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鎮守の山  作者: 村良 咲
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もう一つの失踪

 拓人から佐々木さんという6年生の女の子がいなくなったという話を聞いたあと、部活を終えて家に帰ると、珍しく鍵がかかっていて、家の中に電気がついている様子がなかった。

「おかしいな。母さん、買い物にでも行ってるのかな・・・」

 僕が中学生になってから、母はパートの時間を延ばして午後5時まで仕事をすることになり、それでも6時前には帰ってきていて、僕が部活を終え6時頃に学校を出て家に着く頃には、ほとんどいつも家にいた。

でも、念のためにと、僕は学校に行くとき家の鍵を持って行くようになり、それで鍵を開け家に入ると、家の中が真っ暗で、シーンと静まり返っていて、ラッキーがいる気配もない。

「こんな時間にいつも散歩しないよな・・・ラッキーもいないって、どういうことだ?」

 部活が終わったときと学校を出るときに外にある手洗い場で石鹸を使って洗ったばかりだったが、家に着いたら必ずやる手洗いうがいをして、重くなっている足を引きずり2階の僕の部屋に入ると、カバンとリュックを勉強机の上に置き、学ランを脱いで部屋着のジャージに着替え、下へ降りて台所に行くと、いつもは母がコップに麦茶を用意しておいてくれることを自分でやり、落ち着かない気持ちで一気飲みをした。

 今まで考えたこともなかったいつもと同じじゃないことが、えも言われぬ不安となって僕の心をざわつかせた。

「母さん、どこに行ったんだろう・・・」

こんなときに限って、去年自分が迷子になったときのことを思い出し、両親の心配や不安を少しだけ実感できたような気がしていた。

 あの子がいなくなったという話を聞いちゃったから、よけいに自分が迷子になったことが思い浮かんじゃったんだな・・・あの子、どこにいるんだろう。

10分ほどそうしてもやもやとしていただろうか。すると、玄関が開く音がした。

「あ、帰ってた?ごめんごめん、ちょっと出てた」

「どこ行ってたんだよ・・・」

少しだけ攻めるような口調になってしまったことに、しまったと心の中で思ったが、一度出た声は引っ込めることはできない。

「だから、ごめんってば」

母は玄関に用意してあったラッキーの専用タオルでラッキーの足を拭くと、僕を見つけてはしゃぎ始めていたラッキーが僕に跳びついてきた。

「ラッキー、散歩か?よかったな」

ラッキーの頬を両手で包むようにして耳の後ろを掻いてやると、ラッキーは顔をぐるぐると回し喜ぶ仕草をした。

「すぐご飯の支度するから。遅くなっちゃったから手抜きでいいかな」

独り言なのか僕に聞かせるつもりなのかわからないような声音でそう呟くと、冷蔵庫を開けてなんやかや出している母の背中にむかって、『手抜きかよ』と、心で毒ついていると、まるでその声が聞こえたかのように急に振り向いたので、まさか聞こえたか?と思っていると、

「ねえ、日曜日に宮小の6年の子がいなくなったって話、学校で誰かに聞いたりした?」

「えっ?なんで?」

「その様子じゃあ、知ってたみたいだね」

「いや、今日だよ。今日たまたま聞いたんだ。その子のお兄さんと仲がいいお兄さんがいる子が部活にいるんだよ」

「そう。私、今その話を聞いたばかりでね。立て続けにそんなことが起こるなんて、なんだか怖いなって思ってね。まあ、まだハルちゃんは・・・」

「は?ハル?ハルがどうかした?」

母の言葉を最後まで聞くことなく、「ハル」という言葉に被せるように自分の声が出ていた。

「いや、だからハルちゃんはしっかりしてるから、誘拐ってことはないんじゃないかと思うんだけど・・・」

「はぁ?誘拐?何それ?どういうことだよ」

かなり強い口調になった。

「ああ、だからね、ハルちゃんがまだ帰ってないって、さっき帰ってきたときお母さんが言ってて、いつも5時にはちゃんと帰ってくる子が5時半になってもまだ帰らなくて、どうしたのかなって心配してて、それで宮小の子がいなくなってるって話を聞いて、そんなことがあったばかりじゃあ心配にもなるねって話して、じゃあって、私もラッキーの散歩があるからってことにして、ラッキー連れてその辺を歩いて探してたんだよ」

「で?ハルはいたのか?だから帰ってきたんだろ?」

「ううん。まだ帰ってこなくてね・・・」

「帰ってこなくてねって・・・じゃあなんで帰ってきたんだよ!」

ずっと、強い口調になってしまった。カッとしていた。混乱もしていた。ハルがまだ帰ってこないと聞いて、ものすごく焦っていた。

それこそ、佐々木って子がいなくなった話を聞いたばかりで、そんな日にハルが帰らないなんて聞いて、僕はかなりテンパってしまっていた。

「なんでって、あんたがそろそろ帰ってくるし、夕ご飯のこと何もしてないからさ・・・それにハルちゃんは遅くなってるだけかもしれないし、もうちょっと待ってみるって、ハルちゃんのお母さんがが言うから・・・っていうか、あんた、そんなにハルちゃんと仲良かったっけ?」

「は?いや、仲良かったっていうか、ずっと同じ班で知ってる子だし、6年の子がいなくなった話を聞いたばかりだったし・・・」

「ふ~ん」

ずいぶんと意味ありげな「ふ~ん」で、いつもなら「ムッ」として食いつくところだけど、そんなことをすることも忘れるくらい、頭の中はハルのことでいっぱいだった。

ハル、どうしたんだ?どこに行ったんだ?まさか、また山に・・・いや、平日に学校から帰ってから行ったら、すぐ暗くなるのはわかりきったことだし、行くわけはないよな。

「そうだ、千絵って子と仲がいいみたいだけど、千絵の家には行ってみたのかな?」

「そりゃあ行ったんじゃない?仲いい子のところにはもう聞いてると思うよ」

「オレ、ちょっと行ってくる。ラッキー、行くぞ」

「ちょっと!こんな時間にどこ行くのよ。あんたまた迷子になるようなところに・・・」

「なるわけないだろ。もう!わかってるよそんなこと!散歩だよ、散歩。まだご飯できないんだろ、できる頃には戻ってくるから!」

何をそんなに焦っているのか自分でもわからなかった。

ただ、ジッとしていられなかっただけだ。

僕はラッキーを連れて、外に飛び出した。












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