支度
ああ、頑張らないと。
部屋に戻り、支度をしながら思う。
王子を見つけないと、助けてあげないと。私は、国に帰ることもできなければ、城に戻ることすら許されない。
リュックに、衣服と食料とお金を詰め込む。もうすでにパンパンで重いが、もうひとつ、私にとっても必需品があった。
私はタンスの中をゴソゴソとあさって、唯一この国に持ってきたものをとりだす。
出てきたものは、一本の小刀。
これは私の味方だ。父さんがくれた、たった一本の宝物。
あの国にしては贅沢品で、惜しげもなく細かな細工が施されている。これは、父さんが一時期働いた工場で異国人からもらったらしい。
何かあったら使え、と異国に送り出す前に手渡してくれたのだ。
そっと小刀を床に置き、一歩下がって床に直接正座する。そのまま手をつき、私は深々と頭を下げた。
傍から見れば、小刀にお辞儀をしている変な人だ。でも、私は祈りをささげる。
これが、私の国の礼儀。
人にも物にも敬意を払う。
物を使う時は心の中で一瞬でも“よろしく”と言う。
大きなことを始めるときには、それを手伝ってくれる仲間、道具にきちんと挨拶をする。
終わってからも、挨拶。深々と頭を下げ、心の中で祈る。うまくいきますように、と。
そんな礼儀が、わたしの国にはあった。
王子が無事に見つかりますように。
それだけを一身に願い、私は小刀をベルトにさした。
これからは、こいつで全てを乗り切る。刃物一本あれば、なんだってできるのだ。
森で迷っても、どこかで一人ぼっちになっても、なんとか乗り切れるように私はできているのだ。
そう、両親から教え込まれているのだ。
私はできる。なんだって、できる。
鏡の中の私にガッツポーズを見せれば、不安で歪んでいた顔が少しはマシになった。




