開店準備
俺はバックヤードに入ってトシユキさんから、1日の流れを聞きながら店で使うお酒のやフードの在庫チェックを始めることになった。
「本格的なBarだと、洒落た酒用の冷蔵庫とか設備が有るんだろうけど、ここは…まぁ。こじんまりしてるから期待外れだろ??」と、トシユキさんはバックヤードにある業務用の冷蔵庫を指差した。
「確かに。ワインセラーとか並んでるイメージですね。」と、言いつつ俺は渡されたチェックリストで確認していく。
「それに、短期間なら冷暗所で保管可能な酒って言うのも多いし、表にも空調効かせて、ディスプレイ兼ねて置いてあったりするだろ?だから、案外大丈夫なんだよ。」と、トシユキさんはチェック前に届いたドリンクの伝票をみながら、テキパキと俺に指示を出している。
「この、名前の書いてある札が付いた、ボトルのお酒は個人のですよね??」と、俺はワインセラーにある、名前の書いてある札が付いたボトルを指差した。
「あぁ。ボトルキープの物はこっちで管理してるんだ。でもユウやオレのボトルもあるから、全てがお客様のボトルキープって訳でもないんだ、ほら。」と、
トシユキさんがワインセラーから出したボトルの札には、【ユウ】の名前が線で消され【トシユキ】と書いてあった。
それを見た俺は、「あっそれ、チーズリゾットにユウから貰った赤ワインですね。」と無意識に口に出していた。
「あぁ。旨いぞ、この赤。ユウはこの店で酒の味を覚えたから、23歳にしちゃあ、舌は肥えてるんだよ。」
『それよりも、札の表記わざと過ぎませんか??』と、言いたかったが…まぁ。言わない方がいいだろ。…ユウの為にも。
「まぁ、酒の銘柄なんてラベル見れば解るから、残りは任せてもいいか?ちょっと、キッチンで氷作ってくるから、チェック終わったらリスト持って来てくれ。」と、未チェックの伝票やらリストを渡された。
「わーっ。おれより、スパルタかもね。"キング"は。」と、フロアで作業していたはずの、ユウがひょっこり現れた。
「っ!ユウか。急にどうしたんだ? 企画案の方は終わったのか?」と、びっくりしながらも、リストから顔をあげると、
「まだ、終わってないですよ。息抜きですよ。息抜き。」と、ユウは背伸びとストレッチを始めた。
「やり始めて10分とかで出来たら、苦労しませんよ。」と、苦笑いをした。
「そういえば、ユウが劇団に居たときも、イベントの企画担当になって締切間近で、苦労してたよな。」と、昔の事を思い出して、懐かしくなってしまった。
「あぁー。ありましたねぇ!確かあの時は、2日連続徹夜して仕上げたんですよ。その割にカズヒコさんがやる気が無くて困りましたよ…。」と、懐かしい話をしていると、
「…って長話してると、うちのキングがラスボス張りの剣幕を発揮すると困るんで、また作業戻ります。」とそそくさと、フロアに戻って行った。
と、同時にトシユキさんが戻ってきた。
「…ったく。ユウは隙あれば、サボるんだよな…。締切ギリギリになっても、ちゃんと完成してるから、良しとするか…。」と、ボソッと呟くとまた戻って行った。




