真夜中の鐘
そのとき夢をみていたのか、みていなかったのか今ではもうわからない。
目が覚めたとき、僕がいたのは見覚えのない真夜中の広場だったまわりは深い森で囲まれていて、そこを通る小さな川がありそれらがかすかに響かせる音以外はなにもなくまるですべては眠りについているようだった。
暖かな月のおかげで完全な暗闇ではなく、透明感のある水面にはゆらゆらとその姿が映し出されていた。
そして僕は目をつぶり、心のうちに何かわからないけれども問いつづけた。
自分はどこに向かっていて、何をしたいのか?いつだって僕はそれを探していた。それは今も同じで、ただただ果てのない迷宮をぐるぐると走り回るかのように答えをもとめつづけていた。
答えはきっと見つからない、ただそのために必要な手がかりだけはあるはず…なぜだかそう思った。
月の光が、太陽が道を照らし出すように…
そう心が問い返してきたとき、なぜだかわからないけれども涙がこぼれていた。
決してこれまでのこと、これからのことが無駄ではないと。
そして目を開いたとき、いつの間にいたのか質素な白い服を着た僕とかわらないくらい、もしかしたら少ししたくらいの女の子が立っていた。
その両手には古いながらもぴかぴかに磨かれた金色のシンプルなハンドベルが握られていた。
「もうすぐ新しい朝よ」
見覚えのない女の子は穏やかでやわらかな声でささやくと、片方のハンドベルを僕にわたした。
どこか遠くから大きな鐘の音が鳴り響きはじめ、少女もそれにあわせてハンドベルを優雅に共鳴させた。
あちらこちらから鳴り響く鐘の音色は、まるで過去を洗い流しているかのようだった。これまでの積み重ねはそのままに、心の重みを、痛さなどといったものだけを…
気がつけば僕もハンドベルを鳴らしていた。
不恰好でリズムもむちゃくちゃだったけれども、たしかにしっかりとした音色を響かせていた。
そしてそこで僕は目が覚めた、新しい朝に。
気がつけば暗闇はだんだんと薄れ、ゆるやかに暖かなオレンジ色に染まりはじめていた。
どこか遠くで大きな鐘が鳴り響きはじめた。少女もそれに合わせて、ハンドベルを優雅に共鳴させた。
あちらこちらから鳴り響く鐘の音色は、過去を洗っているようで何だか新しくて白い心になるようだった…もちろんこれまでの積み重ねはそのままに。
ふとこれまで書いてきた物語をまとめていると出てきた物語を改稿しました。
原型には2012年のお正月を祝う文章が文末に書かれていたのですが、まったく当時のことを思い出せずにいるのですが、懐かしさを覚え今の自分で書き直したものが本作です。
当時の自分と今の自分では考えが違うため、そのあたりで違いが出ていると思うのですが長さ自体はそこまで変わっていません。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




