夢中
夢を見ているようだ。
温かくて、優しい光に包まれている。
それは、以前住んでいた竹藪の木漏れ日によく似ていて、懐かしさに胸がキュッとなった。
ふらりと隣に誰かが座ったような感覚がして、私はそちらに目を向ける。でもそこには、ただ光があるだけだった。
ふいに、耳元で声がした。ゆらゆらと揺らぐように、体の奥から聞きこえる声。
憎く、ないの
女性だ。それも、若い人。
でも、誰だろう。
貴女を国から引き剥がした、あのリヴォルト家が
リヴォルト?それは何?
私はなごみに住んでいる、はず。
憎く、ないの
「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」
呼び起きれば、辺りはもう真っ暗。寝ていた地面は、汗を吸いこんだようで湿っている。視界の端で、おそらく私の声に驚いたのだろう、猫が走り去っていくのが見えた。
あの夢は、あの声は。一体、何だったんだ。一見柔らかそうで、でもおぞましかった。
底知れぬ、憎悪を思い出させた。
自分で言葉にして、ふと、妙な安心感を覚える。
「底知れぬ、憎悪」
声に出して行って見れば、その言葉はしっくりと自分の心のうちに当てはまった。
そこまでして、私は初めて気付く。
私はなごみに、リヴォルト王国に、底知れぬ憎悪を抱いているのだ。
だからか。だから、あの声がおぞましかったのだ。
醜い私をさらけ出しそうで。あんなに温かかった家族を、良い思いをさせてくれる城のみんなを、すべて裏切ってしまいそうで。
恵まれていると分かっていながら、それでも家族と引き離したリヴォルト王国が憎い。
仕方がないからと、人身売買を提案したなごみが憎い。
そしてその提案に乗った、なごみにいる家族も憎い。
いつからか、私の心は醜く歪んでいた。見るだけで吐き気を催しそうなほど、どす黒く変色していた。
そしてそれを覆い隠すように、私は笑顔の仮面を顔に貼り付けていた。ずっとずっと、今まで。
あぁ、なんで気がつかなかったのだろう。全ては、報いだ。
我が身よりもまず、国を、家族を、雇い先を呪った罪。その報いを、今受けているのだ。
たかが、失踪。たかが、誘拐。たったそれだけのこと。
国王の魔術を使えば、いとも簡単に連れ戻すことが出来るのだ。それなのになぜ、私はこんなにも動揺しているのか。
それは、好きだから。
この国が、王子が、国王が、アンが。みんな、大好きだからだ。
嫌いだ、憎いと言っていながら、いつしか私にとってかけがえのないものとなっていたリヴォルト王国。
一体どうして、私は気付けなかったのだろう。心の中の、この大きな存在に。
ぐっと唇をかみしめ、私は今にもあふれ出しそうな涙をこらえた。




