5/51
挨拶
どうでもいいことを考えていると、契約が終わったらしい。
城までついてきてくれた政府の人は、深々とお辞儀をして部屋を出ていく。
残された私が一人でおたおたしていると、国王は優しく笑ってくれた。
「はじめまして」
何気ない一言に、底知れぬ何かを覚える。
私はこれから、この人に仕えるのだ。雇われるのだ。ヘマをしたら、解雇されてしまうのだ。
そんな風に、モノのように扱われてしまうのだ。
貰われる不安と捨てられる恐怖がごちゃまぜになって、わけがわからない。
「僕は、国王のゼス。この子は息子で、レントというんだ」
国王の声が頭の中をすりぬけていく。私は何も考えられない。
「はじめまして。君は、龍というんだよね」
不意に澄んだ声が響いた。目の前には、にこやかにほほ笑んでいる王子。
「これから、よろしく」
澄んだ声に、私を覆っていた何かがほどかれていくのを感じた。
大丈夫だ。出発の前に散々父さんが言ってくれた。大丈夫だ、大丈夫。
急に肩の力が抜けて、ぺコンとお辞儀をした。
「名前をあげよう」
静かに言った国王に、なぜだかついていこうと思った。