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光の庭、夏の夢幻  作者: xxx
2章
5/7

1・雨音に描いて

 その日は朝から雨が降っていた。

 網戸にした窓の外からは、途切れることなく静かな雨音が続いている。


「なぁ、ハル」

「なに、リュウ」

「お前も少しは遊べよ」

「これが終わったら。最初からそう言ってるだろ」


 祖母の家で与えられた一間に折りたたみ式のテーブルを持ち込んで、ハルは夏休みの宿題を片付けていた。

 その傍らで、リュウは家から持ってきた携帯ゲーム機をつけて遊んでいる。

 ハルも、リュウと同じゲームソフトを家から持ってきていた。

 今、子どもたちの間では男女問わず流行している、モンスターとコミュニケーションを取りながら育成していくゲームだ。育てたモンスターは通信対戦で戦わせることができる。


「だいいち、リュウも宿題を持ってきてるはずじゃないか。終わらせたら遊ぶ、って最初に約束しただろ?」


 ハルがノートやドリルを広げる向かいには、漫然と積まれたまま放置されたリュウの宿題がある。


「雨だから宿題を教えてくれ、って言ってきたのはリュウの方なのに」

「俺そんなこと言ったっけ? えーと、あれだよ、コジツケ、とかいう……」

「それを言うなら口実、だよ……まったくもう」


 呆れたように呟くものの、最後にはハルもぷっ、と噴き出して、


「……仕方ないなぁ。でも、僕のモンスターに勝てると思うなよ?」


 傍らのドラムバックに入れてあったゲーム機を取り出すと、電源をつけた。




 リュウと過ごす日々は続く。

 それは、今までハルが過ごしたどんなひとときよりも楽しくて、まるでそれ自体が輝いているかのような日常だった。

 おそらくは、リュウもそう思ってくれているのだろう。たまには遠出して地元の友人と遊べばいいものの、彼は毎日ハルを誘いに家までやってくる。


(これが『親友』っていうものなのかな)


 ときどき、ハルはそんなことを思った。

 最近では、目線や、ちょっとした表情の変化で、リュウが何を考えているのか、なんとなく解ってしまうのだ。

 空腹、退屈、好奇心――どれもちょっとしたことに過ぎないのだけれど、ハルにはそれが友情の証のように思えて、少しだけ嬉しかった。


 八月の二週が過ぎれば、夏休みも徐々に終わりが見え始める。ほとんど終わらせたドリルや、色塗りも仕上げを残すのみとなった写生、読み始めた読書感想文用の本などが、ハルへ如実にそれを教えてくれていた。

 夏休みが終われば、リュウとはお別れだ。

 それは最初から解っていたことで、だからこその関係だったのだけれど。ハルはこの頃、ふとしたきっかけで思い描いてしまう。


 ――リュウと一緒に学校に行ければ、毎日が楽しいのだろうか。


 二人で過ごした夏休みと同じように遊び、勉強をして、机を並べる。

 ずっと、そんな日々が続く。続いてゆく。


「……ありえない」


 夜、布団の中でいつものようにそんな夢想をしてみて、ハルは苦々しく呟いた。

 そもそも、想像の中のハルは少年の姿をしている。現実の自分はまぎれもない女だ。


 なら――女だ、と言ってしまえば、どうだろう。

 リュウは驚くだろうか、怒るだろうか。ただひたすら頭を下げて「でも、最初に勘違いしたのはそっちだろう」なんて軽口を叩くハルを、仕方ない、と笑って許してくれるだろうか――。


「…………ありえない」


 もう一度呟く。ハルはそのまま眠りに落ちた。

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