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光の庭、夏の夢幻  作者: xxx
序・一章
1/7

序・それはある刹那の風景

 ただそこにあるだけで価値があるもののように、少女はその手に身を任せようとしていた。

 少し節くれだってごつごつとした大きな手は強烈な存在感を示し、少女は否応なくそれが『大人』のものであることを意識する。長い指はなめらかに少女の頭を、頬を撫でて、唇へと滑っていった。

 少女は固く目を閉じる。

 けれど、少女の柔らかな唇に触れようとした刹那、その指は動きを止めて――。


「……今日のことは、誰にも内緒でいよう」


 言葉と共に、その手は離れていった。

 その内側に含まれた拒絶に、気付かないはずがない。


 声の主が浮かべた笑顔はあくまで温和で穏やかなもので、少女を見つめる視線の優しさも常と変わることはない。

 大きな手が動いて窓が開けば、まるで先ほどまでの光景が嘘であったかのように空気が変わり、流れ込んできた風でオフホワイトのカーテンが翻った。



 すべては否定された――――。



 少女は俯いたまま、勢いよく教室から走り去る。

 リノリウムの廊下に反響する自分の足音がやけに軽く聞こえて、それがかえって少女の心に現実感を取り戻させていた。


(気持ち悪い)


 体の奥からこみ上げる吐き気。指先から、足先からずるずると抜けていく力。


(……気持ち悪い!)


 不快感の理由もわからないままに、少女はただ走って、逃げた。

 逃げ続けた。

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