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鎮守の山  作者: 村良 咲
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千絵1

 迷子になった日から2~3日は、かなり大人しくしていた。

学校から帰ってから下手に出掛けて帰りが遅くなろうものなら、母の雷がいくつも落ちそうな気がして、顔色を窺いながら過ごしていた。

 そしてそんな3日後、夕方に伯父がやってきた。

「兄さん、この前はすみませんでした。この子ったら、あんな時間から山へ入って行っちゃうなんて、いくらラッキーが一緒でも・・・ほら、あんたもちゃんと謝んなさいよ」

 母がまた思い出したように怖い顔になり始めたので、ここは母の言うとおりにしたほうが無難だなと、わざとらしく見えないよう謝ることにした。

「伯父さん、この前は迷子になっちゃってごめんなさい。探してくれてありがとう」

「はははは、まあ、男の子だもんな、そんなこともあるわな」

「兄さん、笑い事じゃないわよ。もし何かあったらと思うと、もう背筋が凍る思いだったわよ」

「まあまあ、無事だったんだからいいさ。それにもう真生も懲りただろうから、これからは気をつけるさ、なあ?」

「うん、もう遅くなるときに一人で山に行ったりしないから」

「そうだそうだ、今日はそんなことできたんんじゃないんだった。真生、明日の土曜は何か用事があるか?」

「夜は、塾に行かなきゃだけど、昼間は特にないよ・・・」

「じゃあちょっと手伝ってくれんか?日曜にお宮参りに来る親子がいるんだ。ちょっと草むしりをしてもらいたいんだがな」

「うん、わかった」

「じゃあ9時頃に家の方に来てくれんか、そこから車で山まで行こうや。ラッキーも一緒でいいぞ」

「わかった。ラッキー連れて9時頃に着くようにいくよ、いいでしょ?」

そう言って母の顔を見ると、仕方がないわねというような顔をしたので、僕はOKだと受け取った。

「じゃあ、夕方まで真生を借りるぞ、ちゃんと送ってくるからな」

「はいはい、草取りちゃんとやるのよ!」

僕は母に向かって2度頷いて、伯父の顔を見ると、ニッコリと微笑んで僕を見て頷いた。

その顔には 本当は草むしりなんかじゃないって、ちゃんと書いてあるように見えた。


 土曜日、伯父さんの車で清龍寺神社まで来た。

車で山に行くには、山道を歩いて行くのとは反対側の道に回り込むように走ってきて、社務所裏の階段下にある駐車場に車を止める。

 僕は車を降りると、ラッキーを連れて鳥居のある階段までぐるっと回って、ちゃんと鳥居の前でお辞儀をして、鳥居をくぐって神社に入った。

いつもそうしているので、ちゃんとしないと気持ち悪い感じがするからだ。

 階段を上がって、この前ラッキーのリードを引っ掛けたところまで行くと、そういえばラッキーはどうやってリードを外したんだろうと思い、引っ掛けた低い位置の枝を見たら、その枝はすでになかった。

「お前、もしかして折っちゃったのか?」

ラッキーの顔を見ながらそういうと、「ワン」と返事をしてくれたように鳴いた。

「あとで伯父さんに謝らないとな」

 僕は折れた枝の痕をさすりながら、「ごめんよ」と木に向かって詫びてから、ラッキーを連れて社務所の裏に回った。

既に伯父さんは社務所に入ったようで、入り口が開いていたので声をかけて、ラッキーに「ここで待て」と合図して、上がった。

「伯父さん、社務所の横の木の枝、ラッキーが折っちゃったみたいで、ごめんなさい」

「ああ、いいさ、あのおかげでお前がここに来たってことがわかったんだからな。まあ、神様も許してくれるさ」

「草むしりは?どうするの?」

「ああ、上の方はもう綺麗にしてあるんだ。階段の両側だけまだ草が残ってるから、そこを取ってくれるか?私はこっちの準備をしているから」

「うん、わかった」

「それが終わったら、爺さんたちが遺したものの話をしよう。ああ、それからな、階段上がった社務所の脇のところにリードをかけられるよう杭を立てておいたから」

「うん、ありがとう」

 僕はラッキーのリードを杭に引っ掛けると、社務所に戻りチョンチョン鍬とビニールを持って、階段下まで行き、階段やその周辺の草を取りながら上がって行った。

階段の両脇には、雨が降ったときなどは水が流れ下りる小さな溝があり、草むしりはその溝の内側をやることは、以前手伝ったときに聞いたので知っていた。

 草を取りながら、さっき社務所で見た、代々の神主の写真を思い浮かべていた。

あそこに僕の写真が並ぶかもしれないと思うと、やっぱりものすごく特別なことのような気がして、そう思うと草むしりも面倒だとか嫌だとか思うことなくできるから不思議なものだと、なんだか可笑しくなってきた。

「何がそんなに可笑しいの?」

「わあっ」

驚いた。誰もいないと思っていたから、いきなり声がして、ものすごく驚いた。

振り返ると、そこにはどこかで見たことのある女の子がいた。

「あれ?誰だっけ?5年生の子だよね?」

「そうだよ、千絵だよ。岡元千絵」

ああ、そうだ、同じ通学班の堀田晴とよく一緒にいる子だと思い当たった。

「何してるの?一人でここまできたの?」

「ねえ、久保君だよね?迷子になった子でしょ?どこにいたの?迷子になったのに、また山にきたの?」

「えっ、ああ、うん、えーと、今日は山には伯父さんと来たよ。一人じゃない。岡元さんは?」

「千絵だよ。お祖父ちゃんと来たの。ねえ、迷子になったとき、どこにいたの?」

「どこって・・・山の中で迷って・・・」

「迷って?迷ってどうしたの?」

「どうしたって、迷って、歩いたり、座ったり・・・なんでそんなこと聞くの?」

「うーんと、迷うかな?と思ってね。私は迷わないから」

「明るかったら僕も迷わなかったと思うよ。岡元さんは山の中に詳しいの?」

「千絵だよ。お祖父ちゃんの山がこの上にあるから、時々くるし」

「僕、ここの草を取らなきゃならないから」

そう言ってまた草を取り始めると、

「ねえ、なんで草を取ってるの?」

「明日、神社にお客さんがくるから、掃除の手伝いをしてるんだよ」

「ふ~ん、あたしも取っていい?」

「え、うん、いいけど・・・」

なんだか調子が狂ってしまった。

 迷子になったときのことをみんな聞きたがっている風ではあったけれど、クラスのみんなも、きっと僕が怖い思いをしたからと、遠慮がちに当たり障りのないような聞き方をしてきただけだった。

 だからこんなふうに面と向かってズバリ聞かれたことがなかったので、僕は上手い子と誤魔化せたかどうか、少し自信がなかった。

草を取りながら階段を上がって、あと3段ほどで終わるときになって、千絵がこんな話をはじめた。



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