"仲間"前編
俺が、Bar pomegranateに勤め始めてから、今日で3ヶ月
3ヶ月前、カズヒコさんの無茶ぶりで勤め始めたけど、
この3ヶ月で、俺にとって居心地のいい場所の1つになっていた。
今日は、
カズヒコさんが思い付きで、全員出勤になっていたのもあって、
『お客さんも多くて賑やかな1日だったなぁ。』
と、閉店30分前頃にお客さんの居ない店内を見回しながら
ふと、考えていると1人のお客さんが入って来た。
「いらっしゃいませ。…もうすぐ閉店のお時間ですが、よろしいですか??」と俺が言うと
少し背が高く、帽子を深く被った男性客は、こくりと頷きカウンターの椅子へ腰かけた。
「ご注文は何にされますか??」と俺が聞くと
「forbidden fruitで。」と聞き慣れないカクテルをオーダーされた。
ユウから譲り受けた、カクテルレシピ集に書いてあるカクテルは、一通り作れるようになった俺だけれど、わからなかった。
「あっ。この人の注文するの、おれのオジナルなんで。今作りますから、待っててください。」と、何処からともなくやって来た、ユウが背伸びをしながらキッチンへ戻っていった。
「…やっぱり覚えてへんか。」と、男性客がポツリと言った。
「どうされたんですか??」と俺が聞いても「…なんでも。」とポツリと返されるだけで、中々会話が続かず微妙な空気が漂うと、
「forbidden fruitお待たせ致しました。…アキにぃ。」と、アキにぃと呼ばれた、男性客の目の前に
ユウが赤っぽい色のきれいなカクテルを差し出した。
「閉店30分前やろ?
誰もこーへんと思うから、オレ相手やし関西弁でええよ、ユウ。」と言うと、カクテルを一口飲んだ。
「はぁ…。おれ以外も店に人居るからさ。」と、ユウは呆れると
キッチンに残っていたオーナーに
「オーナー。お客さんの相手は、おれとマサヤさんでしとくんで、休憩中の3人呼んできて貰えませんかー?」と、言うとオーナーは
「…しょうがないな。呼んでくるよ。」と2階に上がって行った。
「なぁ。マサヤくん。ユウが最近変なこと言ってへんかった??」と、アキにぃさん(?)に急に話しかけられ
「変なことですか?」と俺が聞き返すと
「例えば…『Verbotene Früchte ist, im Nebel』とか。」
とあの1ヶ月位前にユウが言っていた謎の言葉を言っていた。
「呼んできたぞ、ユウ。」といいタイミングで、オーナー キングさん ユキコさん マキさん が2階から降りてきた。
「どーも。ユウがお世話になってます。」と、帽子を少し上に持ち上げて顔が見えると、
「…久しぶりやな。」とユキコさんがぼそりと喋ると
「ねぇ~。ユウ、この人だれ?ユキ姉も知り合い?」
「休憩中の俺たち呼び出とは、どういう事だよ?」
と、マキさん キングさんも 不思議がっている。
「すみません。あたしの相棒みんなに、紹介してへんなー。と思ったのと、報告せないけへん事あるんで。」と、聞き慣れない関西弁でユウが話始めた。
「どーも。
Nebelって言う、脚本・演出家ユニットでユウの相方やってます。 アキラです。よろしく。」と、帽子を脱ぎ現れた男性客は
Nebel 作品の時、ブルーセカンドに舞台演出を付けて居た人だった。
カズヒコさんとユウ以外の全員が状況を、読み込めて無い様な顔をしている。
勿論俺も例外じゃない。
「座長さん以外、みーんな。きょとーんとしてるやん。…お前ずーっと黙っとったん??5年間も。」とアキラさんが言うと
「…しゃーないやろ。マサヤさん来たん、3ヶ月前やで。それまで、座長さんしか知らへんから、黙るも何も無いやん。」と、ユウがため息をついた。
「もう。騙すも何も無いから、言うけど、あたし今日付けで店辞めさせて貰うわ。」
「なんでだよ!ユウっ!おれたち"Bar pomegranateの仲間"じゃんっ!」と、耐えきれなくなった、マキさんがユウの胸ぐらを掴んだ。
「あたしは、アンタらの事"仲間"なんて、5年間一言も、言ってへんけど??
それに、"仲間"なんて言葉、大嫌いやから。」と、マキさんの手をどかした。
「辞めるゆうて、アキラも居るんやから、関西でなんか、やるんやろ?」とイライラしたユキコさんが続けた。
「オレのこと覚えててくれたん? うれしいわー。ユキコママさん。」とアキラさんが言った。
「忘れる訳ないやろ。」と、ユキコさんが返した。
「なぁ。アキラだっけか?? お前なら知ってるんだろ? たまにユウが喋ってた謎の言葉の意味。」
とイライラしたキングさん…いや。トシユキさんが話しかけた。
「『Verbotene Früchte ist, im
Nebel』…ドイツ語で意味は、『禁断の果実は霧の中に』ですよ。トシユキさん。」と、ユウが淡々と説明した。
「…なるほどな。アダムとイブの食べた果実は、ザクロって説もあるから、だろ?ユウ。」
「…ほんまに、トシユキさんは話が早くて助かるわ。アキにぃの飲んでるカクテルは『forbidden fruit』」
「…『禁断の木の実』だろ?」と、
さすがに俺もわかった。
「ご名答です。」とニコリと笑ったユウは、俺の知らないユウだった。




