過去
もともとは、別の国の人間だった。
島国で、小さくて、何も無い。資源がないせいで貧しく、文明も遅れている。異国人の手が入っても、上手くいかない。
そんな、人ばかりが多い『なごみ』という国で暮らしていた。
ウチは貧乏の子沢山で、貧しかった。竹藪の中にある家のせいで畑がなく、自給自足もままならなかった。
竹を売っても贅沢品とされているがゆえに、たいして売れない。筍は時期が限られているし、とても生活が出来るほどの稼ぎはない。
私の家では、せいぜい大人4人分の食料で、大人2人と子供6人を養っていた。当然のように、みんな飢えていた。
兄弟達は、飢えのあまりに名も分からぬ木の実をおやつにし、それぞれが働きに出ていた。みんなで、家計を支えていたのだ。
でも、それでも、足りなかった。
どこの家でも同じ。働いても働いても、食べ物が足りなかった。
飢餓で死ぬ者が増え、異国人が手掛けた工場は潰れ、そのせいで働く先がなくなる。そしてまた、飢えるという最悪のサイクルの中にあった。
そんな中、国家は何を考えたのだろうか。貴重な資源である紙とインクを使い、国民全員に手紙が来た。
『子供を募集する。男は異国の工場で働かせ、女は異国の家政婦とする。雇い先には親宛てに仕送りをするように言っておく』
短くて、分かりづらくて、なにより意味不明な文章だった。
でも、世の中の親たちはこう考えただろう。
よく分からないが、子供を異国に出すことで自分には金が来るらしい
と。
豊かな国で暮らしている人には分からないかもしれない。けれど、この政策で家族の口が一つ減るのだ。何もしなくても、異国から金が届くのだ。
一見、メリットしかないように見えた。
実際、メリットしかなかったのだ。
売られていく子供以外には。