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ある雀様へ  作者: ラッコさん
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動物とのふれあい ~雀編~

私はどちらかと言うと「温和」な人間だ。

さて、話を進める前に少し想像して欲しい。

「温和な人間とはどういう人間か」

どうだろう。頭の中に「温和な人間」を造り出すことが出来ただろうか。








何故、あなたに「温和な人間」をイメージさせたか。それは私と言う人間を手っ取り早く知ってもらえる方法だからだ。

私はあなたが想像した「温和な人間」のような人間なのだ。

「なんだ、アタシが想像した通りの人間なのか。つまんないの。」なんて思う人もいるだろう。

しかし、これは紛れもない事実である。あなたが想像した「温和でステキな人間」というイメージ、それが私なのだ。

だから「アタシは温和な人と付き合いたいわ」なんて人は私と付き合えば良いのだ。あなたの言う「温和な人」とは私のような人間のことなのだから。

どうでしょう?私と付き合ってみますか?私、顔はちょっとアレですが年寄りになれば顔なんて見るも無惨に崩れていき、最終的には…ほら、年寄り達の顔を見てごらんなさい。みんな同じような顔をしてるでしょ?つまり「老人顔」になるのです。みんな同じ顔になるのですよ。

しかし性格は違います。

いくら年取ってもズルい人間はズルいままだし短気な人は短気のまま。

やさしい人間はやさしいままで照れ屋な人間は照れ屋なまま。

変化してしまう価値より不変の価値の方がステキだと思いませんか?



なんだか話がおかしな方向へ行ってますね。

とにかく私は温和でステキな人間なのだ。

自惚れではない。ナルシストでもない。事実なのだ。もうしょうがないのだ。








しかし朝は違う。

朝の私はすこぶる機嫌が悪い。

いくら温和でナイスガイな私も朝はノット・ナイスガイになってしまう。

その原因はただひとつ。「まだ眠たい」からだ。

もっと寝ていたいのに起きなきゃいけないなんてそらぁ機嫌も悪くなる。ノット・ナイスガイにもなる。特に冬なんか寒いし、夏は暑い、春秋はとにかく寝ていたい。私は私自身が納得するまで寝たいのだ。しかしそれが出来ないのだ。それが社会なのだ。だから毎朝不機嫌なのだ。







そんなある朝の通勤途中、歩いていると自分の30m先に雀が3羽、エサでもあるのだろうか、地面をチョンチョンとつついていた。そこは路地裏で人通りも少なく車も通らない道である。

雀はピョコンピョコンと跳ねながら移動しチョンチョンと地面をつつく。それをずっと繰り返している。3羽それぞれがそれを繰り返している。





その光景をずっと見ているとだんだんその3羽がじゃれ合っているように見えてきた。

3羽の雀がそのモフモフした体を弾ませながらお互いに体を軽くぶつけ合い、「や-めーろーよー」なんて言いながら、まるで中学2年生くらいのバカな男子みたいにワイワイやっているのだ。そうやって遊びつつも小腹が空いたら地面にまかれたエサをチョンチョンと食べるのだ。

「まさに青春のひと場面!」

私にはそういう風に見えたのだ。




嗚呼、なんと微笑ましい光景だ。

さっきまで不機嫌だった私が、あっという間に上機嫌である。もう胸がキュンキュンしてたまらなくなっていたのだ。

「あー何をつついてるんだろう?かわいいなぁ。あーあーあんなにじゃれ合っちゃって~ウフフ」なんて思いながら、そして少しずつ雀との距離が短くなる。雀との距離は3mくらい。雀はまだじゃれ合い続けている。

胸のときめきは最高潮に達した。私は周囲に人がいないのを確認し

「あら~かわいいねぇ~」と声をかけながら一気に近づいた。今思えば、いい年した大人が雀に声をかけるなんて、いくら上機嫌だからと言っても結構キツい。そしてアブない。気持ち悪い。






そして案の定、逃げられた。

3羽の雀は私から逃げるように飛んでいってしまい、その辺をぐるーっと飛んで、なんと私のいる方へ飛んできた。私は「戻ってきてくれたのか」とちょっと期待したが、そのちょっとした期待も虚しく、雀は電線に仲良く並んで止まった。丁度私の真上に雀達はいた。




「逃げられる」というのはどんな場合でも悲しいもんである。彼女だったり運だったりチャンスだったり…。

先程までの胸のときめきは跡形もなく消え去ってしまった。ときめきで一杯だった胸の中は空っぽになってしまい、ただその隅の方に小さな「寂しさ」がひっそりと座っているだけだった。








「そろそろ行くか」と気持ちを切り替える。

寂しい気持ちのままに二、三歩歩いたその直後、びっくりするようなことが起きた。

私はその雀達からフンを落とされたのだ。

幸い、服や靴にはかからなかったがあと一歩前にいたら間違いなく被弾したであろう。それくらいギリギリだったのだ。

なんという屈辱!

温和な私も神ではない。こんなことされてヘラヘラしてるほうが人間としておかしい。おまけに朝の私は温和ではない。さっきも言ったはずだ。

怒りが込み上げてくる。それも止めどなく。



沸き上がる怒りは渦を巻き、波を起こし、徐々に大きくうねりだし、気づけば津波と化している。津波は理性の壁を破壊し体の隅々までに達し、体中を怒りで浸していくのだ。怒りに呑まれ、怒りの中でもがき苦しみ、そのうち意識がフッと飛ぶ。

その瞬間、人間は鬼になるのだ。

私も危なかった。しかし鬼にはならなかった。

何故か?私の理性は怒りや悲しみなどの負の感情に壊れてしまう程ヤワではないのだ。負の感情が津波になろうが隕石になろうが真空波動拳になろうが私の理性の壁には針穴も空けられぬだろう。今回は拳くらいの穴を空けられたがそれはコンディションが悪かったからだ。朝は駄目だ。午前10時以降の私なら針穴も空けられぬはずだ。

もし雀のフンを落とされたのがそこらの若者だったら…。彼らはあっという間に鬼と化して怒りに身を任せ、街を暴れ回っていただろう。情けない…だいたい最近の奴らは精神が脆弱すぎる。男女交際にうつつを抜かし、夜な夜なクラブで狂った馬のように踊り回ったりしてるから容易く鬼になってしまうのだ。

諸君、私を見習いたまえ。崇高な精神を持つ私をだ。



話を戻そう。






鬼の一歩手前の形相で見上げると雀が3羽が寄り添って何食わぬ顔をして電線に止まっていた。

なんだか雀達から陰口を叩かれてるような気分だった。何故だろう…あっ、あれだ、女子が集まって陰口をヒソヒソやってるあの感じだ。あれによく似てる。

そう考えると増々腹立ってくる。(私は少し自意識過剰である。)

何故だかわからぬが学生時代をふと思い出したりしてしまった。(学生時代については語らぬ。断固語らぬ!)


足下にビー玉くらいの石があるのに気づいた。

この石を投げてやろうかと思ったが私は運動神経が皆無に等しい。石なんて投げたら奇怪なほど明後日の方へ飛んでいき増々雀達の笑い者になってしまう。それで済めばいいが、そこは住宅密集地帯、家の窓ガラスなんかを割ってしまったら…。


私は野蛮な雀達への天誅を諦め、職場へ向かうことにした。今回は、何も出来なかった私の完敗である。

出来ることなら…出来ることならこう言ってやりたかった。


「やい!雀野郎!この人間様に向かってフンを落とす身の程知らずで無知で野蛮で阿呆な貴様らなんか羽を毟り取って道に百回叩き付けてそのまま「もえないゴミ」にぶち込んでやらぁ!もえないゴミと一緒に加工されやがれ!

貴様らは貴様らの身分を考えやがれってんだ!俺は人間様だ!貴様らはなんだ?そうだ!雀だ!畜生だろうがぁ!わきまえろぉ!畜生をわきまえろぉ!人間様に対してフンを落とすなんて失敬千万だ!わかるか?失敬千万!わかんねえだろうな!お前らみたいな畜生にはよぉ!」








なんだこの演説?盛り過ぎだろ?と思う人もいるだろう。確かにここに書いてある通りのことをその時思ったわけではないが「雀のくせに」と思ったことは事実である。だから許して欲しい。






怒りはまだ収まらない。耳の奥でゴーォっと鳴り響いている。

雀達は電線で談笑中だ。私は何も出来ない。

私は仕事場へ足を進めた。

だから朝なんて嫌いなのだ。




さてさて…。

実はこのお話にはまだ続きがあるんです。





雀にフンを落とされるも何も出来なかった気弱な私が復讐の鬼となる。そして…おっとこの辺にしときましょう。

では続きをどうぞ。


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