絶叫
ぐっと下降し、王子と王のもとへ向かう。幸い、二人はすぐに見つかった。
睨み合っているレイチェルさんの前に体を割り込ませる。しゅるりと、長く尾を引いていた光の糸がまとまり、小さいながらに凝縮された龍(わたし)になった。
「邪魔だよ」
いかにも不機嫌そうに眉をしかめたレイチェルさんは、ひゅっとなにかを投げつける。私はよけなかった。代わりに、前足となった手を体の前で広げる。
キーン
金属的な音がした。
レイチェルさんの投げつけたナイフが、地面に落ちる。それはトサリと音を立て、あとかたもなく消えた。
「お前、何をした!? 許さない、邪魔をするやつはゆるさない!!」
逆上したレイチェルさんが、つぎつぎとナイフを投げつける。しかし、それはいずれも私には当たらず、いささか不愉快な音を立てながら消えていく。
「何者だ、貴様」
肩で息をするレイチェルさんは、きっと私をにらむ。
「邪魔だ、邪魔だ邪魔だ邪魔だ!!」
狂ったように叫んだレイチェルさんが手を振り上げる。何か技をかけようとしたのだろうが、そんなこと最後までさせない。長く伸びた尾の光でレイチェルさんをからめとると、ぴたりとレイチェルさんの動きが止まった。
「お前、何を、何を!! う、うわぁぁぁぁぁああああああああああああ」
絶叫は強烈で。王子と王は耳をふさいだのが見えた。
尾の光が再び自分のもとへ戻ると、レイチェルさんのいた場所にはほんの一握りの灰が落ちていた。
「あ」
もしかして。
レイチェルさんはどこにもいない。さっきまで、尾の中にいた人は、もうどこにもいない。もしかして。胸がざわざわと、嫌な風にざわつく。
私は、
「お前は、リュートなの?」
王子の声がするようだけど、耳に入らない。
「よく、やった」
王の声も同様。私には、周りの声よりも、
人を、殺してしまった?
そのことで、頭がいっぱいで。はっきりと知覚した瞬間、急に怖くなった。頭が真っ白になる。
重々しくも高ぶっていた気持ちが落ち着き、大きくなっていたような気がしていた身体はどんどん小さくなっていく。
私は人を、いくら敵だとはいえ、レイチェルさんを、たった一握りの灰に。自分の力で、自分の意志で、人を殺してしまった。人の生命を奪ってしまった。神にも値する獣の姿で、神でさえも扱えぬ命を。
王子の声がするけれど。
王が私の頭をなでるけれど。
これでいいのだろうか。これでうれしいのだろうか。
私は。
王子を助け出せて、王に褒められて、それで満足? この満足は、人の命の上に成り立つもの?
ぐにゃりと、視界が歪んだ。




