…お疲れ様
俺は、指定された時間より30分早くに到着してしまった。
「…遅いよりかは、いいだろ。ユウも居ると思うって、言ってたしな。…いや。これでここのドア開いてなかったら、虚しすぎるぞ…」
と、店の目の前でブツブツ言っている俺は、明らかに不審者だ。
少しだけ、勇気を出して店のドアを、空けると…
「お疲れーっす。トシユキさんご所望の"アレ"持ってきましたよ。」と、テーブル席に背を向けて座っているユウが、パソコンに向かいながら分厚いバインダーを掲げた。
「…お疲れ様。」と俺がユウに話しかけると、
「あっ。トシユキさんじゃないのかー。お疲れ様です。マサヤさん。」と、パソコンを閉じて振り返った。
「改めて…また、よろしくお願いします。キッチン系の事は任されてるので、基本的には、指導役させて貰います。」と、ニコリと笑うと、本や資料の様な物が散乱している、テーブルの上をそそくさと片付けはじめ
「…なーていう、堅苦しい挨拶はこれまでにして、トシユキさんが来るまで、一緒に待ちませんか??」
と、俺にテーブル席へ座るように誘導をした。
「良いのか??なにか、作業してたなら続けてくれて構わないど?」と、さっきまで、散乱していたであろう荷物が入った大きなリュックを、俺は指さした。
「別に大丈夫ですよ。"趣味みたいなモノ"なので。」
と、背伸びをすると
「あぁー疲れた。…それに今、行き詰まってた所なんで、ちょうど良いタイミングです。」
と、テーブルの上にあるウーロン茶を飲み干すと、
「ついでに、なにか飲みますか?」と、空のグラスを揺らして氷をカランと、鳴らした。
「じゃあ、ユウと同じのでいいよ。」と言うと、少ししてユウがウーロン茶の入ったグラスを2個持ってきた。
「はい、どうぞ。このバインダーの中身見ていいですよ。っていうか、マサヤさんの為に家から引っ張り出してきたんですけどね。」とニコっと笑うとバインダーを俺に渡した。
バインダーをめくると【pomegranateカクテルレシピ集】とタイトルが振ってあった。
「【カクテルレシピ集】??こんなにあるのか?」見るからにバインダーは100ページ以上はある分厚さだ。
「カクテルだけじゃなくて、フードメニューとかその他諸々で、約130メニューが、丁寧に写真付きで載ってる仕様になってます。」と、ページをめくる俺の横で、丁寧に解説をしてくれている。
「…これを、1ヶ月以内に作れる様にしろ。なんて、暴挙はカズヒコさんでも、しない…よな??」と、苦笑いしながら聞くと…
「…まぁ。7割って、所じゃないですかね??カズヒコさんなら。」とニヤリと、いたずらっ子の様な笑顔を俺に向けた。




