井戸にいるアレ。1mのアレ。そしてゾンビー
「とにかく、あんたのような人外がいれば、俺たちも安心出来る。と、同時に敵がエイリアンだと困るって事だ。俺は一応男だし矢面に立つかもしれないが、メインアタッカーはあんたに頼みたい」
俺は富岳さんの依頼通り、壁から50口径の弾を発射する重機関銃を取り出す。それにありあわせの材料で作ったベルトを器用に着けて、富岳さんはネクタイを頭に絞める。すると、彼のメガネに様々な映像が投射され、さながら近未来戦士が完成した。
「この装備なら、宇宙人も怖くない!・・・・・・はずです。あんまり大きな奴は無理ですけどね」
「すっげ~。そのメガネいくらで買ったの~?」
「これは禁制品ですから高いですよ?円で買えませんし」
そういいながら、富岳さんは三番目の目線で投射された映像を器用に操作する。
「出来ました。マッピングしながら行くので、迷うこともないでしょう。じっとしているのも疲れましたし、外に出ませんか?」
「・・・・・・あなたみたいなのがいっぱいいるなら、私はここで待ってます。銃が効かないなら、私はどうしようもないですから」
「おいおい、泡噴いてた終えたと思ったら回復が早いな。だが、一人が残るのは俺は賛成できない」
「そうそう。こういう時、一人になったやつから食われるもんと相場が決まってるるんだよ~ん?」
越前が縁起でもないことを言うと、彼女はため息をつき、あきらめた表情で新しい89式を握りしめた。
「いざとなったら爆弾もあるし……いかなきゃならないのよね」
「自決するなら相手を巻き込みなさいな。私を巻き込もうとはせずに」
「さ、ドアを開けますよ~甘野辺さんは一番後ろ。間に女性のみなさんがお願いします」
俺たちは一列になって外へ。俺は殿など御免だったが、戦闘よりはましだ。停滞トラップか追跡者なら、今の所はトラップのほうがありそうだから。
「へ~、相変わらず真っ白ね。血が飛び散ったらさぞかし綺麗でしょうね~」
越前の歪んだ感想を無視して、俺たちは他の部屋を順に開けてゆく。
「・・・・・・無人」
「無人ですね」
「こっちも無人です」
幾つかあった扉を開けたが、他の部屋はすべて無人だった。
「この分を見ると、この映画はB級映画だな。セットが真っ白だけなんてショボイ」
「確かに、でも本物のM2キャリバーに本物臭い宇宙人。これは予算に合わない豪勢さね。」
「皆さん静かに!止ってください」
富岳さんのいきなりの言葉に、俺の心臓が跳ね上がった。警戒していたが、それでも心臓は飛び跳ね、臨戦態勢に心が追い付かない。
「フッ・・・・・・」
富岳さんはキャリバーを構えると、一気に曲がり角から躍り出た。
「ギャアアア!!!」
富岳さんの直後に悲鳴。俺は前へ出たくなかったが、好奇心が足と直結していたのか、つい後を追ってしまう。
「ヒッ!?」
俺は息をのむことしかできなかった。
目の前にはとても恐ろしい者がいたからだ。
「クェェェェ」
不気味な呼吸音を上げる化け物が、今まさにこちらをむこうとしている。
どうしようもなく既視感のあるそれは、人型の中でも俺が嫌いな類の化け物。
「うっわ~、私これが出てくる映画見たことあるわ~」
越前は怖くないのか、顔だけ覗かせてそういう。
「あっあれ撃ちます?どう考えても味方じゃないです」
富岳さんをも恐れさせる敵らしきもの。人間の女性の形にしては、不自然に手足が長く、四つん這いで、黒い髪の毛が顔地面を覆い隠すほど長い。
よく銃で死なないタイプの敵が出てくるホラー映画の重鎮。
「キエェエエエエエ!!」
「来たぁ!!」
さ○子らしき化け物は、その顔の大半を占める牙だらけの口から唾液をしたたらせ、野生動物のような速さで向かってくる。駄目だ、俺は手が動かない。怖すぎる……!!
「や~いビビり男が。あんたの手にあるそれは何のためにあるんだよ」
越前!若干狂ったその過激な脳味噌は、どうやらこの類の化け物にさえ体制があるらしい。富岳さんと俺がビビる好きに特攻をかますコイツに、彼女は容赦なくトカレフを連射する。
「オラオラ!!ソ連帰り舐めなぁあああ!!」
最初の一発目こそあさっての方向に飛んで行ったが、それ以外は全部目標に命中。つられてなんとか富岳さんもキャリーバーの引き金を引いたのか、次の瞬間に、この化け物の体に大穴があき、そのまま崩れるようにミンチになった。
「も~たく頼りないわね。野郎ども!!相手が敵だと思ったのなら、問答無用で引き金引きなさい!!」
「・・・・・・以後気をつけます」
「いや~私はあれが一番苦手でね。でも銃で死んでよかった」
俺は結局出てこなかった藤崎の様子を見ようとすると、彼女は陰で静かに震えていた。
「実に女の子らしい反応だが藤崎よ。そのままだとお前はお荷物認定をくらうぞ?」
「ウルサイ!!私は宇宙人も幽霊も苦手なの!!」
「おいおい、そんなこと言ってないで立てよ。一番後ろはやられるかもしれにぞ。後ろから足首掴まれたら嫌だろ?」
俺がそういうと、彼女はすぐに越前の後ろに張り付いた。
「私はレズじゃない!!」
「私もよ!!でも足首掴まれるのはもっと嫌!!」
「馬鹿言ってないで!!なんか次来ましたよ!」
次に来たのは蜂だ。それも1メートルほどの。どうやって飛んでいるのだろうか……
「ウテェ!!」
俺たちが次々に下手な鉄砲を撃ち込む中、今度は越前が目を回している。
「蜂は無理!!私あれだけは無理。ソ連の冬がァァ!!」
「何やってんだ!!大陸にスズメバチはいないだろうが!?」
「うるせえ種無しチキン!早く殺せよぉ!!」
しかし1メートルのスズメバチは鈍い。呪いなら先程の化け物の専門だが、このスズメバチはデカくなることでその機動性を捨てていた。いいカモである。
「シニタクナイ~」
最後の一匹が命乞いをしたように聞こえたが、きっと気のせいだ。富岳さんと一瞬だけ目があったが、なかったことに・・・・・
「今、あの蜂喋らなかった?」
「・・・・・・藤崎、お前巨大蜂はいいのかよ?」
「蜂なんて別に怖くないじゃない。さっきの威勢はどうしたの越前ちゃん?」
「ウルサイボケ~!!」
この二連続エンカウントに、俺は嫌な予感がする。
「おいおい、このままだと次はゾンビの大群が来るぞ!!」
「は?なんで!?」
「最初に藤崎の嫌いなアレ、次に越前の嫌いな蜂とくれば、次は俺の嫌いなぶっつ量で押すタイプの敵、ゾンビだろうが……」
この空間の主催者は悪趣味で決定だ。こいつは俺たちの嫌いなモノを端からここに詰めたらしい。俺の記憶を奪った奴らなら、その記憶を読んでいても不思議はない。
「うわ!?ほんとに来た!!」
「何でゾンビの大群が!?」
「取り敢えず部屋まで下がろう」
俺たちは急いで下がるしかない。キャリバーや手榴弾でどうにかできるかもしれないが、このままだと富岳さんの怖いものも来る。屈強な宇宙人が怖がるものと言えば、きっと俺たちには想像もつかない化け物に違いなかった。
「ギャアア!!」
「キシャー!!」
ゾンビの気持ちの悪い叫び声を黙らせる為、俺は猿真似で射撃をしつつ交代へ下がる。しかし、相手は俺が最も嫌いな走るタイプのゾンビ。速い・・・・・・追い付かれる。
「セェーフ!!」
越前は自分が部屋に入ると、反射的にドアを閉めようとする。
「止めろこの薄情者!!」
「開けなさい!」
俺達がそういって閉まりかけたドアを無理やりあけると、富岳さんが突っ込んできて、流れ込むように部屋に入る。そして、ゾンビ達がドアに突っ込んでいろいろな個所の骨を折る音が聞こえた。