尾上「彼女と話ができるんですか?」

住職「話なぞできんよ。ただ、身振り手振りでいろんなことを教えてくれただけじゃ」

尾上「どんなことを?」

住職「この子は、妹さんを探しているんだそうな」

尾上「妹さんったって、相当な年でしょう」

住職「そうさなあ、この子が死んだのが戦時中だったのだから、そうさなあ」

尾上「彼女は今、とある発掘現場に現れて何かを訴えようとしています。これは妹さんと何か関係あるんでしょうか」

住職「そうさなあ、あるのかもしれんなあ」

尾上「彼女の身振りがわかるんでしょう、なにか!」

住職「そうさなあ、こうして『大きい、大きい』と伝えてくれているが、大きいだけではなんともなあ」

尾上「そうですよね、ありがとうございました」

住職「ああ、待ちなさい」

尾上「はい?」

住職「君ではなくてそちらの、見えない方」

白島「私ですか?」

住職「見える人と君とでは見えている世界そのものが違う。だからこそ、君は君の見える世界のルールで彼を守りなさい」

白島「私のルールですか」

住職「見えるものを信じる者だけが、見えないものを見るものを救うことができる。私の妻もそういう女性だったよ」

白島「んがっ! 妻って!」

住職「ええのう、初々しい男女というものは」

白島「や、いやっ! 尾上さんは仕事上のお付き合いの人ですから!」

尾上「仕事上……」

白島「なんで落ち込んでるんですか!」

尾上「せめて『友人』とか、もう少し近しいこと言ってもらえるかと思ってた」

白島「甘えんなですよ! 私の友人になりたいんだったら、昼ご飯! ステーキで手を打ちますよ!」

尾上「財布に厳しい友情だなあ」

白島「そのくらいでいいんです!」

   白島、歩き出しながら


白島「そのぐらいの関係でちょうどいいんですよ、私たちは……」



シーン9・白島の部屋


   疲れた顔で入ってきた白島

   手には人形


白島「はあ、手掛かりなしか……」

   ベッドに転がり込み、人形を引き寄せて


白島「まあ、私は……これで明日も尾上さんと出かける口実ができたかな、なんて……」

白島「うわ、はっずかしいっ! 何やってるんだろ、私!」

白島「ねよねよ」

   と、人形を見ながらしばし逡巡

白島「ま、いいか、一緒に寝るくらい」

白島「ぐふ、こういうの、夢だったのよね」

   眠りにつく



シーン10・夢(炎の中)

   子供が炎の真ん中で泣いている。

白島「な、なにこれ、夢?」


   さらに子供の泣き声が大きくなる


白島「夢だからって、ほっておけるかぁっ!」


   炎を飛び越えて子供の近くに。

   あの人形にとりついている霊の少女


白島「どうしたの、大丈夫?」

少女「こわいよお、あついよお」

白島「せめて、せめて炎のないところに」

少女「そんなところ、あるの?」

白島「ある……といいなあ」

少女「そんなところ、どこにもないよ。みんな焼けちゃうの。だから、爆弾は嫌い」

白島「そんなの、私だって嫌い!」

少女「そう? でも、爆弾は爆発するよ。いっぱいいっぱい人が死ぬの、戦争みたいに」

白島「何を言ってるの」

少女「お姉ちゃんは優しい人、私をかわいがってくれたから、逃げて。爆弾が爆発する前に、逃げて」

白島「逃げるって、どこへ!」

少女「どこへでも。お姉ちゃんは生きているんだから、どこへでも行ける」

白島「あ、ま、待って、どこへ行くの!」

少女「焼かれて死んじゃうなら、ちゃんと言っておけばよかった……」

白島「なにを?」

少女「サヨ……」

白島「待って、待ってってば!」



シーン11・管理室


   ぶすっとした顔で座っている白島

   尾上が入ってくる


尾上「うわ、どうしたんだ」

白島「なんでもないっす、夢見が悪かっただけっす」

尾上「有田みたいなしゃべり方するのはやめろ」

白島「今日も行くんすか、人形の尋ね人さがし」

尾上「当たり前だろ。いやなのか?」

白島「いやってわけじゃないです。むしろ昼ご飯が楽しみっていうか……でも、あまりに手掛かりがなさすぎませんか?」

尾上「確かに、ううん、どうしたもんかなあ」

白島「あの、尾上さん、私、お化けとか予知夢とかオカルトとかこれ~っぽっちも信じないんですけど、『サヨ』さんって人に心当たりあります?」

尾上「サヨさん?」

白島「年は多分、80歳前後だと思います」

尾上「ふむふむ」

白島「あ、ああ、忘れてください。ただの思い付きです」

尾上「思い付きか、なるほど……エリーさ……」

尾上「いや、エリー様に聞くまでもない。俺は白島の思い付きに賭けてみるよ。ちょっと役所に行って調べてくるから、今日はここで待っていてくれ」

白島「あ、私も手伝います」

尾上「いいや、俺一人でいい」

白島「そうですよね、私がいるとお昼代がかさみますもんね」

尾上「すまん、言葉足らずだった。そうじゃなくて、顔色がよくないんだからできるだけ座っていられるようにして欲しい。土産にロールケーキ買ってきてやるからな」

白島「ロールケーキが好きなわけじゃないって言ったじゃないですか」

尾上「そうか、ショートケーキだったな」

白島「それは、尾上さんと一緒に食べに行かないと意味がないから……」

尾上「俺と一緒に?」

白島「連れて行ってくれるんでしょ。その……すごく楽しみにしてるんです」

尾上「ぐあっ!」

白島「ダメですか?」

尾上「いや、いい。こうなったら昼までには調べもの済ませて戻ってくる。昼休みは一緒にケーキ屋に行こう」

   

   よろよろと出ていく尾上

   それを見送る前之原と小早川


小早川「尻に敷かれるタイプですね、あれ」

前之原「いやあ、ほほえましいねえ」



シーン12・管理室


   時計を見上げる白島

   針はすでに12時を過ぎたところ

   

白島「お昼には戻ってくるって言ったのに」


むすっとして人形の服の裾などひねる


白島「別に、尾上さんがいないならおにぎりがありますし、いいですよ~だ」


   そこへ駆け込んでくる尾上

   

尾上「見つけたぞ、白島!」

白島「お昼ご飯!」

尾上「人の顔見て昼飯扱いはやめろよ」

白島「てか、見つかったんですか?」

尾上「ああ、市内の老人ホームに、まさにサヨさんという人がいてな、人形の話をしたら、会ってみたいって!」

白島「行きましょう、尾上さん!」

尾上「待て待て、昼飯は?」

白島「そんなの、車の中で食べればいいです。この子、早くサヨさんに会わせてあげましょう!」

尾上「オカルトは信じないんじゃなかったのかよ」

白島「そういうのとは違うんです。なんていうか、このお人形さんがすごくサヨさんに会いたがっているような気がして……オカルトじゃなくてメルヘンですよ、メルヘン!」

尾上「うわ~、そっちのほうが痛いわ~」

白島「いいから、行きますよ!」


シーン12・老人ホーム(個室)


   ベッドには人形を手にして目を細めるサヨ

   ベッドサイドに白島と尾上


サヨ「ああ、懐かしいわね」

白島「この人形は……」

サヨ「戦争中、爆撃で死んだ姉の形見よ」

尾上「お姉さんの……」

  

   ベッドの上にふわりと降り立つ少女の霊


サヨ「姉が死んだ日の朝、私たちは実にくだらないことで喧嘩をしたわ。雑炊に入っていた芋が多かったの少なかったのという、実にくだらない理由だったわ」

白島「わかります。食事は大事ですもん」

サヨ「でもねえ、そんなに怒ってたわけじゃないの。私は小さかったし、お姉ちゃんが謝るまで自分からは謝るもんかって、ふふ、意地を張ってたのね」


   少女の霊がふわりとサヨの体を抱く


サヨ「意地を張って、だから、永遠に言いそびれてしまった言葉があるの。ずっとずっと、言いたかった言葉があるの」


   サヨが人形を抱きしめ、涙を流す


サヨ「お姉ちゃん、ごめんなさい……」

少女「サヨ、ごめんね」


   静かに泣くサヨと、それを抱きしめる少女。

   見守る尾上、無言



シーン13・老人ホーム(玄関)


   人形を抱えて出てくる白島

   その後ろに尾上と少女の霊


尾上「そうか、君は、あの一言を言うためだけに言葉を封じていたんだな」

白島「尾上さんったらまた、誰と話しているんですか」

尾上「あ、ごめん」

白島「別にいいですよ、もう慣れましたから」


   少女の霊が尾上の袖を引く


尾上「ん、成仏するのか?」

少女「その前に、あのお姉ちゃんと逃げて」


   少女、消えかけながら


少女「あそこには爆弾が埋まってる。私を焼いた爆弾が」

尾上「不発弾か!」


   少女消える


白島「どうしたんですか、尾上さん?」

尾上「白島、今だけは霊がいるのいないの、俺が胡散臭いだの言わずに、信じてくれるか?」

白島「どうしたんですか、いったい」

尾上「あの発掘現場には、不発弾が埋まっている」

白島「ええっ!」

尾上「俺は今から、それを確認しに行く。お前はここに残れ」

白島「何でですか、警察にでも行って、専門の人呼べばいいじゃないですか!」

尾上「で、霊が教えてくれましたっていうのか?」

白島「あ」

尾上「そういう理由じゃ信じてもらえないってのはいやっていうほどわかっている。だから俺は、あそこにある不発弾を見つけなくちゃならないんだ」

白島「でも、危ないです!」

尾上「だったらなおさら、俺がやらなきゃ!」

白島「尾上さん……行かないで……尾上さんがいなくなったら私……私……」

尾上「白島……」

白島「私の今日のお昼はどうなるんですか!」

尾上「そこかよ!」


   笑い出す尾上


尾上「ああ、やっぱりお前が馬鹿だと安心するわ」

白島「馬鹿で悪かったですね!」

尾上「いいや、お前の馬鹿は人を救う、いい馬鹿だ。だから、少なくとも俺は、何度もお前に救われたよ」

白島「馬鹿にいいも悪いもありません、馬鹿っていうやつが馬鹿なんです!」

尾上「そうだな、俺も馬鹿だもんな。だから、一つフラグを立てていこうかな」


   とつぜん白島を引き寄せて耳元で


尾上「生きて帰ってきたら、聞いてほしいことがある。とても大事なことなんだ」

白島「尾上さん、それ、告白みたいですよ」

尾上「そうかもな。ま、俺はちょっと行ってくるから、お前はここで待ってろ」


   颯爽と立ち去る尾上


白島「ええと、ええと、あの時住職さんに何言われたんだっけ、尾上さんを守ればいいんだっけ?」


   グルグル歩き回る白島


白島「ええと、ええと、私のルール……そう、私のルール!」



シーン13・発掘現場


   一人でユンボを操っている尾上


尾上「くそっ、どこに埋まってるんだ!」


   突然、派手なブレーキ音が鳴り響き、タクシーが止まる

   タクシーは白島を下すとすぐに走り去る


白島「尾上さああああああん!」


   ユンボに飛び乗り、尾上にしがみつく白島


白島「ここまでのタクシー代、3800円、ちゃんと返してくださいね!」

尾上「お前、何でここに来たんだよ!」

白島「これが私のルールです」

尾上「はあ?」

白島「私はお化けなんか信じないんだから、ここに不発弾が埋まっているなんて話も信じない! 尾上さんがあちこち掘り返して無駄骨折るのをここで見守ってあげますよ!」

尾上「お前なあ、俺がせっかくかっこよく決めた告白……」

白島「あんなの告白じゃないですよ。ちゃんと私を見て、好きだって言うまでは告白だとは認めません!」

エリー「ということよ、あきらめなさい、子猫ちゃん」

尾上「しゃあねえなあ」


   白島のあごをくいっと引き寄せ、キスの体勢


尾上「オトコの夜の事情ってのを思い知らせてやるからな、覚悟しろよ、白島」

白島「望むところですよ」

   目を閉じようとしたその時


有田「あの~、お取込み中すまないっす」

白島「あああああああ有田さんんん!」

有田「水臭いっすよ、尾上さん、ユンボ使うなら俺を呼んでくれればいいじゃないすか」

尾上「ばかっ、危ないんだって言っただろ!」

有田「ああ、不発弾っすか? 平気平気、前も掘り起こしたことあるんで、慣れてます」

尾上「いや、不発弾ったって、絶対に爆発しないわけじゃないんだぞ」

白島「ええっ、そうなんですか?」

尾上「知らなかったのかよ……」

有田「はい、どいて、ユンボは俺」

エリー「大丈夫よ、子猫ちゃん、私が方向を指示するわ!」

尾上「白島、お前は逃げてもいいんだぞ」

白島「いいえ、逃げません。尾上さんに言わなきゃいけないこと、私にもあるから、一緒に帰りましょう」

尾上「告白かよ」

白島「どっちかっていうと謝罪ですね。べにこさんの一件の時、私、尾上さんを傷つけてしまったから」

尾上「ああ、あれは……」

白島「誤解しないでくださいよ、尾上さんなんか一ミリ……いや、一ミクロンも怖くないですから。いろいろと複雑なオトメの事情ってやつです」

尾上「わかったよ、さあ、始めよう」

 

   ユンボが動き出す

   エリーが地面を指さし、何かを怒鳴る

   そんな中、尾上がそっと白島の手を握る

   ついに不発弾の一部が顔を出す


尾上「やった、やったぞ!」

白島「やりましたね!」

   二人、抱き合って


白島「あの時は、怖がってごめんなさい、尾上さん」

尾上「やっぱり怖かったんじゃないか!」

白島「怖いこともあるけど、それよりももっと、大好きです」

尾上「え、は? ああ、うん」

白島「ほら、尾上さんも言って!」

尾上「ああ、えっと……好き……デス」


   ユンボの上からにやにやと見守る有田とエリー

   不発弾に夕日が照り返して


                FIN





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