脱出
ここからどうやったら出られるだろう。
王子に、王に危険を知らせるためにはどうしたらいいだろう。
身をよじっても、体に巻きついた縄はどんどん食い込んでくる。力を抜いた瞬間襲ってくる空腹感にも、いい加減堪え切れなくなってきた。
この縄を解くには、私か外に出るためには。懸命に考える私の頭は徐々に曇っていき、ブラックアウトしかけたその時。
「…っ!!」
轟音とともに、椅子ごと体が吹き飛ぶ。壁に打ち付けられたかと思えば、その衝撃で体が横倒しになった。
王の怒鳴り声がする。王子の叫ぶ声も、レイチェルさんの狂ったような笑い声も、全部聞こえる。
あぁ、来てしまったんだ。王は、王子は、私を助けに来てくれたんだ。
うれしいけれど、でもそんなの、レイチェルさんのおぞましい復讐を受けるためだけにきたようなものだ。私は助からないと思うし、王や王子の命も危ない。
私を殴っていた時のあのレイチェルさんの瞳に宿った狂気に、叶うものなど何もない。
私の直感だけれども、それはしっかりと根拠を持った理由かのように私の中に根付いていた。
背もたれに回されている右腕に椅子と体の重みがかかる。逃げることなどできない。じたばたすればするほど苦しくなる今の状況に、なぜだか泣きたくなった。
『困ったら、目を閉じるんだ。意識を視界以外のすべてに集中させろ』
そう教えてくれたのは、誰だったか。唐突によみがえる声に身を任せ、そっと目を閉じる。つつっと目尻から流れた生暖かい液体が顔を濡らすのを、意識して頭の隅に追いやる。
感じろ。
強く、自分を叱咤する。
王子は今、何をしている。王は今、どこにいる。レイチェルさんは、ラナは一体。
誰かの気配を感じられるほど、みんな近くにはいない。
でも、ちゃんと聞こえている。王の声、王子の声、レイチェルさんの声。全部聞こえている。
そこに行きたい。
王とレイチェルさんが対立している場所へ、生きたい。帰ってくださいと言いたい。私のことは良いから逃げてと、レイチェルさんの狂気にかなわないと伝えたい。
どうすれば、助けられるだろう。
椅子ごと横倒しになった情けない姿のまま、私は考える。
まずは、ここから出よう。
ぐっと目を瞑り、おでこの中心に意識を集める。
この時、自分が何をしているかなんて、何をしたいのかなんて、まったく分かっていなかった。
ただ確かなことは、このときの私は持って生まれた才能といっても過言ではない何かに、素直に従っていたということ。




