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疑心
確かに、私は良いところに売られていった。
国王も、王子も、アンも、みんながみんな優しい。温かくて、本物の家族みたいだ。
でも、それでも。
私が売られたという事実は変わらない。
私に接してくれるこの優しい人たちは、私の家族ではない。
もしも。
もしも、だ。
私がここにいなかったら?
この世界に生まれてこなかったら?
母国での生活は、少し楽になってたかもしれない。
私が今まで食べてきた分の食料は、少しずつ兄弟たちの口に入るはずで。
そしたら、兄弟たちは飢えることもなく。変な木の実を食べて、お腹を壊すこともなく。
この国に引き取られてからだって、そうだ。
王子が誘拐されることも、国王に嫌われることも、アンやミンフィスに迷惑をかけることもなかったかもしれない。
私が人知れず、苦しんで泣くこともなかったのに。
それなのに。それなのに私は、この世に生まれてきてしまった。
苦しみを背負い、同じ分だけ人に苦しみを背負わせて、私は今も生きている。
人を苦しめるだけなら。
家族を飢えさせるだけなら。
国王や王子を面倒事に巻き込むくらいなら。
私は、死んだ方がいい。




