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第1章

私は荒廃した膨大な本を有する図書館でとある本を探していた


「・・・・・違う、これじゃない・・・・」


そう言いながら私は、手に持っていた本を元あった場所に戻すと、脆くなっている足場を切り抜けながら図書館の探索を中断することにした


一歩外へ出ると、そこは辺り一面白いもので覆われており、今もその白い何かは降ってきている


かつて雪と呼ばれていたものではない。それは、かつてこの世界を襲ってきた大型の怪物の死骸から放出される死の灰だった


その死の灰を吸った者は、己の姿形を影のように黒く変化させ、自我を失い、同類であった人間を襲うようになる。襲われた者も、同様にその化け物に形を変えてしまうのだ


そのため、いたるところにあった街は荒れ果て廃墟と化し、人々はコンピューターで制御されている透明な防御壁の中にある特別製の街で生活することを余儀なくされた


外に出ることは許されていたが、それには特殊な資格を取る必要があった


それだけではない。外へ出る際、専用の小型デバイスが必要なのだ。紙のように薄いシリコン製のその高性能の小型デバイスは、腕に装着することができ、起動すればそこからホログラムが展開される仕様になっている


かさばらず軽量で壊れることは殆どないその小型デバイスの機能は、まず防御壁内に居る相手と会話をすることができる通信機能と、簡易的なマップぐらいだ


あとは、その小型デバイスを持っている人がどこに居るのかも知ることの出来る探知機も付いている。しかしこれは、このデバイス類を管理している監視局のみ知ることができ、一般人には扱えない代物だ


そして最後に、私の着けている特殊なマスクも外に行く際必要なもので


このマスクを外したが最後、その者の体内に死の灰は容赦なく入り込んで蝕み、化け物へと変貌させてしまう


「・・・・・・・ふぅ、もうこんな時間だ。早く戻らなければ・・・・」


小型デバイスのホログラムを展開させ、時間を確認した私はそう独り言を呟きながら自分が乗ってきた特別製の反重力バイクに跨り、防御壁内の街へと猛スピードで走っていく


「・・・・・?!」


しかし、街まであと少しのところでバイクを止める。視線の先、そこにはあの化け物たちの群れが居た。いや、化け物たちだけではない。なんと、子供が化け物たちに囲まれていたのだ


「危ない・・・・・!」


私は化け物たちに気付かれないようそう呟くと、腰回りに着けていたホルスターからレーザー銃を取り出した


レーザー銃は防御壁外でのみ使用可能な武器で、私の所有しているレーザー銃は改造型のものだった。リロードは他のレーザー銃よりはるかに速いうえエネルギーの消費は最小限にされておりなかなか減らない仕様になっている


私は自分が乗っていたバイクから静かに降り、今にも襲いかかろうとしている怪物たちの一匹に狙いを定めた。やつらの弱点は人間で言うこめかみ辺りだ。並の人間では一発で仕留めることは難しいだろう


けど私はいつもの調子で正確に弱点を狙い撃ち、次々と倒していく


化け物たちは次々と人間の叫び声が割れたような声を上げながら地面へ倒れ、そしてそこには化け物たちの死骸と子供だけが残った


「・・・・・大丈夫か?」


私はホルスターにレーザー銃を仕舞うと、そう言いながらひどくおびえている様子の子供へ向かう。すると私が見た光景は不思議なものだった。子供の頭にはウサギの耳が生えていたのだ


被りものかと思った私は、無言のまま子供の頭を触ってみる。しかし、その子供には通常の耳は生えておらず、そのウサギの耳だけだった


「??」


驚きを隠せずにいれば、その頭を触られていた子供も不思議そうに首をかしげながら私を見上げた


ウサギの耳の生えた子供を見て思った。なぜ防御壁外で、しかも検査官が黙って見ているはずはないのにマスクも着けない子供が生きているの?と


私は少し考えあぐねていたが、こうしている間にも時間は過ぎていくだけだという考えに達し、子供を自分の前に乗せ、バイクを一気に加速させた


門まで来ると、自分の腕に着いている小型デバイスを門の方に向けスキャンし、門が開くと同時に入って行く


無言のまま子供をバイクから降ろすと、死の灰を吹き飛ばすための強風を受ける。ウサギの耳が生えている子供はその風に驚いているようでその場をバタバタと駆け回っていたが、風が送られるのが終わればじきに静かになった


「ほら、おいで・・・」


少女はそう子供に言うと、手を差し出した。子供は何が何だか分からないという顔をしていたが少女の手を躊躇いがちに取った


「お疲れ様、ラミール。って、その子は?」


閉鎖空間から出てバイクを車庫へ持っていけば、顔なじみの女検査官が私のものであるラミールという名前を呼びながら、私の傍らに居る子供について聞いてきた


「マスクなしで外に出て、あの化け物どもに襲われていたんだ。この子、ここから出て行った?」


私は施設内のホールを通りながら女検査官にそう尋ねた


「えーっと・・・・私が担当していた時間にそんな目立った子は来なかったけど・・・ちょっと待って、今マスクなしって・・・?!」


女検査官は聞かれた質問を返しながらそう驚いて立ち止まる。私はそんな女検査官の口を塞ぎ、近くにある休憩スペースの人気のない場所へ連れて行く。もちろん、子供も一緒だ


「このことは黙ってて。マスクがなかったのに生きてるし、この子はあの化け物じゃない。・・・・分かった?」


私は女検査官を壁際に追い込むと、真顔でそう脅す。女検査官は何か言いたげだったが、言っても無駄だと思ったようで承諾した


「じゃ、また・・・・」


そう言って私は女検査官を解放し、子供を連れて自分の家へと一目散に戻った


私がなぜ、子供の親を探そうとしなかったのか。それはやはりあの耳が生えていたからだった

普通の人間ではありえない場所に、ありえない形の耳が生えている。そんな子供が居ればとっくの昔に研究所へ連れていかれている。そう考えたのだ


それに、ある確信があったのだ


子供の頭に生えているウサギの耳、そして一切言葉を話さないこと


これらから、この子供はかつてこの地域に生息していたウサギと人間の人工生物ではないかと

そしてその確信は確実なものになった。子供を風呂に入れた際、首付近に、検体番号らしきものが刻印されていたのだ。まぁそれと同時に、その子供が男の子だということも分かってしまったのだが・・・・・

風呂に入れた後、子供に名前を聞くと、名前がないということが分かった。もしくは自分の名前を把握していないのかもしれない


名前がなければ呼びつけたりするのに少々厄介かもしれないと思った私は、自分の中の知識をひっぱりだし、その子に『ユク』と名前を付けた


声が出ないながらも、口パクでユク、ユク、と何度も言っては喜ぶその子を見て、ほっこりしていれば自分のお腹が鳴ってしまった


そう言えば、今日はずっとあの図書館で目当ての物を探していたから何も食べていなかったな・・・・


私は一人で苦笑しながら


「ご飯にしようか」


とユクに話しかけ、頷きながら満面の笑みを浮かべるユクの顔を見ていたのだった


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