オレンジ
ブルーセカンドの定期稽古(発声やエチュードなどの稽古)を終えると
カズヒコさんから
「マサヤ。このあと空いてるだろ?? 久しぶりに飲みに行くか!」と
半ば強引に誘われ、Bar pomegranateで働くと宣言したあの日以来、カズヒコさんと2人で、飲みに行く事になった。
「今日の店は、めったに人を連れて行かない、ひいきにしてる店に連れてくとするか。」と
カズヒコさんは、ニコニコと笑って俺の目の前を歩いている。
Bar pomegranateから、徒歩10分程にある飲み屋街の様な一角にたどり着いた。
店の名前を見ると【スナック オレンジ】と書いてある。
俺を馴染みのスナックに連れてくるって、どういう事なんだろう?と、思いながら
カズヒコさんの、
相変わらず読めない行動を考えつつ
店に入って行ったカズヒコさんの後を追って店に入ると、
店のカウンターには、
ユキコさんが着物で立っていた。
「いらっしゃい。珍しく早いやん、カズヒコさん。いつものでえぇんよね?」と、言うと、ユキコさんはドリンクを作りはじめてしまった。
「マサヤ。どうせ、連れて来られたんやろ?カズヒコさんに。で、何飲む?」
と俺のに注文を取ろうとすると、
「マサヤも、俺と同じのを薄めに作ってやってくれるか??」
と、問答無用でカズヒコさんに注文されてしまった。
「あぁ。ユキコは、pomegranateに手伝って貰ってるけど、本当はスナック オレンジのママもやってるんだよ。」と、言いながらカズヒコさんは、ハイボールを受けとった。
「そういえば、ユキコ。オレンジは上手くいってるみたいだね。」と、言うとカズヒコさんはハイボールを飲みはじめた。
「お陰様でな、まぁ。ウチひとりで店やってるのもあるし、アンタのBarよりはバタついてないわ。」と、呆れたように嫌みを言ってきた。
「まぁ。結果はよかったんじゃないか? あのバタバタも。ユウの客は、ほぼマサヤに流れた訳だからな。」と能天気にカズヒコさんが答えた。
「…そのお陰で俺、結構大変なんですけど…。納得してくれないお客さんとか、居るんで…」と、つい愚痴をもらしてしまった俺は、炭酸が多めに作られたハイボールを、半分ほど飲んだ。
「まぁ。誰かって言うたら、マサヤがホントの事知ってるんやろ??って、思ってる人多いやろうな。
で、何聞きに来たん?カズヒコさん。」と、ユキコさんは、カズヒコさんに目線を移した。
「…ユキコには、隠し事できないか。Nebelのアキラ君と知り合いなのか??」と、静かな口調で質問をした。
「ウチが関西におった頃にやっとった時、スナックにアイツが入ってた劇団の座長さんに、連れられて何回か来てた。それだけやけど??」
「…本当にそれだけ??」とカズヒコさんは、ニコリと笑った。
「…あんなに、仕事に真面目なヤツ、ウチは知らんわ。飲みに来てるのに、ウチに取材させてくれ。って、五月蝿かったわ。」と、ユキコさんは、ため息をついた。
「ユウが『大阪時代お世話になった』って、言ってたからあの2人は似てるのかもね。いい意味でも悪い意味でも。」とカズヒコさんは、残りのハイボールを飲み干した。
「…でも。ユウは特に、脚本家としての才能は、あるかも知れません…
でも、仲間を信じないなんて、そんなに寂しいことがあっていいんでしょうか??」と、俺は残り半分のハイボールをぐいっと飲み干した。
「…こんな話してても、酒が不味くなるだけやろ。」とユキコさんが、ポツリと呟くと
俺とカズヒコさんは、うなずいた。




