後日
町は沸いた。あの森の悪い魔女を倒すことができたと、あの魔女を倒した乙女をこの国の姫にと、それはそれはすごい盛り上がりようだった。
「でも私、本当にいいことしたのかな」
そんな中、私だけは何か釈然としない思いが残っていた。
ミンフィスを庭で遊ばせながら、ぼんやりと空を見上げる。
あのとき私は、確実に龍だった。あんな風に自分が変化できるなんて。すこしだけ胸が躍るけれど、変化の仕方は覚えていないし、何より、
(レイチェルさん…)
私は、よりにもよって神聖な龍の姿で、人を一人殺してしまっている。
いくらレイチェルさんが悪者だったからって、いくら王と争っていたからって。人の命を奪うことで、すべてを解決に持って行ってもいいの? 平和になった。
リュートはよく頑張った。いくらそんなことを言われても、私はこれで良かったと言い切れない。
つい先日、持っている中で一番上等な紙で包んだ灰を思い出す。
実はあの日、どうしても釈然としなくて、レイチェルさんだった灰をこっそりと持ち帰った。持っているからと言って胸のもやもやが解決することも、レイチェルさんが戻ることもないのはわかっているけれど、どうしても捨てることはできず、供養のつもりで私の鏡台の奥にしまってある。
もしも。
もしも、私が龍じゃなかったら。
レイチェルさんを殺すことはなかったかもしれない。けれど、王や王子を助けられなかっただろう。
もしも、私が王子をきちんと見ていたら。
そもそも王子は誘拐されなかったし、私があの森へ行くこともなかった。王が怒ったり、王子のことを心配することだってなかった。
もしも、私がここにいなかったら、生きていなかったら。
こんな経験は何もなかったことになって、私は王子にも王にもアンにも会えなくて、国の家族も少しは生活が楽で。そもそも、こんな思いをすることも、こんなことを考えることもなくて。
結局、どうすればよかったのか分からない。これからどうすればいいのかも分からない。
そんな鬱々とした気分の中、ミンフィスの遊ぶ中庭に、ふらりと一匹の猫が現れた。




