復讐
レイチェルさんが部屋に戻ってきた。手には白いタンクを抱えている。
なにをするつもりですか?なんて質問はいらない。床にぶちまけられた、てらてらと光る液体を見れば一目瞭然。
あれは油だ。そしてこの人は、火をつけるつもりだ。
「もうすぐ、王子がくる。それと一緒に、王も来る」
歌うようにレイチェルさんが言う。
「ついにきたんだ、復讐の時が」
嬉しそうに笑った横顔が、油でぬるりと光ったように見えた。
レイチェルさんの復讐ってなんだろう。
おばさんが言っていた、犬猫での実験の成果を試すんだろうか。ウイルスをばらまくんだろうか。
それはわからない。
王子が巻き込まれ、王でさえも巻き込まれる復讐は、どれほどすさまじいものなのだろう。
ラナとかに聞けば分かるんだろうけど、聞きたくなんてない。
王子が来てしまう。それは事実か、脅しか。どちらでもいい。
ただ、王子はここに来ないでほしい。もちろん、王も。
すべての原因は自分だ。全部私が悪い。そんなの分かってる。王も、王子も、分かってるはずだ。だから、私は王子が無事だと分かれば、それでいいから。自分も命が助かることなんて、まったく考えていないから。
だから。お願いだから、こんなところに来ないでほしい。
みすみすと捕まるような、下手すれば殺されてしまいそうなこんな場所へ、私を助けるためだけに来ないでほしい。
でも残念なことに、そんな願いはいつだって儚いもの。
――――どこか遠くで、王子の声がした。
レイチェルさんがゆったりとした足取りで部屋をでる。ラナも窓から飛び降り、外へ出た。
残されたのは私ただ一人。
ふいに、とてもつもなく大きな不安が、私を責め立てた。




