昇天
「ラナ。聞こえる?」
もう何時間、こうしていただろうか。タオルと毛布でくるまれたラナは、弱く浅く呼吸を繰り返す。その頼りない動きにハラハラしながらも、ゆっくりと背のあたりをなでる。
お願いだからここにいて。どこにも行かないで。
ゆっくりと背をなで続ける。時々、口の方に手を当てて、かすかに息がかかるのを確かめる。そうしているうちに、いつの間にか、ラナは呼吸をやめていた。
「え……。ラナ?」
さっきまで生きていたのに。かすかだけれど、ちゃんと呼吸していたのに。心音を確かめるけれど、ラナの体から拍動は聞こえない。
いつ? いつラナは逝ったの? なんでわからなかったの。ずっとそばにいたのに。一番近くにいたのに、なんで気付かなかったの。
「うそだ…」
このままでラナが死んじゃったなんて、信じられない。だって、まだ何も言われてない。ラナが遠い道のりを経てここに来たということは、何か目的があったはずで。何かしたいことがあったはずで。そういうこと、何も聞いていない。ラナはここにきてから、一度も言葉を発していない。
ラナがこのままで死ぬわけがない。まだ、ラナは温かい。だから、大丈夫。
「ねぇ、ラナ。ラナ? 聞こえてるんでしょ、返事してよ」
大丈夫だと、思っているのに。どうして。どうして目から涙があふれて止まらないの。
「ラナ…」
「リュート」
ハッと顔をあげてあたりを見回す。部屋のドアを開けて、アンがこちらを覗いている。
「どうだい」
「あ、あのね。この子、さっきまで呼吸してたのに…」
泣いているせいで、うまく言葉にできない。
「逝ったか…」
「違うの! ラナはまだ、」
ぽそりと言ったアンのつぶやきに、思わず反論する。けれど、まだ生きてるとは言い切れずに、代わりにぶわっと涙があふれてきた。
「そうね、死んじゃったなんて信じたくないよね」
そっと部屋に入ってきたアンに背中をさすられ、さらに涙があふれる。
「泣きなさい、今は思いっきり」
優しいアンの声に、声をあげて泣いた。




