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催眠
レ二ア、だよ。
レ二アさんから漏れた言葉に、目をみはる。
思えば、“貴女のことは知っている”だの“誘拐犯が、自分から誘拐しましたなんて言わない”だの、いかにも何かを知ってそうな口ぶりだった。
そうか、『何かを知っていそう』だったのは、その『何か』を起こしていたからだったのか。
今更納得してみても、もう遅い。事態は、取り返しのつかないところまで来ていた。
ポンッと、何かが投げられる。私と王子の足元に落ちたそれは、唐突に煙を吹き始めた。
「なっ」
煙に驚き飛びのいて、逃げようと駆けだした王子がこける。私も後ずさってみたが、上手く体が動かず尻もちをついてしまった。
「それね」
いつのまにかマスクを装着したレ二アさんが、面白そうに言う。
「催眠ガス。体が動かないでしょう。何となく眠いでしょう」
うふふ、と可憐に笑って見せた目元が、鋭く光る。
「ちなみに、あたしはレ二アじゃないから。今後、レ二アって呼んだら、殺すよ」
物騒な言葉とともに、レ二アさんではない誰かが、光の向こうへと消えていった。
残念ながら、私の意識はそれっきりだ。




