絶望
あんた、安売りの子だろ。
黒猫が、平然とした声で言う。
「記憶を、見させてもらったよ」
ペロペロと前足を舐めている黒猫が、今目の前に居る。でも、今の私には何も考えられない。なぜって、
安売りの子、安売りの子、私は、安売りの子――。
同じ言葉がぐるぐる回る。目の前なんて見えない。
安売りの子。
それは、安く売られた子供のこと。それは、私自身。
安く売られた。
そのことは、生活の足しにならないことを意味する。
せっかく売られても値段は安く、家族の生活を助けられていないということ。
そっか、私は。やっぱり、私は。
安売りの子だったんだ――。
怒りとか屈辱とかではない。ただ、言いようのない絶望感が体中に広がる。
本当は、離れたくなかった。家族とずっと一緒にいたかった。
生活なんか、苦しくていい。貧しいのは辛いと、嘆いていてもいい。
私は家族と、いたかったのに。
大好きな家族を守るために、助けるために、私は売られていったのに。
そんな想いがあっても、所詮、私は安売りの子。向こうの家族は、楽になってなんかいないのだ。
こんなことになるくらいなら、売られなければよかった。
外国になんか行かないと、駄々をこねればよかった。
苦しさと後悔がないまぜになって、涙を形作る。それは、次々とあふれ出して止まらない。
たかが黒猫の一言に、これほど胸が締め付けられるとは、思いもしなかった。




