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鎮守の山  作者: 村良 咲
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伯父の話1

僕がその話を聞いたのは、12歳の誕生日のその日だった。

神職に就く母の兄…伯父には娘しかおらず、以前より、

「真生、私の跡を継がないか?」

そう事ある毎に口にしていた。

 母も、代々続いてきた神職が、伯父の代で血縁が切れてしまうかもしれないというのは、できれば避けたいと思っているようで、伯父がそのことを口にするたび、

「それもいいかもしれないね」

などと、以前はそう口にしていたのが、僕の年齢が上がるにつれ、

「ちょっと考えてみてもいいんじゃない?仕事しながらでもできることだし」

と、勧めるような言い方になってきていた。

 母の実家は、車で裏山に上ってい行くときに通る山の麓となる隣村で、伯父はそこから神社に通っている。

実際、僕が伯父が神事の仕事をしているのを目にするのは、年に数えるほどしかない。

正月と、神社の縁日、そして時々ある氏子のお祝いくらいで、そのくらいならできるかもしれないと思ったけれど、僕の知らないところで、他にも仕事があるのかもしれない。

 伯父は神主の仕事のほかにも、持っている田畑で農作業をしているので、僕には農業をしている姿の方が自然な姿だった。

 そんな具合に、そんなに忙しくしている様子もない伯父だったので、「跡を継がないか」と冗談めかしに言われるたび、それもいいかもしれないと、実は思い始めていた。

神主という仕事が、ちょっとカッコいいなという邪な気持ちがなかったといえば、それは嘘になるけれど。

 12歳の誕生日、学校から帰ったら、ラッキーの散歩がてら伯父の家に来るように言われていた。

隣村なので、歩いて行くのは20分ほどかかる学校に行くより近いくらいだった。

 伯父は毎年、僕の誕生日にはなにかしらプレゼントをくれていたので、今年も何かもらえるのかなと、少し楽しみにしていた。

伯父には男の子がいないので、僕のことを殊更可愛がってくれていた。

 今日は朝から僕の誕生日だってわかっているんじゃないかと思うくらいのはしゃぎっぷりのラッキーをつれて、いつもの散歩コースはT字路に立つ家の前に真っ直ぐ伸びる道を行くのを止め、家の前の道を左に行き、伯父の家に向かった。

 家の前を左に進んだので、伯父の家に行くことがラッキーにもわかったようで、歩き始めたときは僕の顔をチラチラと振り返っていたけれど、しばらくするとそれをしなくなり、走り出しそうな速さで、リードを摑む僕を引っ張るように歩いて行く。

「ラッキー速いよ。そんなに急がなくても何も特別なことはないよ」

僕は自分に言い聞かせるように、ラッキーにそう言っていた。

 わざわざ予め誕生日のその日に僕を呼ぶなんて、今までなかったことなので、いつもと違う何かを僕も感じて、気持ちがそわそわしていたことを、ラッキーはちゃんとわかっていたようだった。

 伯父の家に着くころには、ほとんど小走りになっていて、僕の息は上がっていたけれど、それだけじゃない胸の高鳴りもあり、その違いを僕は自分でもはっきりとわかっていた。

 伯父の家に着き、ラッキーがひと声、「ワン」と鳴くと、待ってましたとばかりに伯父が玄関の引き戸を開けて出てきた。

「おお、真生きたか。ラッキーも一緒か」

そう言ってしゃがむと、ラッキーの顔を両手で包み込むようにして上下にさすって、その手を首のところに下げ、ラッキーが摩られるのが一番好きな場所を指先でかいてやると、ラッキーは喜んで寝ころび腹を見せて、降参のポーズを取った。

 ひとしきりラッキーの腹を撫でてから玄関横の柱にラッキーを繋ぐと、

「真生、私の部屋に行こう」そう言って玄関を入ると、「オレンジジュースでいいか?」と聞くので、「いいよ」と答えると、「先に行ってなさい」と言うので、僕は土間になっている玄関を入って右側にある階段の前に靴を脱ぎ、2階にある伯父の部屋へと向かった。

 伯父の部屋は2階に上がって、左に曲がると廊下があり、3つ部屋が並ぶその一番奥だ。

その部屋は寝室に使っているわけではなく、伯父が子供の頃から使っていて、今は神職の仕事で必要なのか、難しいタイトルの書物などがほとんどの本棚と背の低い木の机が置いてあるだけだった。

 母が子供の頃に使っていたのは一番手前の部屋だったが、今は伯父の娘、僕の従姉妹が使っていて、高校生になる従姉妹は今日はまだ帰ってきていない。

 窓が広く開けてある伯父の部屋は、窓から清龍寺神社がある山の景色が遮るものが何もなくよく見えて、僕はここからの景色がとても好きだった。



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