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妹タイム

作者: 東井なつき

「お兄ちゃん、これ何て読むの?」

 部屋でくつろいでいると、ノックもなしに妹が入ってきた。

 長い髪を揺らし、ついでに最近急成長中のおっぱいも揺らした妹は、ベッドで寝転がって漫画を読んでいる俺のすぐ横に腰を下ろす。


「ノックくらいしろよな」

 俺は溜息交じりにそう言う。

 鍵がないのだから、ノックの重要性を理解してほしい。

 俺も健全な高校生男子なのだから、妹に見られたくない本の1冊や2冊はある……いや、実際はもっとあるけど。


「はーい。次から気を付けるね」

 返事だけは良い妹は、満面の笑みを浮かべる。

 次も絶対ノックしない気がするので、油断しないようにしよう。

「で、勉強でもしてたのか?」

 中学2年生の妹は、読めない字を聞きに来たらしいので俺がそう言うと、

「うん。まず、これ」

 そう言って、妹は持っていた教科書のある字を指差す。

 その字は『愛』だった。


「え……これ、読めないのか?」

「うん。何て読むの?」

 妹の目は真剣だった。

 青春真っ盛りの女子中学生が『愛』を読めないとか、色々ヤバいだろ。

 いちいち俺に聞きに来ないで、辞書で調べればいいのにと思いつつも、俺は答えてやる。

「これは『あい』って読むんだよ」


「じゃあ『はだか』って、音読みだと何て読むんだっけ?」

「『ら』だよ」

「じゃあ、もう一個。これも教えて」

 妹が指差したのは『武勇』という字だった。

「それは『ぶゆう』だよ」

「そっか。ありがとう、お兄ちゃん」

 ニッコリ笑う妹の将来が、俺は堪らなく不安になった。


 ともあれ、それで自分の部屋に戻って宿題の続きをするとばかり思っていたが、妹はその後1時間ほど俺の部屋に居座った。

 勉強とは全く関係のない話を延々としてくる妹。

 正直、相手をするのが面倒だったので、俺は漫画を読みながら、適当に相槌を打つ。

 そして結構話し込んでいたことにやっと気付いたのか、1時間経って妹はようやく部屋を出ようとする。


「あ、そういえば、お兄ちゃん?」

「ん、なんだ?」

 俺が妹を見ると、妹はまた教科書を開いていた。

 そして『愛』の字を指差す。

「これなんて読むんだったっけ?」

「……『あい』だよ」

 1時間でうっかり忘れるような難しい漢字じゃないぞ。


「『あいだよ』って読むの?」

「いや……バカか、おまえ。その読みは『あい』」

「じゃあ『はだか』の音読みは?」

「『ら』」

「じゃあ、これは何て読むの?」

 妹は今度は『武勇』の字を指差す。

「『ぶゆう』」

 微妙にイラついてきた俺は、不機嫌さ丸出しでそう言った。


 するとなぜか妹は満面の笑みを浮かべ、こう言った。

「Me too」

「……ナルシスト?」

「え?」

 驚いたということは、知らずに使ったのだろう。

 俺はおバカでブラコンな愚妹に懇切丁寧に説明することにする。


「『あなたが好きです』という英語に『私もです』と返したいなら、『I love you too.』だ。『Me too.』って言ったら、『私も私が好きです』になるからな」

「そ、そうなんだ。……というか、私の巧妙な罠に気づいてたの?」

「さすがに『愛』が読めないほど、おまえがバカだとは思ってないからな」

あい』『』『武勇ぶゆう

 そんなアホなことに頭使ってないで、勉強しろよな、まったく。


「じゃあ、お勉強もしたし、改めて言うね」

 妹は立ち上がり、なぜかその場でくるっとターンしてから、ニコッと笑う。

「お兄ちゃん。大好きだよ」

「いや、そこは英語で言えよ」

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