メ~ン・イン・ブラック~じゃねえよ
前回までのあらすじ。おっさんは宇宙人でした。
「言い訳あるか~この人外!!」
藤崎を押しのけて越前はそのまま彼の毛皮に掴み掛る。彼女に未知なるものへの恐れは存在しないのか。
「そうは言われてもね。君、私は君も宇宙人じゃないのかと思ってたんだよ?この状況に冷静過ぎるし」
「動揺してたよ!!今スッゴイ動揺してるよ!!あんたを月刊ムーラシアにうっぱらったら幾らになるか考えるだけで、涎止んないよ!」
「あ、それ無理です。政府関係者には我々の存在を知っている人いますから」
「まっじでー!?やっぱり政府は宇宙人とコネクションを!!未知との遭遇を!?」
そう言って越前は怒りから興奮へ精神スイッチを押しかえた。
いや待て。富岳さんは今とんでもないことを言った。
「おいおいおい!!!富岳さん。あんた宇宙人が地球の政府と仲良くしてたってのか?」
「ええそうですとも。貴方がた普段何気なく使ってる物にも、宇宙製品はあります」
「そんな馬鹿な……」
「携帯電話とかパソコンとか。あれはこの星の技術レベルギリギリの技術ですよ?政府のお役人さんが苦労して外宇宙連盟との契約で手に入れたんですから。聞いた話ですけど」
そう言って富岳さんは自分の抜け殻から携帯電話を取り出した。携帯には圏外の二文字。
「これ……この展開見たことあるわ。これあの黒人とお爺さんのエージェントが、地球の宇宙人犯罪者捕まえる奴じゃない……」
「ああ、メンインブラックですか?あれは中々に核心を突いていた。大まかにはあの通りですよ」
そう言うと、藤崎が崩れ落ちた。ギョーンギョーンとか鳴る銃で戦うSF漫画よろしく、裸で俺の前に転送?されてきた時よりも、熊めいた宇宙人にこの世界の真実を暴露される方が堪えたらしい。
「そんな。じゃあ地球の技術者は何も頑張ってなかったて言うの?」
「あれです。パスタとかは地球産の有名な商品ですね。あれは宇宙企業が広めて宇宙的シェアを誇ります」
「そうかいそうかい。まああんたが本当のことを言ってるっていう保証もないからさ。世界秘密の暴露大会はその辺でいいよ」
「そうですか?今まで言えなくてウズウズしてたんですが?」
そう言って富岳さんは毛むくじゃらの指を器用に使い、再び人間型スーツを着直した。それはもう、着ぐるみを着るみたいに簡単に装着し、首辺りの筋に爪を立てるような仕草をすると、一瞬で元のバーコード禿に戻った。
「てかなんでバーコード?あまりにも余りにも露骨にサラリーマン過ぎるわよ?」
越前の率直な感想。彼が宇宙人でなければ、俺はきっと失礼だとたしなめただろうが、今はそんな事はどうでも良かった。このバーコード禿のマケグミ臭いオヤジは、地球の一般人全てよりも事情通な、熊型三つ目の宇宙人なのだから……
「ああ、これですか?このバーコードってカッコいいじゃないですか?」
「ああ、ああ、ああ、ああ。分かった。だから話を進めさせてくれ。富岳さんも俺の質問にだけ答えてくれ。まず、この現状について、あんたは本当に何も知らないのか?」
俺がそう言うと、富岳さんは首を横に振る。
「知りません。私達地球済みの宇宙人は、たいてい星間ビザを取ってこの星に移住しました。しかし、この地球は特殊な星でして、結構難関のテストに合格せねばなりません。そして一度移住すると、出るには一定の期間を過ごすか、または大金を払う以外に方法がありません」
「だから自分はずっと地球に居たから、お外の事情は知りませんって事?」
「そうです。私達祖先は故郷の星が滅びましたので、移住先にこの地球をえらんだんです。普通に働いていたので大金なんて集まりませんから、当然ながら私も私のお爺さんも地球生まれ地球育ちですよ」
そう言われ、話は最初に戻る。問題は3つだ。
・いったいこの空間は何か。
・俺たちはどうして此処に居るのか。
・俺たちはこれからどうなるのか。
「まあ兎に角、安心してください。貴方達が自殺でもしなければ、きっと助かります。この空間が何処で、私達がどうなるかなんて知りませんが、宇宙規模の特急緊急救命信号装置の電源を入れました。これを聞きつけた特別派遣員が、きっともう直ぐにでも私達の前に現れますから」
「うっわ~それ私達の記憶消すんだろ!!ズッル~イ!!」
「う~ん。私としては、知ったままがいい様な、知らなかったことにしたいような……」
なんだそうかと、おれはホントは安心したい。すごくしたい。
しかし、俺の本能とも言うべきか、ゴーストと言うべきか、はたまた第六感とも言うべきか解らないが、兎に角俺の心の奥底が、このままではマズイと轟き叫ぶ。
「でもな。最悪の事態は考えていた方がいい。このまま助かるにしても、それまでは防御を固めていたいんだ」
「私もそれに賛成~。この宇宙人を信用できませ~ん!」
「そうね。それに越した事は無いわよね……」
「そんな~信じてくださいよ。まあ仕方ないかもしれませんけど」
女性陣と富岳さんの了承を受け、俺は自分流の作戦を第二段階に移そうとする。
「じゃあとりあえず、富岳さんと越前も武装してくれ」
「小学生体型の私に銃撃てってか?」
「あなた私に綺麗に命中させたじゃないですか」
そう言ってまた二人は何やら言っている。俺はもういい加減疲れてきたが、仕方がない。もう少しだけ頑張ろうと思う。
「富岳さん。あなたの知ってる強い武器ってなんですか?宇宙人とかに効きそうな奴で」
「う~ん。宇宙警察のバッジとか……?イヤイヤ、冗談です。私も銃がいいと思いますよ?もっとも私はいりませんがね」
「何で?」
「拳の方が強いです」
きっぱりと富岳さんは言いやがったのだ。此奴は生身の人間を凌駕する。
この理由だけで、人間が数々の肉食動物を絶滅の危機に追いやった事を知らないのか。
「へ~。じゃあやって見せてよ。ホイ」
そう言って越前が銃を投げる。すると、富岳さんはそれをサバ折りにした。
「ほらこの通り」
「ブクブクブク」
89式蝶々結びを作った富岳を見て、藤崎が倒れる。俺はこの中で唯一真面そうな彼女の子の反応を見て、思わず好きになりそうだ。
俺が求めているのは、こういった普通の反応と普通の人だ。