悪意
ずっと死にたかった。
そんな自分の本音に、また涙があふれる。
どうして、親からもらった命なのに。どうして、国の生活は苦しいけれど楽しかったのに。どうして、こっちの生活だって、十分満足してるのに。
なんで死にたいなんて思ってたんだろう。今も思ってるんだろう。
おかしい、こんなのおかしい。私はこんな人間じゃないはずだ。どんなに苦しくても、お父さんに
「死ぬな」
とだけ言われて生きてきた。それなのに、死にたいだなんて。
今まで直視してこなかった自分の内面はあまりにも醜い。
「おや、よく泣くねぇ」
声のした方向を見れば、レ二アさんが立っていた。
「ラナが言ってたよ、興味深い子だって。ま、そんなのあたしには関係ないけど」
ゆっくりとレ二アさんが近付く。私を睨む瞳が、怪しく光る。
「レ二ア、さん」
ヒュッ
「聞こえなかったかい?それとも、忘れた?」
気迫に押されて一歩下がれば、自分の顎に隠れて見えなかったナイフが視界に入る。この人は、たった一瞬で私の喉元までナイフをもってきたのか。油断ならない人だ。
「レ二アって呼んだら殺すと、忠告したじゃないか」
そういえば、そんな気がする。催眠ガスをまかれた時、『レ二アと呼んだら殺す』と脅された。
「ごめんなさい」
「謝ってすむことかい?忠告はしていたのにねぇ」
楽しそうにナイフを回すレ二アさんは、獲物をどう料理しようか考えているようで、とても楽しそうなのが逆に怖い。
「あの、お名前は」
「そうか、名前を言っていなかったか。あたしはレイチェル。だけど、あんたなんかに名前を呼ばれるなんて我慢ならないね」
そこまで言って、レイチェルさんはナイフを床に投げる。
「ほんと、腹立たしいわぁ」
憎々しげに見つめるナイフは、私の足がある数cm先の床に、ざっくりと傷跡を残して刺さっている。あと数cmずれていたら、と思う恐怖に身が震える。
「まぁ、とりあえずは貴方様とでもお呼び」
レ二ア、もといレイチェルさんは蔑んだように私を見下ろして言った。口調は冗談めかしているけれど、目が本気だ。次にレ二アさんだなんて呼んだら、間違いなく私の命は途絶えるだろう。
「貴方様、ですか」
「そうよ、良い子ね」
満足気に踵を返すレイチェルさんは部屋を出て、廊下から何かを引っ張ってくる。
「さ、ここで大人しくしていなさい。下手に動いたら、どうなるか分かってるでしょ」
連れて来れられたのは、王子だった。いまだに、椅子にくくりつけられている。
「じゃ、お二人で」
ひらひらと手を振ってドアを閉めるレイチェルさんは、どこか妖艶で。それゆえに、恐ろしくて仕方がない。
「リュート」
「は、はいっ」
突然のことに声が裏返る。首輪のようなものをつけられた王子は、ボロボロで、殴られたような跡が顔にも手足にもあった。
「ここから、逃げよう」
王子の漆黒の瞳が、なぜか赤茶けていた。




