軌跡
花柄のハンカチにくるんだ遺体を、庭の隅っこに埋める。手を合わせると、朝食の支度をしているアンのもとへ帰った。
「ちゃんと埋めてあげた?」
「うん」
大量のニンジンを刻みながら、アンが言う。あまりしゃべる気にもならなくて、ぼそりと返事をすると
「覇気がないよ。しゃんとしな」
アンが鼓舞するように言う。しっかりしなきゃ、と思うけれど、なかなか体は言うことを聞いてくれない。
「うん、がんばる」
ミスだけはしないように、人前で泣き出したりしないように、いつもより気を引き締めて仕事をした。
「ねぇ、」
夕飯の終わった食堂。残るはアンと私の夕食を食べるだけになったころ。私はアンに話しかけた。
「ラナはさ、どうしてここにきたんだと思う」
考えても分からなかった。昨日泣いていた時も、今日仕事している時も、ずっと考えていた。だけど、分からなかった。
「ラナはここまで来て、きつい思いをしてここまできて、良かったのかな。何しに来たのかな」
ぽたりと、また涙が頬を伝う。
「私、何かしてあげられたのかな」
呟いた私の頭に、そっと暖かい手のひらが乗った。
「リュート」
アンの優しい声に、また、涙が溢れる。
「あたしね、旦那がいたんだ」
何の脈絡もない話に、はっと顔を上げる。
「子供も、いたよ。一時期は」
アンの顔が苦しそうに歪んで、一筋だけ涙が溢れた。
旦那さんはね、大きな商家の人だった。跡取りを生むためだけに嫁がされたようなもんだったけど、それでもうれしくてね。旦那も優しかったし、家族もみんな優しかった。結婚式も豪華で、すごく幸せで、家族は泣いたけどあたしは笑ってた。今あたし幸せだよ、きっと幸せになるからね、今までありがとうねって。笑ってたの。
それでね、幸せに子供もできてね、お腹が順調に大きくなっていくにつれ、男の子だろうか、女の子だろうかって、あたしら夫婦より周りがわくわくしてね。それもうれしかった。自分は大切にされているって、旦那の家に必要とされているって、だから頑張って元気な子供を産もうって、思ってたの。
子供はね、生まれたよ。予定日より早かった。男の子だった。けどねその子、暴れんぼさんだったかな、へその緒が首に巻き付いてて、
アンの言葉が詰まる。いつしか滝のように頬を伝うようになった涙を、袖で勢いよく拭くと、アンはかすれた声で、
「窒息、してたの」
と言った。




