石榴石
1時間半後、俺はユウとの約束を守る為 「Bar pomegranate」に来ていた。
別に行かなくてもいいんじゃないか。なんて、思ったりもしたが、
Barのオーナーは、俺の所属している劇団の座長でもある、カズヒコさんだ。
あの人には中々パッとしない、俺を劇団に10年も、置いてくれている恩もあるしな…。
そう思いながら、Barの扉を開けた。
「いらっしゃいませ。 Bar pomegranateへようこそ。」
そこには、夕方に会った時とは違う キングさん マキさん ユウ が居た。
そして、もう1人 夕方の時に会っていない、ベテラン風なキャバ嬢の人。 恐らくこの人が、ユキコさん だろう。
「あっ。はじめましての方やね?カウンターへどうぞ。」ユキコさんに、促され俺はカウンターへ座った。
「ユウ?私他のお客さんと、話してくるから、新規さんのお相手お願いするわ。」そう言ってユキコさんは、他のお客さんの所へ行ってしまった。
ユウは1時間前とは違い、ホスト風なスーツを着てシェイカーを振って、他の女性客と話している。
「いらっしゃいませ。あっ。マサヤさん来てくれたんですね。」と、ニコリと笑った。
「まぁ。折角のお誘いだったからね。」と俺が言うと、隣の女性客がこちらを見ている。
「ったく…。アヤメちゃん、ムスっとすんなよ。可愛いのにもったいねーよ。」とカウンター越し手を伸ばし、お客さんの頬をつねった。
「だって…」そういつつも、その客は頬を赤らめていた。
「ごめんね。アヤメちゃん。この人は、おれの劇団時代のセンパイ。久しぶりに会ったから、今日誘ったって、ワケ。
ムスっとしてたら、折角おれが作ったカクテルも美味しくねーだろ?」と、カクテルを指差した。
「マサヤさん、なに飲みます?」と、さりげなくメニューを渡された。
メニューには、ザクロのカクテルがあった。
「ザクロのカクテルなんて、中々ないよな?とりあえず、オススメのを。」
俺が言うと、
「ザクロは、ウチの店名と引っ掛けてるんですよ。このピアスもそうだけど。」
夕方に俺が届けた箱の中身のピアスを、ユウはしていた。
「店名?とピアス?どういう事だ?」
そう俺が聞くと
「pomegranateってのは、ザクロって意味。で、ここのキャスト全員が身に付けている赤い石は、ガーネット。」と喋りながらも、シェイカーでカクテルを作っている。
「ん…?ガーネットって、確か石榴石って、言わなかったか?」たしか、何処かでそんなことを、聞いた気がする。
「マサヤさんアタリです。そして、お待たせ致しました。ザクロ・シェカラート になります。」
カクテルグラスに入った、赤い綺麗なカクテルが、目の前に出された。
「このカクテルは、ザクロの味をそのまま楽しめるカクテルと、なっております。」所作が本当にバーテンダーの様だ。
「アヤメちゃんも、飲むカクテル決まったら、おれに言って?作るから。」そうニコリと女性客に微笑んだ。