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第004話 勘違い

 グッ! 腕に衝撃が来るが、なんとか変身が間に合った事で、黒焦げになるのは防げた様だった。 


 腕を顔の前でクロスさせてガードした隙間から辺りを窺うが、煙が酷くて視界が効かない。赤ん坊は無事か!? 身を低くして敵からの追撃を警戒しながら背後にいる赤ん坊にチラリと目をやった。しかし赤ん坊はそこにはおらず、視界に入ったのは――畑だった。


「ん? なんで?」


 つい口から疑問が溢れてしまった。腕を下して、辺りを見回して見るが赤ん坊も、怪人もいやしない。当然ながらアウトレットモールも、欠片も見当たらない。ザ・畑だ。


 しかし、人っ子一人いないかと言えばそれも違う。手ぬぐいを首に巻いて、麦わら帽子を被り、クワで身体を支えているおじいさんが、口をぽかんと開けてこちらを凝視していた。


 だ、だれ? 僕も内心そんな事を思いながらも、口を開く事は出来ず、二人揃って沈黙してしまった。


 先に復活したのはおじいさんの方だった。


「いんやー。おどれーたぁ! いきなし、どでかい音がして煙が晴れたらあんたがおるんだもんなー、どしたんでー?」


 なんだ、何が起こってるんだ?


 このおじいさんは誰なんだ?


 赤ん坊は? 怪人は?


 混乱してしまって黙り込んでる僕に、おじいさんは再度話しかけてきた。


「あんたー、でぇじょうぶかー? どっか痛いんかー?」


「あ、いや、大丈夫です。ちょっとビックリしてしまって」


 僕がそう答えると、おじいさんも頷きながら


「だよなぁー! おらもこったらおどれーた事は、久しぶりだあ! 煙がうーんと出てたしなあー」


 楽しそうに笑う。


「すいませんおじいさん。ここはどういった場所なんでしょうか」


「んー? あんたー、ここがどっかわからんとかー? 岡南村さー」


 岡南村? 聞いたことないな……。


「おかなんですか? こうなんではなく」


「そうさー。こうなんなんて聞いたことないべ」


 うーん。当てが外れたか。岡山のどこかかと思ったんだけどな。聞いたこと無い地名か……。


「だどもー、あんたの恰好は変わっとるなー」


 ん? 僕の恰好が変わってる?


 あ! まだライオンに変身したままだった! でもそれを考えると、このおじいさんやけに落ち着いてるな……。


「いや、これはですね! 消して怪しい者ではないんで――」


「わがった! あんた歌舞伎者じゃろお! さいぎん大江戸の方で、はやっちょるっていってたもんなー。若いもんはええなー。かっこええしー、強そうじゃのお」


 歌舞伎者?


 こっちが説明する前に、歌舞伎者と言って納得してしまったおじいさん。


 しかも、大江戸って言ってたな。現代なら、時代的に言って大江戸って言葉は使わないだろうし……。これは……いやいや、まだ納得しませんよ僕は!


 とりあえず、歌舞伎者って事で話を通す事にしよう。混乱は少ない方が良い。


 歌舞伎者って確か、異様な服装や、異様な言動をする。簡単に言えば変わり者って感じで捉えたらいい話だろうし。


 まぁ、ライオンのタテガミがもさもさなのに僕は平凡です、では通らないわな。確実に変わり者だ。


「そげんしても、こったら遠くまで、よーきなさったなあ。ちょお、うちによって行きなされ」


 このおじいさん、言葉が無茶苦茶だな。色んな地方の方言がまじりあってる感じがするぞ。まぁなんとなく何が言いたいか分かるからいいけどさ。


「いいんですか、おじいさん。僕なんかを家にあげて」


「なんもー! かまやーせん。ばあさんも、こげな立派な歌舞伎者みたら、よろこぶでー。ゆうても、おらー歌舞伎者を見るのは初めてなんじゃがなー」


 そう言いながら楽しそうに笑うおじいさん。


 その顔を見ていたら、こっちまで楽しくなってくる。


 赤ん坊のことは……、こうなっては残りの戦隊仲間に任せるしかない。


 それに、今の現状、僕は……。


 嫌な予感がする。


 ……。いや、もう少し希望を残しておこう。やはりそんなに簡単には割り切れないからな。


 とりあえず、おじいさんの家にお邪魔にしよう。



 〇 〇 〇 〇



 おじいさんの案内でしばらく歩く事三十分。


 申し訳程度の木の柵で囲まれた村に到着した。


 この柵意味あるのかなー。も少し間隔を狭めた方が良いと思うんだけど……。


 余計なお世話か。


 そんな残念な木の柵の果てには、そこそこしっかりした門と門番が待ち構えていた。


 いやいや、ここがしっかりしてても、横のボロい柵から素通りでしょうよ。どうなってんのこれ。流石に納得できない。


 柵の事をおじいさんに質問しようとしたら、先におじいさんが門番に話しかけた。


「けえったぞー! はよう門を開けてくれー」


「わかったわかった、じいさん。そんな大声出さなくても、きこえとるって!」


「そーかー」


 またおじいさんは楽しそうに笑う。


 じいさんはいつまでたっても変わらんなーと話していた門番が、僕に気付いた。


「ん? あんたは誰だ?」


 いきなり僕に話を振ってきたので若干慌てたが、不審者だと思われても困る、ここはきちんと身分を説明しなければ。


「あっ、僕は――」


「こんひとはなー。大江戸から来なすった歌舞伎者さー! おらー初めて見たけんど、すごかろー」


「おぉ! 大江戸から来なすったのか! 通りで見たことが無いと思ったわ! すごいなー!」


 僕が説明する前に、どんどん話が進んでしまう。


 まぁ、歌舞伎者って事で、警戒されてないみたいだし良いか。


 僕の記憶の中の歌舞伎者って乱暴者も居たはずなんだけど、この時代の歌舞伎者はそんなことないのかな。それとも情報がまだ届いてないんだろうか?


「さぁさ! こっちだど。こられいこられい」


「じいさんの家に行くのか、おれーも後で寄らせてもらうわ」


 おじいさんの手招きに従って、村の中を歩く。


 藁ぶき屋根と土の壁……。凄いな……。僕が居た2128年には存在しないはずだ。やはりここは……。


「おーい、こっちじゃこっち! そっちじゃないぞー」


 いつのまにかおじいさんと逸れてしまっていた様で、おじいさんが声を掛けてきた。


「今行きます!」


 一軒の家の前で、庭に向かって何か会話をしているおじいさん。知り合いでもいるのだろう。


「すいません。ぼーっとしてました」


 そう言いながら駆けより、おじいさんが見ている方向を見ると、驚いた様な顔をしたおばあさんがいた。


「あんれー! ほんまに歌舞伎者じゃー」


「じゃけー、おらがいっただー! ばあさんちゃーしんじんのだもんなー」


「おじいさん機嫌なおしてーな。あたしゃーがわるかったけん」


「もーばあさん! ゆるすぅ」


「あっはははは」


 なんなんだ、この仲良い二人は。いや普通に考えて夫婦なんだろうな。ここがおじいさんの家か。


「あんれー。ごめんなー。お客さんほったらかしにしてしもうてー。つい話し込んでしもたー」


「いえいえ、僕も突然来てしまって申し訳ありません」


「なんもー、さぁさ。あがってあがって」


 お邪魔しますと声を掛けて、家に上がった。


「いんやー。大江戸の歌舞伎者さんは、礼儀正しいなあ!」


「だべー。それにこの恰好すごかろーばあさん」


「ほんまにすごいなー」 


 はははは……と愛想笑いで会話を乗り切る僕。



 〇 〇 〇 〇



 思考が働かない頭で、なんとなく雑談をして過ごしていたら、お客さんが次々とやってきて気が付けば座敷はギュウギュウの鮨詰め状態だ。


「はえー。こちらが大江戸から来なすった、歌舞伎者さんかえー」


「すごかなー」


「身体全部が黄色かねー! 綺麗かー」


「ほんまになー」


「ちょっと、触らしてもらってよかね?」


 そういって、こちらの返事も待たずに触ってくる初対面のおばさん。


「ちょっと! 千枝さんずるかー! あたしもさわらしてー」


 おいおい、あんたもかい。


「凄い! サラサラだわあ!」


「え! サラサラ!?」


「あんたらもさわってみー」


 こらこら、勝手に許可を出すんじゃな――――アー!


 どこ触ってんだ! いくら僕がグイグイ前に出れない日本人だからって、初対面の人間の大事な部分を無断で触るんじゃない! 


 遠慮ってもんを知らないのか! って――アッ。


「こりゃー! おめたち、いくら歌舞伎者さんが珍しいゆうても、そったら触ってはご迷惑になろうが! 散った散った!」


「はーい」


 姿は見えないが、どこかの誰かの一喝で、僕を揉みくちゃにしていた村人たちは散って行った。


 えらいめにあったぜ。


 やれやれ、タテガミが乱れてしまった。手櫛でなんとか……。


「すまんのー、歌舞伎者さん」


「あぁ、おじいさんでしたか、助かりました」


 苦笑いしながらも、正直に助かったとおじいさんに告げた。


「大江戸からのお客さんやこー滅多にこんうえに、歌舞伎者ゆうたら、初めてじゃけん。皆興奮してしもうてー。ほんまに申し訳ないー」


 そう言いながら頭を下げるおじいさん。


「そうですか、それなら仕方がないですね」


 またも苦笑いしながら、応えるとおじいさんが


「きょーはもう、おそいけん。おらんちーで、ゆーにしていってくれろー」


 おじいさんから、今日はもう遅いから家でゆっくりしていってくれと言われ、僕はその話を受ける事にした。


 こうしてその日は、おじいさんの家で玄米のご飯と芋を煮たものをごちそうになって床に就いた。農民の夜は早い。日が暮れたら寝るのだ。そして、日が昇れば起きる、当然の流れだ。


「今日は色んなことがあったなー、起きたら夢だといいなぁ」


 そして、横になってすぐ、深く深く意識が沈んでいった。


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